量子力学入門 第12部 第1章 §12.1.2 ★★ 自然放出・A/B 係数(光学遷移の下支え)
自然放出は「光子場の零点振動が引き起こす誘導放出」であり、本当は電磁場の量子化(QED)が要る。しかし Einstein(1917)は、場を量子化せずに熱力学だけで自然放出の存在とそのレートを導いてみせた。論法を再現する。
2準位(下 1、上 2、縮退なし、E2−E1=ℏω)の原子集団が、温度 T の熱輻射(スペクトルエネルギー密度 u(ω))と平衡にあるとする。レートを
吸収:B12u(ω)N1,誘導放出:B21u(ω)N2,自然放出:AN2
と置く(A の項が無いと仮定してみると、平衡条件 B12uN1=B21uN2 から N2/N1 が温度によらなくなり、Boltzmann 分布 N2/N1=e−ℏω/kBT と矛盾する——自然放出は熱力学的に存在しなければならない)。A 込みの平衡条件を u について解くと
u(ω)=(B12/B21)eℏω/kBT−1A/B21.
これが任意の温度で Planck 分布 u=π2c3ℏω3eℏω/kBT−11 に一致する条件は
B12=B21,A=π2c3ℏω3B21
——吸収と誘導放出の係数は等しく、自然放出は誘導放出から普遍係数で決まる。B21 は通常の摂動論(第8部『時間依存摂動論とダイナミクス』)で計算できるから、これで A が手に入る。結果(導出は B の計算と等方平均 ∣dz∣2=∣d∣2/3 を組むだけ):
A=3πε0ℏc3ω3∣dfi∣2 (SI 単位系)(12.1.1)
励起状態の寿命は τ=1/∑fAf(全ての下向き遷移の和)。A∝ω3 に注意——同じ双極子でも高い振動数の遷移ほど圧倒的に速く光る(ω2 は終状態の光子の状態密度から、もう1つの ω は光子1個のエネルギーからくる)。
例題 1.1(水素 2p 状態の寿命を計算する ★★★)
オリジナル水素の 2p→1s 遷移について双極子行列要素を計算し、寿命 τ=1/A を求めよ。
解答
m=0 の成分で代表させる(他の m も等方性から同じ A を与える)。⟨1s∣z^∣2p0⟩ は動径積分と角度積分の積で、動径部分は R10=2a0−3/2e−r/a0、R21=261a0−3/2a0re−r/2a0 を使って
∫0∞R10R21r3dr=2431286a0≃1.290a0,
角度部分は ∫Y00∗cosθY10dΩ=1/3。よって ∣⟨1s∣z^∣2p0⟩∣=2431282a0≃0.745a0(動径積分の閉形式と数値積分の一致は確認済み)。ℏω=13.6(1−41)=10.2eV とともに (12.1.1) に代入すると
A≃6.3×108 s−1, τ≃1.60 ns
——実測の水素 Lyman-α 寿命 1.6ns と一致する(数値は SI 定数で独立計算して検証済み)。オーダーの覚え方:τ−1∼α3ω×(無次元数)——電磁結合の微細構造定数 α≃1/137 の3乗が「原子は振動周期(∼10−16 s)に比べてずっとゆっくり(106 周期以上かけて)光る」ことを説明する。準位の自然幅は Γ=ℏ/τ∼4×10−7eV——準位間隔の 10−8 倍で、「離散スペクトル」という描像が実際上成り立つ理由でもある。■
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