量子力学入門 第1部 第2章 §1.2.3 ★★ 平面波を重ね合わせて粒子を局在させる。磁場中の電子・コヒーレント状態・散乱の議論で毎回使う
(1) 平面波だけでは粒子を表せない
運動量が p に決まった状態は平面波 eipx/ℏ である(1.2.2 節)。その確率密度は ∣eipx/ℏ∣2=1 で、粒子は全空間に一様に広がっている。∫∣ψ∣2dx が発散するので規格化もできない。実際の粒子はどこかに局在しているので、平面波1つでは表せない。
(2) 運動量の少しずつ違う平面波を重ね合わせる
1.2.2 節 (3) の Fourier 積分は、そのまま粒子を局在させる処方になる。
ψ(x)=2πℏ1∫−∞∞φ(p)eipx/ℏdp
重み φ(p) が運動量 p0 のまわりに幅 σp で集まっていると、各平面波は x=0 の近くでは位相がそろって強め合い、遠くでは位相がばらばらになって打ち消し合う。こうして1か所に集まった重ね合わせを波束と呼ぶ。
重みをガウス関数に選ぶと、位置の側もガウス関数になる。
φ(p)=(2πσp2)−1/4exp[−4σp2(p−p0)2]⟹ψ(x)=(2πσx2)−1/4exp[−4σx2x2+ℏip0x],σx=2σpℏ
ここで σx と σp は、それぞれ ∣ψ(x)∣2 と ∣φ(p)∣2 の標準偏差である。運動量を広く混ぜるほど位置はよく決まり、積はいつも σxσp=ℏ/2 である。これは Robertson の不確定性関係の下限で、ガウス波束は不確定性が最小の状態になっている。因子 eip0x/ℏ は波束全体に運動量 p0 を与える。
(3) 時間がたつと、中心は古典的に進み、幅は広がる
各成分は自分のエネルギー E(p)=p2/2m で位相が回る。
ψ(x,t)=2πℏ1∫−∞∞φ(p)ei(px−E(p)t)/ℏdp
ガウス波束ではこの積分が実行でき、確率密度は中心 p0t/m、標準偏差 σx(t) のガウス関数になる。
⟨x^⟩(t)=mp0t,σx(t)=σx1+(τt)2,τ=ℏ2mσx2
中心の速さ p0/m は群速度 dE/dp で、古典粒子の速さと同じである。
幅が広がる理由は、成分ごとに速さが違うことにある。運動量の広がり σp は速さの広がり σp/m に当たり、t≫τ では σx(t)≈σpt/m となる。速い成分が先へ、遅い成分が後ろへ離れていくので、いったん干渉で1か所に集めた状態がほどけていく。初めに狭く閉じ込めた波束ほど σp が大きく、τ∝σx2 も短いので、早く崩れる。
(4) 崩れない波束:同じエネルギーの成分だけを重ねる
崩れる原因は、成分ごとにエネルギーが違い、位相の回る速さがそろわないことだった。逆に、同じエネルギーを持つ状態だけを重ね合わせれば、全成分の位相が同じ e−iEt/ℏ で回り、波束の形は時間がたっても変わらない。縮重した準位の中の重ね合わせは、それ自身が同じエネルギーの固有状態だからである。
磁場中の電子の Landau 準位はこの例で、1つの準位の中で名札 py の違う状態を重ねると、y 方向にも局在したまま止まっている波束ができる(第5部『電磁場中の荷電粒子とゲージ』)。古典的には円運動の中心が動かないことに対応する。エネルギーが等間隔の調和振動子では、異なる準位を重ねても位相差が周期 2π/ω で元に戻るので、波束は崩れずに往復する(第8部『時間依存摂動論とダイナミクス』のコヒーレント状態)。
例題 2.2
オリジナル★★ 波束の広がりの時間を見積もる。
- (1) ガウス波束の幅の式で t≫τ とすると σx(t)≈σpt/m になることを示し、その意味を述べよ。
- (2) 広がりの時間 τ=2mσx2/ℏ を、(a) 電子を σx=1 nm に置いた場合、(b) 質量 1 mg の粒を σx=1 μm に置いた場合について求めよ。
解答
(1) t≫τ では根号の中の1を落とせるので、σx(t)≈σxt/τ=ℏt/(2mσx) である。σx=ℏ/(2σp) を代入すると
σx(t)≈mσpt
となる。σp/m は波束に含まれる速さの広がりなので、十分時間がたつと、波束の幅は「速さのばらつき×時間」で決まる。初めの幅は忘れられ、古典的な粒子の集団が速さのばらつきで広がるのと同じ形になる。
(2) (a) m=9.11×10−31 kg、ℏ=1.055×10−34 Js を使うと
τ=1.055×10−342×9.11×10−31×(10−9)2≈1.7×10−14 s
である。原子程度の大きさに閉じ込めた電子の波束は、ほぼ一瞬で広がる。
(b) m=10−6 kg では
τ=1.055×10−342×10−6×(10−6)2≈1.9×1016 s
で、宇宙の年齢(約 4×1017 s)の20分の1程度になる。マクロな物体の波束が広がって見えないのは、質量が大きく τ が桁違いに長いためである。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com