量子力学入門 第1部 第5章 §1.5.4 ★★ 古典力学への橋。
Heisenberg 方程式の期待値をとると(あるいは Schrödinger 描像で直接計算しても同じ)、
dtd⟨A^⟩=ℏi⟨[H^,A^]⟩.
H^=p^2/2M+V(x^) に適用すると dtd⟨x^⟩=⟨p^⟩/M、dtd⟨p^⟩=−⟨V′(x^)⟩——期待値は(ほぼ)Newton 方程式に従う(Ehrenfest の定理)。「ほぼ」なのは右辺が −V′(⟨x^⟩) でなく −⟨V′(x^)⟩ である点で、波束が広くポテンシャルが非線形だと両者はずれ、量子効果が顔を出す。
Ehrenfestの定理の一般形(陽な時間依存も込み)
一般の演算子A^(陽に時刻tを含んでもよい)に対しては、Heisenberg方程式dtdA^H=ℏi[H^,A^H]+(∂t∂A^)Hの期待値をとって
dtd⟨A^⟩=ℏi⟨[H^,A^]⟩+⟨∂t∂A^⟩
が成り立つ。x^,p^のように演算子自身が陽に時刻を含まない場合は最後の項が落ちて、本文の形になる。
上の2式は交換子を具体的に計算すれば中身が埋まる。[x^,p^]=iℏから
[H^,x^]=2M1[p^2,x^]=2M1(p^[p^,x^]+[p^,x^]p^)=−Miℏp^,[H^,p^]=[V(x^),p^]=iℏV′(x^)
(後者は恒等式 [f(x^),p^]=iℏf′(x^) をf=Vに適用したもの。この恒等式自体はp^=−iℏd/dx を波動関数に作用させて積の微分法則を使えば直接示せる)。これを一般式 dtd⟨A^⟩=ℏi⟨[H^,A^]⟩ に代入すると
dtd⟨x^⟩=M⟨p^⟩,dtd⟨p^⟩=−⟨V′(x^)⟩
が出る。
「ほぼ」の中身を具体例で見る。調和振動子 V(x^)=21Mω2x^2 ではV′(x^)=Mω2x^ が線形なので、⟨V′(x^)⟩=Mω2⟨x^⟩=V′(⟨x^⟩)が恒等的に成り立つ。Ehrenfestの定理はそのまま
dt2d2⟨x^⟩=−ω2⟨x^⟩
という古典のNewton方程式と完全に一致し、量子補正は一切現れない(本節の計算でx^H(t)が古典解と全く同じ形になったのはこのためである)。一方、調和振動子への摂動V^=λx^4のような非線形ポテンシャルでは V′(x^)=4λx^3 なので
⟨V′(x^)⟩=4λ⟨x^3⟩=4λ⟨x^⟩3=V′(⟨x^⟩)
と一般には食い違う(⟨x^3⟩=⟨x^⟩3)。この食い違いの大きさは波束の広がり(分散)に比例して大きくなる。波束が十分狭く、ポテンシャルがその範囲でほぼ線形とみなせるときに限って、Ehrenfestの定理は古典力学に近づく。量子力学から古典力学が立ち現れる対応原理の具体的な中身がこれである。
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