量子力学入門 第1部 第4章 §1.4.1 ★ 普遍性の動機づけ。
調和振動子 H^=2Mp^2+2Mω2x^2 が量子力学で圧倒的に重要な理由は二つある。第一に、あらゆる安定平衡はその近傍で調和振動子に見える:ポテンシャル V(x) の極小点 x0 まわりの Taylor 展開 V(x)≃V(x0)+21V′′(x0)(x−x0)2 の2次項がまさに調和ポテンシャルである(分子の振動、固体の格子振動はこれ)。第二に、電磁場をはじめとする「場」の各モードが厳密に調和振動子であり、その量子 n が光子数になる。第8部『時間依存摂動論とダイナミクス』の強制振動子の遷移確率が「光子統計」と同じ Poisson 分布になるのは偶然ではない。
解く前に長さの目安を作っておく。ℏ,M,ω から作れる唯一の長さは
x0≡Mωℏ
で、これが波動関数の広がりのスケールになる(後で確かめる)。
固有値が正であることと、中心のずれた振動子
解く前に、固有値の符号と、ポテンシャルの中心をずらしたときの扱いを確かめておく。どちらも位置表示の式だけで分かる。
- 運動エネルギーの項のマイナスは i2 に由来する。p^2=(−iℏ)2d2/dx2 の中の因子 i2=−1 が、ハミルトニアンの2階微分の項のマイナスになる。期待値を部分積分(境界で ψ→0)で書き直すと、負にならない量になる。
⟨2Mp^2⟩=−2Mℏ2∫ψ∗ψ′′dx=2Mℏ2∫∣ψ′∣2dx ≥0.
2. 固有値は正。ポテンシャルの期待値 2Mω2∫x2∣ψ∣2dx も負にならないので、規格化された固有関数では E≥0 である。固有値が0になるには ψ′=0 と xψ=0 が同時に要り、そのような関数は恒等的に0で規格化できない。したがって E>0 で、最低の固有値は正の零点エネルギーになる。3. 中心のずれた振動子は変数変換で標準形になる。V=21Mω2(x−xc)2 では ξ=x−xc と置く。d/dx=d/dξ なので運動エネルギーの項は形を変えず、ξ について標準形になる。固有値は xc によらず、固有関数は平行移動した ψn(x−xc) である。4. 平方完成で定数を固有値の側へ移す。x の1次の項を含むポテンシャルは、平方完成で 3. の形にする。
21Mω2x2−Fx=21Mω2(x−xc)2−2Mω2F2,xc=Mω2F.
x によらない定数 −F2/(2Mω2) は、Schrödinger 方程式の右辺の固有値の側へ移す。x の項と組んで完全平方を作る定数 xc は、左辺の2乗の中に残す。
一様な力(電場中の電荷など)がかかった振動子や、第5部『電磁場中の荷電粒子とゲージ』の Landau ゲージの振動子は、この手順で標準形に直る。
例題 4.1
オリジナル★ 一様な力のかかった振動子を標準形に直す。ハミルトニアン H^=2Mp^2+2Mω2x^2−Fx^(F は定数)を考える。
- (1) 固有値 En と、基底状態での ⟨x^⟩ を求めよ。
- (2) 基底状態の運動エネルギーの期待値を、部分積分の形 2Mℏ2∫∣ψ′∣2dx で計算せよ。
解答
(1) 平方完成すると、ポテンシャルは中心 xc=F/(Mω2) の振動子と定数の和になる。ξ=x−xc の変数変換で標準形になり、定数は固有値へ移るので
En=ℏω(n+21)−2Mω2F2.
基底状態は中心 xc の Gauss 関数 ψ0(x−xc) で、中心について左右対称である。したがって ⟨x^⟩=xc=F/(Mω2) である。古典的なつり合いの位置と同じになる。
(2) 平行移動は微分を変えないので、力のない場合の基底状態 ψ0(ξ)∝e−ξ2/2x02 で計算すればよい(x0 は冒頭の長さ)。ψ0′=−(ξ/x02)ψ0 から
2Mℏ2∫∣ψ0′∣2dξ=2Mℏ2⋅x04⟨ξ2⟩=2Mℏ2⋅2x021=4ℏω
である(⟨ξ2⟩=x02/2)。零点エネルギー ℏω/2 の半分で、残りの半分はポテンシャルの期待値が持つ。
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