量子力学入門 第4部 第3章 §4.3.3 ★ 発展:選択則と射影定理の背景。合成の理解を深める補強
合成の一般論のもう一つの果実が、演算子の行列要素の計算を劇的に簡単化する Wigner–Eckart の定理である。
球面テンソル演算子.
状態が ∣j,m⟩ で分類されるのと同様に、演算子も回転に対する変換性で分類できる。ランク k の球面テンソル演算子 T^q(k)(q=−k,…,k)とは、回転の生成子と
[J^z,T^q(k)]=ℏqT^q(k),[J^±,T^q(k)]=ℏk(k+1)−q(q±1)T^q±1(k)
を満たす 2k+1 個組をいう——「状態 ∣k,q⟩ と同じ変換則に従う演算子」である。例:スカラー(H^ など)はランク0、ベクトル演算子(r^,p^,J^)は球面成分 V±1=∓(Vx±iVy)/2, V0=Vz に組み替えるとランク1、Y2q(r^) 型がランク2(四重極)。
定理.
「∣k,q⟩ のように変換する演算子」を「∣j,m⟩」に当てた T^q(k)∣j,m⟩ は、角運動量の言葉では合成 k⊗j と同じ変換をする。よってその ∣j′,m′⟩ 成分は CG 係数に比例するはずで:
定理:Wigner–Eckart ★
⟨j′m′∣T^q(k)∣jm⟩=CG 係数(幾何)Ckq;jmj′m′×換算行列要素(力学)⟨j′∣∣T^(k)∣∣j⟩
——行列要素の m,m′,q 依存性はすべて CG 係数で尽き、演算子の中身は m によらない1個の数(換算行列要素)に押し込められる。
帰結が2つ。(i) 選択則:CG 係数が消える組はゼロ——m′=m+q かつ ∣j−k∣≤j′≤j+k。ランク1(双極子)なら Δj=0,±1(0→0 禁止)、Δm=0,±1——原子の輻射選択則(第12部『原子分子光』の第1章)の一般形である。(ii) 比の普遍性:同じ多重項内の行列要素の比は演算子の詳細によらず CG 係数だけで決まる。
射影定理.
ランク1で j′=j の場合、(ii) を T^(1)=V^ と J^ 自身に適用すると、比例係数まで込めて
⟨jm′∣V^∣jm⟩=j(j+1)ℏ2⟨V^⋅J^⟩j⟨jm′∣J^∣jm⟩
——j 多重項の中では、どんなベクトル演算子も J^ の「影」にしか見えない(J に垂直な成分は J まわりの速い歳差で平均化される、という古典絵が正確に対応する)。この定理を V^=L^+2S^ に使うと Zeeman 効果の Landé g 因子(第12部『原子分子光』の第2章)が3行で出る(L=1,S=21,J=23 の場合について、直接対角化との一致を数値で確認済み)。
第3章のまとめ
- 一般論:jA⊗jB からは j=jA+jB,…,∣jA−jB∣ が各1個。構成は「頂上 →J^−→ 直交補空間」のプロトコルで機械化され、係数が CG 係数。
- 1⊗1=2⊕1⊕0、ℓ⊗21=(ℓ+21)⊕(ℓ−21)(後者はスピン軌道相互作用・微細構造の基盤)。
- 3スピン:23=8=4+2+2。同じ Stot=21 が2つ現れ、部分和 S^122(または C^3)が「合成の経路」を区別する。
- 3サイト反強磁性体はフラストレーションにより基底状態が4重縮退(E1/2=−43J、E3/2=+43J)。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com