量子力学入門 第12部 第2章 §12.2.1 ★★ スピン軌道・相対論的運動 E・Darwin の3補正
水素のスペクトルを高分解能で見ると、En=−13.6/n2 eV の各線はさらに細かい構造をもつ。割れ幅の階層は
粗い構造En∼α2mc2 ≫ 微細構造ΔEfs∼α4mc2 ≫ 超微細構造ΔEhfs∼α4mc2mpm
——支配パラメータは微細構造定数 α=e2/4πε0ℏc≃1/137 である。本章では3つの相対論的補正(スピン軌道・運動エネルギー・Darwin)を摂動として評価し、磁場をかけたときの応答(Zeeman 効果と Landé g 因子)、そして宇宙で最も有名なスペクトル線——21cm 線——まで進む。予備知識は第4部『スピンと角運動量合成』の ℓ⊗21 合成と第6部『摂動論と変分法』の縮退摂動論。
(i) スピン軌道相互作用.
電子の静止系では、核が電子のまわりを回って見え、その循環電流が電子の位置に磁場を作る。この磁場と電子スピンの磁気モーメントの結合が
H^SO=2m2c21r1drdVL^⋅S^=8πε0m2c2e2r3L^⋅S^
——係数の 21 はThomas 歳差の補正である:電子の静止系は加速系なので、静止系の連続的な取り替え自体がスピンを歳差させ(純運動学的な相対論効果)、素朴な計算のちょうど半分を打ち消す。L^⋅S^ は ∣nℓsjmj⟩ 基底(第4部『スピンと角運動量合成』の合成)で対角:
L^⋅S^=2ℏ2[j(j+1)−ℓ(ℓ+1)−43]=2ℏ2×{ℓ−(ℓ+1)(j=ℓ+21)(j=ℓ−21)
——縮退摂動論の「正しい0次基底」を対称性が教えてくれる典型例で、(ℓ,s) の積基底のまま摂動を組むと行列の対角化をやり直す羽目になるところを、j 基底が最初から対角にしてくれる。
(ii) 相対論的運動エネルギー補正.
E=p2c2+m2c4 の展開の次の項:
H^kin=−8m3c2p^4=−2mc21(2mp^2)2=−2mc21(H^0−V)2
(最後の書き換えが期待値計算の実務のコツ:⟨p^4⟩ を ⟨(En−V)2⟩ に落とし、⟨1/r⟩、⟨1/r2⟩ だけで済ませる)。
(iii) Darwin 項.
相対論的な電子は Compton 波長 ℏ/mc 程度の広がりで「震えて」おり(Zitterbewegung)、ポテンシャルをその広がりでなました平均を感じる。なましの2次の項が
H^D=8m2c2ℏ2∇2V=8πε0m2c2πℏ2e2δ3(r)×2
——δ 関数型なので原点に振幅をもつ s 状態(ℓ=0)にだけ効く。ちょうど ℓ=0 ではスピン軌道が消える(L^=0)ので、両者は相補的に働く。
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