量子力学入門 第12部 第4章 §12.4.4 ★★ 振動回転スペクトル・選択則 ΔJ=±1
ポテンシャル曲線 Eel(R) の上の核の運動を解く。平衡点 Re のまわりで展開すれば
Eel(R)≃Eel(Re)+21μω2(R−Re)2,H^nuc=T^+Eel(R)+2μR2ℏ2J(J+1)
(μ:換算質量;遠心力項は第3部『中心力場と水素原子』の第1章の分離そのもの)。エネルギーは
EvJ≃Eel(Re)+ℏω(v+21)+BJ(J+1) ,B=2μRe2ℏ2(12.4.1)
——電子(eV、可視・紫外)≫ 振動(0.1 eV、赤外)≫ 回転(10−3 eV、マイクロ波)の3階層。スケール比は再び質量比が支配し、ℏω∼(me/M)1/2Eel、B∼(me/M)Eel——Born–Oppenheimer の展開パラメータがそのままスペクトルの階層になっている。選択則は、双極子演算子がランク1であること(第1章)から ΔJ=±1、調和近似で Δv=±1、さらに永久双極子をもつ分子だけが純回転・振動回転スペクトルをもつ(HCl は赤外を吸うが N2, O2 は吸わない——大気が赤外で「透明」で、微量の CO2・H2O が温室効果を担う理由がこの選択則である)。回転線の間隔 2B から結合長 Re が、振動数から力の定数が読める——分光学は分子の形を測る定規である。
例題 4.1(HCl の回転スペクトルから結合長を測る ★★)
オリジナルH35Cl の純回転スペクトルは間隔 2B~(B~=10.59 cm−1)の等間隔線列である。結合長 Re を求めよ。
解答
換算質量 μ=1.008+34.971.008×34.97u=0.980u。B=hcB~=2μRe2ℏ2 を Re について解くと
Re=2μhcB~ℏ2= 1.27 A˚
(SI 数値で独立計算し 1.275 Å を確認済み;回折実験と一致)。等間隔 2B~ の由来:EJ=BJ(J+1) と選択則 ΔJ=+1 から吸収線は EJ+1−EJ=2B(J+1)——J とともに 2B ずつ進む「はしご」になる。線の強度は Boltzmann 因子 × 縮退 (2J+1) の積で山型になり、山の位置から温度が読める——回転スペクトルは結合長と温度を同時に測る物差しである(星間分子雲の温度は CO の回転線で測られている)。■
第4章のまとめ ★
Born–Oppenheimer(me/M≪1):電子を先に解いてポテンシャル曲線、核はその上を運動——断熱定理の分子版。H2+ の LCAO:S,J,K の3積分がすべて閉形式で、結合性 ψ+ が Re=2.49a0、De=1.76 eV(検証済み)。共有結合=2中心にまたがる波の干渉(交換積分)+Pauli が定員2を指定(電子対)。核の運動は電子 ≫ 振動 ≫ 回転の3階層 (12.4.1)(比は質量比のべき)、選択則 ΔJ=±1・永久双極子の有無がスペクトルの有無を決める(温室効果の物理)。
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