量子力学入門 第5部 第1章 §5.1.2 ★★ 極小結合の前提。二つの運動量の区別
電磁場中の電荷 q の粒子の運動方程式は Lorentz 力
mr¨=q(E+r˙×B)
である。これを Lagrange/Hamilton 形式で書くために、スカラーポテンシャル A0 とベクトルポテンシャル A
E=−∇A0−∂t∂A,B=∇×A
を導入する。対応する Lagrangian は(Gauss 単位系の慣習に合わせ qA⋅r˙ の形で)——「対応する」の意味、すなわちこの L が本当に Lorentz 力を再現することは、直後の例題で確かめる——
L=21mr˙2+qr˙⋅A(r)−qA0(r)
となる。ここで決定的に重要なのが正準運動量
p=∂r˙∂L=mr˙+qA
である。これは「質量×速度」ではない! 速度に対応するのは
π≡mr˙=p−qA (力学的運動量)
の方であり、正準運動量 p とは qA だけずれている。Hamiltonian は Legendre 変換で
H=r˙⋅p−L=2m1(p−qA)2+qA0=2mπ2+qA0
となる。
二つの「運動量」を区別せよ ★★
正準運動量 p:座標 r と正準共役で、量子化すると p^=−iℏ∇、[x^j,p^k]=iℏδjk。ゲージに依存する。
力学的運動量 π=p−qA=mv:実際の速度に比例する物理的な量。ゲージ不変。
磁場のない問題ではこの二つが一致するので区別する必要がなかった。磁場の問題では両者の差がすべてを生む。
例題 1.1(Euler–Lagrange 方程式から Lorentz 力を導く ★)
オリジナル最小作用の原理(作用 S=∫Ldt が実際の軌道で停留する;一般論と導出は第7部『半古典近似WKB』の第2章)から従う Euler–Lagrange 方程式
dtd∂r˙i∂L=∂ri∂L(i=1,2,3)
を、L=21mr˙2+qr˙⋅A(r,t)−qA0(r,t) に適用し、Lorentz 力の運動方程式が出ることを確かめよ。
解答
左辺:∂r˙i∂L=mr˙i+qAi(=正準運動量 pi)で、その全時間微分は、粒子が動くことで A の引数も変わることに注意して(連鎖則)
dtd(mr˙i+qAi)=mr¨i+q∂t∂Ai+qj∑r˙j∂rj∂Ai.
右辺:∂ri∂L=q∑jr˙j∂ri∂Aj−q∂ri∂A0。両辺を等しいと置いて整理すると
mr¨i=q(−∂ri∂A0−∂t∂Ai)+qj∑r˙j(∂ri∂Aj−∂rj∂Ai).
第1の括弧は Ei の定義そのもの。第2の和はベクトル解析の恒等式
[r˙×(∇×A)]i=j∑r˙j(∂ri∂Aj−∂rj∂Ai)
(成分計算;SymPy で全成分一致を確認済み)により [r˙×B]i に等しい。よって
mr¨=q(E+r˙×B)
——確かに Lorentz 力が再現された。計算の教訓を2つ拾っておく。(i) 左辺で時間微分されるのは mr˙i ではなく正準運動量 mr˙i+qAi である——「p と mv のずれ」は、Euler–Lagrange 方程式を1回書いた瞬間から避けられない形で現れる。(ii) A は速度と結合する(L が r˙ の1次を含む)ため、力が速度依存(r˙×B)になる——ポテンシャル V(x) だけの力学からの本質的な拡張であり、これが正準運動量と力学的運動量の分裂の起源である。■
ゲージ変換とゲージ不変性
★ ゲージ不変性の確認
ベクトルポテンシャルには任意関数 χ(r,t) によるゲージ変換の自由度がある:
A→A+∇χ,A0→A0−∂t∂χ.
このとき B=∇×A は不変(∇×∇χ=0)であり、物理的な場 E,B は変わらない。同じ磁場を与える A は無数にある、ということだ。量子力学では、ゲージ変換に伴い波動関数が位相を獲得する:
ψ→eiqχ/ℏψ.
物理量(∣ψ∣2 や力学的運動量 π の期待値)はこの位相に依らず不変である。第2章の磁気単極子、第1章の対称ゲージは、この「同じ磁場・違う A」という自由度を主題にする。
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