量子力学入門 第6部 第1章 §6.1.6 ★ 2次摂動が生む引力(発展)
2次摂動論の応用として、中性原子どうしの間に働くvan der Waals 力を導く。中性で永久双極子ももたない原子どうしが、なぜ引き合うのか——答えは「量子ゆらぎで生じた双極子が相手を分極させる」であり、これはまさに2次摂動の物理である。
設定。
水素原子2個を、原子核間ベクトル R(r=∣R∣ は固定、r≫a0)だけ離して置く。各原子の電子の(核から測った)変位を r^i、双極子演算子を d^i:=−er^i とすると、遠方で支配的な相互作用は古典電磁気学と同じ双極子–双極子相互作用
V^=4πε0r31[d^1⋅d^2−r23(d^1⋅R)(d^2⋅R)]
である(多重極展開の最低次;1/r3 で減衰)。無摂動の基底状態は ∣Φ0(0)⟩=∣φ0(0);1⟩∣φ0(0);2⟩(両原子とも 1s)。
1次はゼロ。
V^ は d^1,d^2 の双線形で、各因子の期待値は
⟨φ0;i∣d^i∣φ0;i⟩=0
(1s は偶、d^ は奇:パリティ選択則)。ゆえに E(1)=⟨Φ0(0)∣V^∣Φ0(0)⟩=0——永久双極子がないから1次の(古典的な)双極子相互作用はない。
2次は負で 1/r6。
2次補正は
E0(2)=K=0∑E0(0)−EK(0)∣⟨ΦK(0)∣V^∣Φ0(0)⟩∣2
で、(i) 分子は ∣V^∣2∝1/r6、(ii) 基底状態からの2次補正は必ず負、だから
E0(2)=−r6C6(C6>0)
——遠距離で普遍的な引力 V(r)∼−1/r6(分散力・London 力)が導かれる。分子動力学で使われる Lennard–Jones ポテンシャルの引力項 −1/r6 の量子力学的起源はこれである。物理的な読み方:原子1の零点ゆらぎが瞬間双極子を作り(d^1 の分散は 0 でない)、それが 1/r3 の場で原子2を分極させ、誘起双極子との相互作用 (1/r3)×(1/r3)=1/r6 で必ず引力になる——「ゆらぎ × 応答」の構造が2次摂動そのものである。
例題 1.8(結合振動子モデルで C6 を厳密に見る ★)
オリジナル双極子ゆらぎを1次元調和振動子でモデル化する:質量 m・角振動数 ω の振動子2個(変位 x1,x2)が、共線配置の双極子相互作用に対応する結合 V^=λx^1x^2(λ∝1/r3)で結ばれているとする。基底エネルギーのずれを厳密に求め、2次摂動と比較せよ。
解答
基準座標 x±=(x1±x2)/2 に変換すると、ハミルトニアンは独立な2振動子に分離し、角振動数は
ω±=ω2±mλ
となる。基底エネルギーは零点エネルギーの和で、λ について展開すると
E0=2ℏ(ω++ω−)=ℏω−8m2ω3ℏλ2+O(λ4)
(この展開は SymPy で確認済み)。ずれは
ΔE=−8m2ω3ℏλ2 ∝ −λ2 ∝ −r61
——負で λ2∝1/r6:一般論の結論が厳密解で裏づけられた。しかも λ の奇数次が現れないこと(1次ゼロ)も展開に現れている。2次摂動論で直接計算しても同じ値になることは、行列要素 ⟨11∣x^1x^2∣00⟩=ℏ/2mω(唯一の中間状態は両振動子とも第1励起状態)とエネルギー分母 −2ℏω から
E(2)=−2ℏωλ2(ℏ/2mω)2=−8m2ω3ℏλ2
と確かめられる。■
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