量子力学入門 第5部 第1章 §5.1.6 ★★ 縮退度の数え方(別解法)
対称ゲージ(前節)は回転対称性を残す取り方だった。同じ一様磁場 B=Be3 を、今度は並進対称性が見えるゲージ
A=(0,Bx1,0)
で表してみよう(Landau ゲージ)。ハミルトニアンは
H^=2m1[p^12+(p^2−qBx^1)2]
となり、x^2 がどこにも現れない。ゆえに
[H^,p^2]=0
——x2 方向の並進対称性が保存量 p^2 を与える(対称性 ⇔ 保存量の一般定理)。そこで p^2 の固有値 k2(ℏ 込みの運動量)のセクターに制限すると、p^2→k2 と置き換えられて
H^k2=2mp^12+2m(mqB)2(x^1−qBk2)2
——中心が x1(0)=k2/qB にずれた調和振動子(角振動数 ωc=∣qB∣/m)に帰着する。固有値は中心の位置によらず
En=ℏωc(n+21)
で、Landau 準位が再現された。k2 を変えても E が変わらない——これが縮退の正体であり、保存量 p^2 が生む縮退として見えている。
変数分離の根拠と、k2 の意味
上で「p^2→k2 と置き換えた」操作には根拠がある。また k2 は運動量の名前を持つが、粒子の速度を表してはいない。次の5つで整理する。
- 指数関数の形は仮定でなく帰結である。交換子 [H^,p^2] が0なので、2つの演算子の同時固有状態を取れる。p^2 の固有値方程式を x2 について解くと、指数関数が出る。
−iℏ∂x2∂ψ=k2ψ⟹ψ(x1,x2)=eik2x2/ℏf(x1).
f は積分定数の役をする x1 の関数である。同じ Landau 準位の状態どうしは同じエネルギーを持つので、異なる k2 の重ね合わせも H^ の固有状態で、一般の固有状態はその形をとる。2. k2 は正準運動量の固有値で、mv2 ではない。速度に比例するのは力学的運動量 π^2=p^2−qBx^1 のほうである。上の状態に作用させると (k2−qBx1)ψ になり、係数が位置によるので π^2 の値は確定しない。期待値は、振動子の中心 x1(0)=k2/qB を使って
⟨π^2⟩=k2−qB⟨x^1⟩=k2−qBx1(0)=0
になる。粒子は円軌道を回るので、x2 方向の平均の速度は0である。k2 は速度ではなく、軌道の中心 x1(0) を指すラベルである。
このゲージでは案内中心が X^=p^2/qB と書け、k2 はその固有値の定数倍にあたる。3次元で磁場の向きの運動まで含めると、A3=0 なので π^3=p^3 となり、こちらは速度に比例する。3. k2 がよい量子数になるのはゲージの選び方による。前節の対称ゲージ A=2B(−x2,x1,0) では、ハミルトニアンが座標 x2 を含むので、この方向の正準運動量は保存しない。同じ磁場でも、どの正準運動量が保存するかはゲージで変わる。ゲージによらず保存するのは案内中心(磁気並進、次節の発展)である。4. 演算子の積の順序。ハミルトニアンの2乗を展開するとき、p^⋅A と A⋅p^ は一般に異なる。p^⋅A は右のすべてに作用する微分なので、関数 ψ に作用させると積の微分になる。
∇⋅(Aψ)=(divA)ψ+A⋅∇ψ⟹p^⋅A=A⋅p^−iℏ(divA).
左辺の ∇⋅ は右のすべてに作用する演算子で、右辺の divA はベクトルポテンシャルの発散(ただの関数)である。Landau ゲージでも対称ゲージでも divA=0 なので、2つの順序は等しい。5. 中心をずらす変数変換。ξ=x1−x1(0) と置くと d/dx1=d/dξ で、ハミルトニアンは新しい変数について標準形の振動子になる。固有値は中心によらず、固有関数は平行移動した φn(x1−x1(0)) である。平方完成で定数を固有値の側へ移す手順は、分冊『基礎の道具立て』の調和振動子の章で扱った。
例題 1.10(Landau ゲージの k2 と、ゲージによる違い ★)
オリジナル一様磁場 B=Be3 の中の電荷 q の粒子を考え、運動は面内に限る。
- (1) Landau ゲージ A=(0,Bx1,0) で、次の状態の ⟨π^2⟩ を求めよ。関数 φ0 は実の Gauss 関数とする。
ψ=eik2x2/ℏφ0(x1−x1(0))
- (2) 対称ゲージ A=2B(−x2,x1,0) で、交換子 [H^,p^2] を求めよ。
- (3) A=(x12,0,0) のとき、p^⋅A−A⋅p^ を求めよ。
解答
(1) π^2ψ=(k2−qBx1)ψ なので、期待値は k2−qB⟨x1⟩ である。確率密度 ∣φ0∣2 は中心 x1(0)=k2/qB について対称なので、位置の期待値は中心の値に等しい。したがって
⟨π^2⟩=k2−qB⋅qBk2=0.
(2) 対称ゲージのハミルトニアンは
H^=2m1[(p^1+2qBx^2)2+(p^2−2qBx^1)2]
で、p^2 と交換しないのは x^2 を含む第1項だけである。[x^2,p^2]=iℏ を使うと
[H^,p^2]=2m1⋅2(p^1+2qBx^2)⋅2qBiℏ=2miℏqBπ^1
で、0 でない(π^1=p^1+2qBx^2 は対称ゲージの力学的運動量)。対称ゲージでは p^2 は保存しない。
(3) divA=∂1(x12)=2x1 なので、p^⋅A−A⋅p^=−iℏ⋅2x1=−2iℏx1 である。この A の回転は0なので磁場はないが、順序を入れ替えると定数でない差が出る。
縮退度を数える。
x2 方向に周期境界条件(長さ L2)を課すと k2 は
k2=L22πℏl(l∈Z)
に離散化される。一方、振動子の中心 x1(0)=k2/qB=2πℏl/(qBL2) が試料 0≤x1≤L1 の中に入っていなければならないから
0 ≤ l ≤ 2πℏqBL1L2.
したがって1つの Landau 準位に入る状態数は
NB=2πℏ∣q∣BL1L2=Φ0Φ (Φ=BL1L2, Φ0=∣q∣2πℏ)
——単位面積あたり ∣q∣B/2πℏ 個、全体で「試料を貫く磁束量子の本数」。これは前節までに案内中心の代数([X^,Y^]=iℓB2 から1状態あたり面積 2πℓB2)で得た結果と完全に一致する。同じ答えが「非可換位相空間の最小面積」からも「並進対称性の量子化された保存量の数え上げ」からも出る——縮退度 Φ/Φ0 がゲージの取り方によらない物理量であることの、何よりの検証である。
量子ホール効果への一言。
2次元電子系(q=−e)に電子を N 個入れると、占有率(filling factor)ν:=N/NB が定義できる。ν がちょうど整数のとき、Hall 伝導度 σxy は
σxy=ν2πℏe2=νhe2
に量子化されてプラトーを作る(整数量子ホール効果)。この量子化が乱れに対して異常に頑健である理由(位相不変量)は次節「発展」で触れる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com