量子力学入門 第11部 第3章 §11.3.2 ★★★ fB∝V~(q)(ポテンシャルの Fourier 変換)、q=2ksin(θ/2)。散乱の代表計算。
ポテンシャルが弱い(または入射エネルギーが高い)とき、散乱領域内でも波動関数は入射波からほとんど歪まない:ψ(r′)≃eik⋅r′(k=kez)。これを (11.3.3) に入れたものが(第1)Born 近似:
fB(θ)=−2πℏ2m∫d3re−iq⋅rV(r)=−2πℏ2mV~(q),q:=k′−k (11.3.4)
——散乱振幅はポテンシャルの Fourier 変換である。q は散乱で移った運動量(/ℏ)=運動量移行で、弾性散乱(∣k′∣=∣k∣=k)では
q=∣k′−k∣=2ksin2θ.
この式の読み方が散乱物理の勘所である:細かい構造(小さい長さスケール d)を見るには、大きな q∼1/d、すなわち高エネルギーか大角度が要る——電子顕微鏡から深非弾性散乱によるクォークの発見まで、「加速器=顕微鏡」の原理がこの1行に入っている。
例題 3.1(★★★ 湯川ポテンシャルと Rutherford 公式)
オリジナル湯川ポテンシャル V(r)=αre−μr(到達距離 1/μ)の Born 散乱振幅と微分断面積を求め、μ→0(Coulomb)の極限で Rutherford の公式を導け。
解答
球対称なので (11.3.4) の角度積分を先に実行すると V~(q)=q4π∫0∞rV(r)sin(qr)dr。湯川を代入して
V~(q)=q4πα∫0∞e−μrsin(qr)dr=q2+μ24πα
(この積分は SymPy で確認済み)。よって
fB=−ℏ2(q2+μ2)2mα,dΩdσ=ℏ4(q2+μ2)24m2α2.
「短距離力ほど(μ 大)、大角度まで滑らかに散る」——Fourier 変換の不確定性そのものである。μ→0 とし、q=2ksin(θ/2)、E=ℏ2k2/2m を使って書き換えると
dΩdσ=(4Eα)2sin4(θ/2)1
——Rutherford の公式である(代数の整理も SymPy で確認済み。α=Z1Z2e2/4πε0)。注目すべき点が3つ。(i) ℏ が消えており、古典力学の Rutherford の計算と厳密に一致する——Coulomb 散乱は量子・古典・Born がすべて同じ答えを出す奇跡的な例である(Coulomb の長距離性と 1/r の特殊性による偶然で、一般には成り立たない)。(ii) 前方 θ→0 で発散し全断面積は無限大——1/r 力は「どんなに遠くを通る粒子も少しは曲げる」ため、的の面積が定義できない。現実には遮蔽(μ=0)が必ず入って有限になる。(iii) この角度分布が金箔実験のデータと合ったことこそ「原子の正電荷は一点に集中している=原子核」の発見(1911)だった。■
Born 近似の適用条件を一言で言えば「散乱中心で波の歪みが小さい」こと。到達距離 a・深さ V0 のポテンシャルに対する目安は、低エネルギーで ℏ2m∣V0∣a2≪1(井戸が浅くて束縛状態を作れない程度)、高エネルギーでは ℏv∣V0∣a≪1 と緩む——エネルギーを上げるほど Born は良くなる。逆に低エネルギー・強いポテンシャルの散乱は第5章の方法(部分波・散乱長)の出番である。
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