量子力学入門 第11部 第5章 §11.5.1 ★★ δ0≃−kas、σ→4πas2。低エネルギーは1つの長さで決まる。
低エネルギー極限(ka≪1)では s 波のみが残る。このとき k→0 での位相のずれの振る舞いを1つの長さで特徴づけられる:
δ0(k) k→0 −kas⟺as:=−k→0limktanδ0
——as を散乱長という。幾何学的な意味は図 4.1 から読める:k→0 で外部解は u0∝sin(kr+δ0)→k(r−as)、つまり散乱長=波動関数(の外挿直線)が軸を切る位置である。断面積は
σ k→0 k24πsin2δ0 → 4πas2 (11.5.1)
——低エネルギーの散乱はどんな複雑なポテンシャルでもたった1つの長さで記述される(普遍性)。冷却原子の物理(BEC の相互作用、Feshbach 共鳴)では as がそのまま理論のパラメータになる。
例題 5.1(★★ 剛体球散乱——古典の4倍)
オリジナル半径 a の剛体球(r<a で V=∞)の s 波位相のずれと低エネルギー断面積を求めよ。
解答
外部解 u0=sin(kr+δ0) に壁の条件 u0(a)=0 を課すだけである:
sin(ka+δ0)=0⟹ δ0=−ka
(斥力なので確かに負=押し出し)。散乱長は as=a(壁の位置そのもの)、低エネルギー断面積は
σ=4πa2
——幾何学的断面積 πa2 のちょうど4倍である(極限の計算は SymPy でも確認済み)。古典より大きいのは、波長が球より長い波(ka≪1)が球を「回り込んで」全方位から感じるため——障害物の後ろに回り込む回折と同じ現象で、低エネルギー散乱が等方的(s 波:角度依存なし)であることとも整合する。逆の高エネルギー極限では σ→2πa2(幾何学的断面+前方回折の影)となることが知られており、古典値 πa2 にはどちらの極限でも一致しない——波動性は消えないのである。■
例題 5.2(★★ 有限井戸の散乱長——共鳴と束縛状態のしきい値)
オリジナル深さ V0・半径 a の球形井戸について s 波の散乱長を求め、V0 を深くしていったときの振る舞いを論ぜよ。
解答
k→0 の内部解は u0∝sin(κr)(κ=2mV0/ℏ)、外部解は u0∝(r−as)。r=a で対数微分を接続すると
κcot(κa)=a−as1⟹ as=a[1−κatan(κa)]
(この式は位相のずれの数値計算と4桁一致を確認済み)。読み方:
- 浅い井戸(κa≪1):as≃−3(κa)2a<0——弱い引力の散乱長は負(波動関数が内側に引き込まれ、外挿直線が軸を負の側で切る;図 4.1)。
- κa→π/2:tan が発散し as→±∞。この V0∗=π2ℏ2/8ma2 はちょうど束縛状態が1個生まれるしきい値であり、「エネルギー0の束縛状態=無限大の散乱長」という第5章冒頭の主張の実演である。しきい値の直前で as→−∞、直後(浅い束縛状態が存在)で as→+∞——断面積 4πas2 は際限なく大きくなる。
- 深い極限(κa≫1):as→a 付近を振動——剛体球に近づく。
中性子・陽子の s 波散乱長が核力の到達距離(∼2 fm)より1桁大きいのは、重陽子(triplet)・仮想状態(singlet)がしきい値のすぐ近くにいるためであり、冷却原子の Feshbach 共鳴は「外部磁場で束縛状態の位置をしきい値の前後に動かして as を ±∞ の間で自在に操る」技術——本例題の物理そのものである。■
有効距離展開.
★ (as,re) の2長さで低エネルギー物理を再現。有効理論の萌芽。背景。低エネルギー展開の次の項まで書くと
kcotδ0(k)=−as1+2rek2+O(k4)
——係数 re(有効距離、ポテンシャルの到達距離程度)まで込めれば、低エネルギー散乱は2つの長さで完全に記述される。核力の詳細を知らなくても (as,re) さえ合わせれば低エネルギー物理が再現される——有効理論という現代的な考え方の最初の実例である(形状によらないこの普遍性を shape independence と呼ぶ)。
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