量子力学入門 第7部 第2章 §7.2.6 ★★ WKB 0 次の正体。分野横断で効く核
ここからが WKB との接続の核心である。作用 S を今度は経路の汎関数ではなく、「始点 (x1,t1) を固定し、実際の古典軌道に沿って終点 (x,t) まで積分した値」——すなわち終点の関数 S(x,t)——と見なす。
S(x,t) の偏微分には美しい意味がある。まず終点位置を x→x+δx と(同時刻で)ずらすと、前節の変分計算がそのまま使えるが、今度は両端の軌道がどちらも運動方程式を満たすので積分項は消え、部分積分の境界項だけが残る:
δS=[∂x˙∂Lδx]t1t=pδx⟹ ∂x∂S=p
——作用の空間勾配は運動量。次に終点時刻を t→t+δt とずらすと、直接の増分 Lδt と、「同じ点 x に着くには軌道の終端が x˙δt ぶん戻る」補正 −px˙δt が合わさって
dtdS軌道に沿って=LかつdtdS=∂t∂S+∂x∂Sx˙⟹∂t∂S=L−px˙=−H.
2つを合わせると、S(x,t) は1階の偏微分方程式
∂t∂S+H(x, ∂x∂S)=0 (Hamilton–Jacobi 方程式)(7.2.5)
を満たす。H=2mp2+V なら
∂t∂S+2m1(∂x∂S)2+V(x)=0.
検算として自由粒子(V=0):古典軌道は等速直線運動で S=2(t−t1)m(x−x1)2 となり、これが (7.2.5) を満たすことは直接代入で確かめられる(SymPy でも確認済み)。
エネルギーが保存する系では、H=E(一定)より ∂S/∂t=−E、すなわち
S(x,t)=W(x)−Et
と時間が分離し、W(Hamilton の特性関数)は定常 Hamilton–Jacobi 方程式
(dxdW)2=2m(E−V(x))⟹W(x)=±∫x2m(E−V)dx′=±∫xpdx′(7.2.6)
に従う。次章で見るとおり、これはWKB 展開の0次の式と一字一句同じである。つまり:
波動関数 φ=eiS/ℏ の位相の最下次は古典力学の作用であり、「∂S/∂x=p」という解析力学の定理が、de Broglie の関係 λ=2πℏ/p(位相が p/ℏ の割合で進む)の正体である。S(x,t)=W(x)−Et の分離は、量子力学の定常状態 φ(x)e−iEt/ℏ の時間因子に対応する。
この方程式の歴史的な出自は前節の正準変換にある:「新 Hamiltonian K=H+∂F/∂t が恒等的にゼロになる母関数 F を探す」と設定すると、新変数は全部定数(X˙=P˙=0:運動が完全に凍結した座標系)になり、その条件 H(x,∂F/∂x)+∂F/∂t=0 が (7.2.5) そのものである——つまり S(x,t) とは「力学を自明化する究極の正準変換」の母関数であり、本節の導出はその結論を古典軌道の変分から最短距離で取り出したものである。正準変換の言葉で見ると、Hamilton–Jacobi 理論は「前節の調和振動子の例題でやったこと(H を ωJ に簡単化)を任意の系で徹底的に推し進める」プログラムだと分かる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com