量子力学入門 第2部 第1章 §2.1.3 ★ 発展。レーザー光・最小不確定状態の背景
CBH・Glauber 公式の「使い所」として予告したコヒーレント状態を、ここで本格的に構成する。調和振動子(a^,a^†、[a^,a^†]=1;第8部『時間依存摂動論とダイナミクス』の第0章§0.1)の状態のうち、最も古典的な振動に近い状態は何か——答えがコヒーレント状態であり、レーザー光の量子状態そのものである。
定義と構成.
消滅演算子の固有状態として定義する:
a^∣α⟩=α∣α⟩(α∈C).
(a^ は非エルミートなので固有値が複素数でよく、固有状態が存在すること自体が非自明である。)Fock 基底で展開して漸化式を解くと
∣α⟩=e−∣α∣2/2n=0∑∞n!αn∣n⟩
——光子数は平均 nˉ=∣α∣2 の Poisson 分布に従う。より構造的には、変位演算子
D^(α):=eαa^†−α∗a^
で ∣α⟩=D^(α)∣0⟩ と書ける。ここで Glauber の公式([A^,B^] が A^,B^ と可換なとき eA^eB^=eA^+B^e[A^,B^]/2。§1.2)が本領を発揮する:[αa^†,−α∗a^]=∣α∣2 は c 数なので
D^(α)=e−∣α∣2/2eαa^†e−α∗a^
と厳密に分解でき、e−α∗a^∣0⟩=∣0⟩ から上の展開が1行で再導出される。相似変換の展開公式(§1.1)からは D^†a^D^=a^+α——D^ は位相空間の平行移動である(真空をずらした状態、という絵)。
なぜ「最も古典的」か.
3つの性質が同時に成り立つ(いずれも数値的に検証済み):
- 最小不確定性:ΔxΔp=ℏ/2 を任意の α で飽和する(真空と同じ形のガウス波束が、中心だけずれたもの)。
- 古典軌道をなぞる:時間発展は ∣α(t)⟩=e−iωt/2∣α0e−iωt⟩——コヒーレント状態はコヒーレント状態のまま、複素平面上の α が古典位相空間の点として円運動する。⟨x^⟩(t)=2ℏ/mω∣α∣cosωt は古典解と厳密に一致し、波束は永遠に崩れない(調和振動子の等間隔スペクトルの賜物)。
- レーザー光の状態:理想的なレーザーの出す光の量子状態はコヒーレント状態であり、光子数の Poisson ゆらぎ(ショットノイズ Δn=nˉ)はその直接の帰結。ゆらぎをさらに片側だけ絞ったスクイーズド状態(a^,a^† の2次の指数=第7部『半古典近似WKB』のスケール正準変換の量子版)は、重力波検出器 LIGO の感度向上に実戦投入されている。
コヒーレント状態どうしは直交しない(∣⟨β∣α⟩∣2=e−∣α−β∣2)が完全系をなす(過剰完全系)——「位相空間の各点に1つずつ置かれた、量子力学が許す最小の点」の集まりであり、第7部『半古典近似WKB』の「面積 h に1状態」の実装例にもなっている。
第1章のまとめ
- 相似変換の展開公式 eA^B^e−A^=B^+[A^,B^]+2!1[A^,[A^,B^]]+⋯——交換子が単純化する(定数になる・B^ に比例する)とき級数が閉じる。
- Glauber の公式 eA^eB^=eA^+B^e[A^,B^]/2([A^,B^] が両者と可換なとき)。
- 使い所:並進・回転演算子の作用の計算、磁気並進(第5部『電磁場中の荷電粒子とゲージ』の第1章)、時間発展の分解。
- コヒーレント状態 ∣α⟩=D^(α)∣0⟩:Glauber 公式で厳密に分解でき、最小不確定・古典軌道追従・崩れない波束——レーザー光の状態。
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