統計熱力学入門 第5章 §5.1 ★★★ Ξ=∏jΞj の因子化から ⟨nj⟩=1/(eβ(ε−μ)±1)。量子統計の核。
本書では理想量子気体の各問題を解いていくが、その前に、以降くり返し使う道具を最小限だけ整理しておく。基礎的な導出は要点のみに留め、詳しい説明は各章で必要になった箇所に譲る。
量子力学において同種粒子は原理的に区別できない。番号は計算の便宜で振るだけで、粒子 1 と 2 を入れ替えても物理(観測できる確率 ∣ψ∣2)は変わってはならない。2 粒子状態を ψ(1,2) と書くと入れ替えは ψ(2,1) で、∣ψ(2,1)∣2=∣ψ(1,2)∣2 より ψ(2,1)=cψ(1,2)(c は位相)。入れ替えを 2 回すれば元に戻るので c2=1、したがって c=+1 か −1 のいずれかに限られる:
ψ(2,1)=+ψ(1,2) ⇒ Bose 粒子(対称),ψ(2,1)=−ψ(1,2) ⇒ Fermi 粒子(反対称).
反対称性からただちにPauli の排他律が出る。二つの Fermi 粒子を同じ 1 粒子状態に置くと、入れ替えても中身が同じで ψ(2,1)=ψ(1,2) だが、反対称性は ψ(2,1)=−ψ(1,2) を要求するので ψ=−ψ=0、つまりそんな状態は存在しない。ゆえに一つの状態を占める Fermi 粒子は高々 1 個である。どちらの粒子になるかはスピンで決まり(スピン統計定理)、半整数スピン(s=21,23,…)が Fermi 粒子、整数スピン(s=0,1,…)が Bose 粒子である。スピンの内部自由度の数は g=2s+1 である。これは、スピンの z 成分 ms が ms=−s,−s+1,…,+s と、−s から +s まで1 きざみ・両側対称に並ぶ(角運動量の代数の帰結)ため、その段数が (s−(−s))+1=2s+1 になることによる(+s 側だけでなく−s 側もあるので s+1 でなく 2s+1)。したがって s=0 なら ms=0 の 1 個で g=1(問題 IV のスピンレス Bose 気体)、s=21 なら ms=±21 の 2 個で g=2(電子の ↑↓、問題 II)となり、これが状態密度の前因子に効く。
理想量子気体では粒子間相互作用がないので、1 粒子準位 j(エネルギー εj、j=1,2,…)を基底にとれば、多体状態を指定するのに必要な情報は「各準位に何個入っているか」という占有数nj だけである。系全体のエネルギーと粒子数は E=∑jnjεj、N=∑jnj で与えられ、占有数の範囲が統計性を決める:Fermi は排他律から nj∈{0,1}、Bose は制限なく nj∈{0,1,2,…}。

図 5.1 低温での占有の違い。Bose 粒子(対称)は同じ最低準位に何個でも集まれる(凝縮)。Fermi 粒子(反対称)は排他律で 1 状態 1 個(スピン ↑↓ で 1 準位 2 個)しか入れず、下から積み上がって最高被占準位が Fermi 準位 εF になる。入れ替えの符号 ± が、この占有の違い、ひいては分布 1/(eβ(ε−μ)±1) の ± を生む。
粒子数が変化しうる開いた系として扱う大正準集団(前章 §4.3)では、温度 T(逆温度 β=1/kBT)と化学ポテンシャル μ を固定する。ひとつの配位{nj}=(n1,n2,…) の重みは、E=∑jεjnj・N=∑jnj が和なので指数の肩でも和になり、ea+b=eaeb によって準位ごとの積にほどける:
e−β(E−μN)=exp[−βj∑(εj−μ)nj]=j∏e−β(εj−μ)nj.
大分配関数はこれを全配位について足したものΞ=∑{nj}∏je−β(εj−μ)nj である。ここで N を固定しないので各 nj は互いに束縛されず独立に動き、多重和は ∑{nj}=∑n1∑n2⋯ となる。中身が準位ごとの積なので、「各準位から項を 1 つずつ選ぶ全組み合わせの和」=「各準位の和の積」という分配法則がそのまま使えて、
Ξ=n1∑n2∑⋯j∏e−β(εj−μ)nj=j∏(nj∑e−β(εj−μ)nj)=j∏Ξj
と因子化する。いちばん小さい例で確かめよう。準位 2 本・Fermi(各 n∈{0,1}、aj≡e−β(εj−μ))なら、左辺は 4 配位 (0,0),(0,1),(1,0),(1,1) の重みの和で、
(0,0)1+(0,1)a2+(1,0)a1+(1,1)a1a2=(1+a1)(1+a2)=Ξ1Ξ2.
「(1+a1)(1+a2) を展開する」ことと「2 準位の全占有パターンを数え上げる」ことが、同じ作業なのである。交換が成り立つ鍵は和が全配位(各準位の直積)を渡ることで、もし総粒子数を ∑jnj=N に固定すると許される配位が直積の一部(合計が N の面)に制限され、分配法則が使えず因子化は崩れる。カノニカル分布(N 固定)が因子化せず、グランドカノニカル分布(μ 固定)で初めて Ξ=∏jΞjとなるのはこのためである。
各準位の Ξj は、占有数の範囲で和をとるだけで求まる。Fermi は n∈{0,1}、Bose は等比級数:
ΞjF=n=0∑1ajn=1+aj,ΞjB=n=0∑∞ajn=1−aj1(aj=e−β(εj−μ)).
Bose の等比級数が収束するには aj<1、すなわち全準位で εj>μ が要る。準位 j の平均占有数は、確率 P(nj)=ajnj/Ξj による期待値⟨nj⟩=∑njnjP(nj)=Ξj−1∑njnjajnj を直接計算すればよい。Fermi は
⟨nj⟩=1+aj0⋅1+1⋅aj=1+ajaj,
Bose は ∑n≥0nan=(1−a)2a を用いて⟨nj⟩=1/(1−aj)aj/(1−aj)2=1−ajaj となる。どちらも分母分子をeβ(εj−μ) 倍すれば、
⟨nj⟩=fF/B(εj)=eβ(εj−μ)±11(上:Fermi, 下:Bose)
にまとまる(同じ結果は ⟨nj⟩=−β−1∂lnΞj/∂εj からも得られる。この式は−β−1∂εjajn=najn を使えば上の直接和と同じもの)。以降、複号は上が Fermi、下が Bose を表す約束とする。Fermi 分布は 0≤f≤1 に収まり Pauli 排他律と整合し、Bose 分布は εj→μ で発散する。とくに Bose では基底状態 ε1=0 に対しμ<0 でなければならない。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com