量子力学入門 第1部 第2章 §1.2.2 ★★ p^=−iℏ∂x の由来。平面波・Fourier 展開・並進の生成子。
一言でいうと、運動量 p をもつ粒子の波動関数は平面波 eipx/ℏ である。これを位置で微分すると、係数として運動量そのものが出てくる。
前節では位置表示の p^=−iℏd/dx を既知として交換子を計算した。本節では、この形がどの実験事実から来て、一般の波動関数に対して何をしているのかを順に確かめる。同じ議論は時間微分とエネルギーの対にもそのまま当てはまる。
(1) de Broglie の関係:運動量 p の粒子は平面波
de Broglie(1924)は、運動量 p の粒子には波長 λ=h/p の波が伴うと仮定した。Davisson と Germer(1927)は電子線をニッケル単結晶に当て、反射強度が Bragg 条件を満たす角度で極大になることを観測した。その角度から求めた波長は、加速電圧から計算した電子の運動量を h/p に代入した値と一致した。こうして次の関係が実験で確認された:
p=λh=ℏk,k=λ2π.
波数 k をもつ最も単純な波は平面波
ψp(x)=eikx=eipx/ℏ
である。余弦波でなく複素指数関数を使う理由は、余弦波が向きの逆な2つの平面波の和
coskx=21(eikx+e−ikx)
であり、運動量 ±p の重ね合わせだからである。運動量の向きまで確定した状態は eikx の片方だけで表される。なお ∣ψp∣2=1 は x によらないので、この状態では位置がまったく定まっていない。
(2) 平面波から p を取り出す操作
平面波を x で微分すると、指数の肩の係数が前に出る:
dxdψp=ℏipψp.
両辺に ℏ/i=−iℏ を掛けると
−iℏdxdψp=pψp
となる。これは演算子 −iℏd/dx の固有値方程式である。固有関数は平面波 ψp で、固有値は運動量の値に等しい。
したがって p^≡−iℏd/dx と定めると、運動量が確定した状態(平面波)がちょうど固有値 p の固有状態になる。係数のうち ℏ は、微分で出てくる波数を運動量 p=ℏk に換算する因子である。係数 −i は、微分で出てくる i を打ち消して固有値を実数にする因子である。仮に ℏd/dx を使うと、固有値は純虚数 ip になり測定値として意味を持たない。
この −i はエルミート性とも対応している。部分積分(境界で φ,ψ→0)により
∫φ∗dxdψdx=−∫(dxdφ)∗ψdx
なので、d/dx 自体は反エルミートである。虚数単位を1つ掛けるとエルミートになり、観測量の条件(実固有値)を満たす。符号を −i に選ぶ理由は、正の向きの運動量の状態を e+ipx/ℏ で表すと約束しているからである。
(3) 一般の波動関数:Fourier 展開で平面波に分ける
一般の ψ(x) は平面波ではない。しかし Fourier 積分によって平面波の重ね合わせとして書ける:
ψ(x)=2πℏ1∫−∞∞φ(p)eipx/ℏdp.
係数 φ(p) を運動量空間の波動関数と呼ぶ。
この式に −iℏd/dx を作用させると、微分は積分の中の eipx/ℏ にだけ掛かる。各成分は (2) の固有値方程式に従うので
−iℏdxdψ=2πℏ1∫−∞∞pφ(p)eipx/ℏdp
となる。つまり位置表示での微分は、運動量空間では各成分 φ(p) に p を掛ける操作である。位置表示で位置演算子 x^ が座標の掛け算であるのと同じく、運動量表示では p^ が運動量の掛け算になる。
Born 則により、∣φ(p)∣2 は運動量の測定値が p になる確率密度である。Parseval の等式を使うと、期待値について
⟨p^⟩=∫−∞∞ψ∗(−iℏdxdψ)dx=∫−∞∞p∣φ(p)∣2dp
が成り立つ。x 側で微分して積分する計算は、測定値 p をその確率で平均する計算と同じ値を与える。
(4) 平行移動の生成子
ψ(x+a) を a について Taylor 展開し、指数関数の級数と見比べる:
ψ(x+a)=n=0∑∞n!andxndnψ=exp(adxd)ψ(x)=exp(ℏiap^)ψ(x)(指数関数の級数の定義)(adxd=ℏia(−iℏdxd)).
ずらす量が小さいときは
ψ(x+a)≃ψ(x)+ℏiap^ψ(x)
であり、p^ は無限小の平行移動を生み出す演算子(並進の生成子)である。平面波に当てはめると ψp(x+a)=eipa/ℏψp(x) で、平行移動は位相を掛けるだけになる。
符号に注意しておく。波動関数を正の向きへ距離 a だけずらした状態は ψ(x−a)=e−iap^/ℏψ(x) である。次々節の並進演算子 T^(a)=e−iaP^/ℏ はこちらの向きで定義してある。
この見方は解析力学の「運動量は並進の生成子」と同じ内容である。古典力学では Poisson 括弧 {x,p}PB=1 により、運動量を生成関数とする無限小正準変換が平行移動 x→x+ε を与える。Noether の定理によれば、Lagrangian が x→x+ε で不変なら、共役運動量 p=∂L/∂x˙ が保存する。
量子力学ではこれが交換子の言葉になる。ハミルトニアンがすべての平行移動 eiap^/ℏ と可換なら、ずらす量の1次の項から [H^,p^]=0 が従う。Heisenberg の運動方程式(§1.5.3)により dp^H/dt=0 となり、運動量が保存する。
量子力学では運動量をまず並進の生成子として定義し、それが自由粒子では mx˙ に一致する、という順序で理解するとよい。磁場中で正準運動量が mx˙ からずれるのはこのためで、次々節で扱う。
(5) 時間とエネルギーの対
光電効果で確かめられた Einstein の関係 E=ℏω を de Broglie は物質波にも当てはめた。時間まで含めた平面波は
Ψ(x,t)=ei(kx−ωt)=ei(px−Et)/ℏ
である。x と t でそれぞれ微分すると
−iℏ∂xΨ=pΨ,iℏ∂tΨ=EΨ
を得る。符号が逆になる理由は、位相が kx−ωt の形をしているからである。波数と角振動数がともに正なら、これは正の向きに進む波を表す。
自由粒子のエネルギー E=p2/2m にこの対応を代入すると、自由粒子の Schrödinger 方程式
iℏ∂tΨ=−2mℏ2∂x2Ψ
が出る。ポテンシャル V(x) を足したものが iℏ∂tΨ=H^Ψ である。(4) と並べると、p^ が空間の並進を生成するのと同じく、H^ は時間の並進
Ψ(t+τ)=e−iH^τ/ℏΨ(t)
を生成する。時間並進の対称性からエネルギー保存が出るのも、空間並進と運動量の関係と同じ構造である。
(6) 使い道:y,z を含まないハミルトニアンの変数分離
3次元では p^y=−iℏ∂y、p^z=−iℏ∂z である。ハミルトニアンが座標 y,z を含まず、その方向については運動量演算子だけを含むとする。このときハミルトニアンは y,z 方向の平行移動と可換であり、p^y,p^z との同時固有状態をとることができる。その形は
ψ(x,y,z)=ei(pyy+pzz)/ℏφ(x)
であり、ハミルトニアンの中の運動量演算子 p^y,p^z は固有値 py,pz に置き換わる。残るのは φ(x) についての1次元の固有値問題である。
その代表例が第5部『電磁場中の荷電粒子とゲージ』の Landau ゲージである。一様磁場 B=Bez をベクトルポテンシャル A=(0,Bx,0) で表すと
H^=2m1[p^x2+(p^y−qBx^)2+p^z2]
となり、座標は x しか現れない。運動量演算子を固有値 py に置き換えると、残る1変数の波動関数は中心 x0=py/qB の調和振動子の方程式に従う。サイクロトロン角振動数を ωc=∣q∣B/m と書くと、固有値は Landau 準位
E=ℏωc(n+21)+2mpz2
になる。統計力学の Landau 反磁性で縮退度を数えるときは、この py の取りうる値の数を数える。指数関数の形が仮定でなく固有値方程式の解として出ること、py が速度 mvy でなく軌道の中心を指す量子数であることは、第5部『電磁場中の荷電粒子とゲージ』の Landau ゲージの節で扱う。
運動量演算子が微分である理由 ★★
- 実験:de Broglie の関係 p=ℏk(Davisson–Germer)。運動量 p の状態は平面波 eipx/ℏ。
- 固有値方程式:−iℏd/dx は平面波から p を取り出す。−i は固有値を実数にする因子。
- Fourier 展開:位置表示の微分は、運動量表示での p の掛け算。
- 並進の生成子:ψ(x+a)=eiap^/ℏψ(x)。並進対称性があれば運動量が保存する。
- 時間との対:E=ℏω から iℏ∂t、そこから Schrödinger 方程式。
例題 2.1
オリジナル★★ p^=−iℏ∂x を波束・並進・変数分離で使う。
ψ(x)=(πσ2)−1/4exp(−2σ2x2+ℏip0x).
位置表示の運動量演算子を使って ⟨p^⟩ と ⟨p^2⟩ を求めよ。さらに ΔxΔp を求め、Robertson の不等式と比べよ。
- (2) 関数 f(x)=x3 に exp(iap^/ℏ) を作用させる。結果が (x+a)3 になることを、級数を項ごとに計算して確かめよ。
- (3) 次のハミルトニアンの固有関数を考える:
H^=2mp^x2+p^y2+p^z2+V(x^).
固有関数を ψ=ei(pyy+pzz)/ℏφ(x) の形で探すとき、φ が満たす方程式を書け。
解答
(1) 指数の肩を微分して
−iℏψ′(x)=(p0+σ2iℏx)ψ(x)
を得る。∣ψ∣2 は偶関数なので、奇関数 x∣ψ∣2 の積分は消える。よって
⟨p^⟩=∫(p0+σ2iℏx)∣ψ∣2dx=p0.
⟨p^2⟩ は −ℏ2ψ′′ を使って計算する。もう一度微分すると
−ℏ2ψ′′=[(p0+σ2iℏx)2+σ2ℏ2]ψ=[p02+σ22iℏp0x−σ4ℏ2x2+σ2ℏ2]ψ
となる。∣ψ∣2 で積分すると x の1次の項は消え、残りは次のとおり:
⟨p^2⟩=p02−σ4ℏ2⟨x2⟩+σ2ℏ2=p02−σ4ℏ2⋅2σ2+σ2ℏ2=p02+2σ2ℏ2(x の奇関数の項は 0)(⟨x2⟩=2σ2).
したがって分散は次のようになる:
(Δp)2=⟨p^2⟩−⟨p^⟩2=2σ2ℏ2,(Δx)2=⟨x2⟩=2σ2.
積は ΔxΔp=ℏ/2 で、Robertson の不等式の等号が成り立つ。平面波の因子 eip0x/ℏ は運動量の平均を p0 だけずらすが、運動量の広がりには影響しない。
(2) (ia/ℏ)p^=ad/dx なので、級数は ∑n(an/n!)f(n) である。x3 の4階以上の導関数は0なので、級数は4項で終わる:
eiap^/ℏx3=x3+a⋅3x2+2a2⋅6x+6a3⋅6=x3+3ax2+3a2x+a3=(x+a)3.
多項式では Taylor 級数が有限項で終わるので、近似ではなく等式として成り立つ。
(3) y と z についての2階微分は、指数関数から定数因子を出すだけである。その因子は (ipy/ℏ)2 と (ipz/ℏ)2 である。両辺を共通因子 ei(pyy+pzz)/ℏ で割ると
[−2mℏ2dx2d2+V(x)]φ(x)=(E−2mpy2+pz2)φ(x)
を得る。y,z 方向の運動エネルギーは定数として右辺に移り、残りは1次元の Schrödinger 方程式である。
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