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正準変換:位相空間の座標を選ぶ自由

2026年10月15日8分で読めますAI生成教科書『基礎理論』第7部 第2章 ◆解析力学の骨格:最小作用から Hamilton–Jacobi へ
目次
  1. 動機:良い座標は問題を解いてしまう。
  2. 定義と判定条件。
  3. 母関数:正準変換の作り方。
  4. 量子論との接続:正準変換の量子版はユニタリ変換。
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学入門 第7部 第2章 §7.2.5 ★ 位相空間の座標選び(背景)

動機:良い座標は問題を解いてしまう。

力学の問題が難しいか易しいかは、しばしば座標の選び方で決まる。中心力は極座標で分離し、2体問題は重心・相対座標で分離する。Lagrange 形式でも座標変換 x→Q(x)x\to Q(x)(点変換)は自由だが、Hamilton 形式にはそれを大きく超える自由がある:位相空間 (x,p)(x,p) を座標と運動量を混ぜて

X=X(x,p),P=P(x,p)X=X(x,p),\qquad P=P(x,p)

と取り替えてよいのである。狙いはこうだ——新しい変数で見たとき Hamiltonian が簡単になる(究極的には循環座標だけになる・定数になる)ように変換を選べば、運動方程式は解く前に解けている。この「うまい取り替え」の理論が正準変換であり、その極限形が次節の Hamilton–Jacobi 理論である。

定義と判定条件。

変換 (x,p)→(X,P)(x,p)\to(X,P) が正準変換であるとは、新変数でも力学が同じ形——ある新 Hamiltonian K(X,P)K(X,P) に対する正準方程式

X˙=∂K∂P,P˙=−∂K∂X\dot X=\frac{\partial K}{\partial P},\qquad \dot P=-\frac{\partial K}{\partial X}

——で書けることをいう。判定は Poisson 括弧で与えられる:

 {X,P}:=∂X∂x∂P∂p−∂X∂p∂P∂x=1 ⟺正準変換\boxed{\ \{X,P\}:=\frac{\partial X}{\partial x}\frac{\partial P}{\partial p}-\frac{\partial X}{\partial p}\frac{\partial P}{\partial x}=1\ } \qquad\Longleftrightarrow\qquad\text{正準変換}

(このとき任意の f,gf,g の Poisson 括弧が新旧どちらの変数で計算しても同じ値になり、f˙={f,H}\dot f=\{f,H\} の構造がそっくり保たれる)。1自由度では {X,P}\{X,P\} は変換の Jacobian そのものだから、この条件は位相空間の面積を保つ変換と言い換えられる——Bohr–Sommerfeld 量子化(第5章)で「面積」が主役になることの伏線である。実際、正準方程式に従う時間発展そのものが面積を保存する(Liouville の定理;時間発展は HH 自身が生成する正準変換の連続列である)。

簡単な例で感触をつかむ。(i) 点変換 X=λxX=\lambda x は、P=p/λP=p/\lambda とセットで正準になる({X,P}=λ⋅1λ=1\{X,P\}=\lambda\cdot\frac1\lambda=1)——座標を伸ばしたら運動量は同じ倍率で縮める。(ii) もっと過激に、X=p, P=−xX=p,\ P=-x(座標と運動量の入れ替え)も正準である。「何が座標で何が運動量か」は力学の構造からは決まらない——位相空間には本来、座標と運動量の区別すらないのである。

母関数:正準変換の作り方。

正準変換を場当たり的に探す代わりに、1つの関数から系統的に生成する方法がある。新旧の力学が同じ運動を選ぶには、どちらの変分原理

δ ⁣∫(px˙−H)dt=0,δ ⁣∫(PX˙−K)dt=0\delta\!\int\bigl(p\dot x-H\bigr)\mathrm{d} t=0,\qquad \delta\!\int\bigl(P\dot X-K\bigr)\mathrm{d} t=0

も成り立てばよく、それには2つの被積分関数がある関数 FF の全微分 dFdt\frac{\mathrm{d} F}{\mathrm{d} t} の差しかもたなければ十分である(全微分の積分は端点だけで決まり、端点固定の変分に効かないから)。FF を旧座標と新座標の関数 F(x,X,t)F(x,X,t) に取ると

px˙−H=PX˙−K+dFdt=PX˙−K+∂F∂xx˙+∂F∂XX˙+∂F∂tp\dot x-H=P\dot X-K+\frac{\mathrm{d} F}{\mathrm{d} t} =P\dot X-K+\frac{\partial F}{\partial x}\dot x+\frac{\partial F}{\partial X}\dot X+\frac{\partial F}{\partial t}

で、x˙,X˙\dot x,\dot X の係数を比べて

 p=∂F∂x,P=−∂F∂X,K=H+∂F∂t \boxed{\ p=\frac{\partial F}{\partial x},\qquad P=-\frac{\partial F}{\partial X},\qquad K=H+\frac{\partial F}{\partial t}\ }

——関数 FF を1つ決めるごとに正準変換が1つ生成される(FF を母関数という。独立変数の取り方で F(x,X)F(x,X) 型のほか F(x,P)F(x,P) 型などの変種があり、相互に Legendre 変換で移り合う)。

例題 2.2(調和振動子を作用・角変数へ——「解く前に解けている」の実演 ★)

オリジナル母関数 F(x,θ)=mωx22cot⁡θF(x,\theta)=\dfrac{m\omega x^2}{2}\cot\theta が生成する正準変換を求め、調和振動子 H=p22m+mω2x22H=\dfrac{p^2}{2m}+\dfrac{m\omega^2x^2}{2} を新変数で書け。

解答

生成の規則(新座標を θ\theta、新運動量を JJ とする)より

p=∂F∂x=mωxcot⁡θ,J=−∂F∂θ=mωx22sin⁡2θ.p=\frac{\partial F}{\partial x}=m\omega x\cot\theta,\qquad J=-\frac{\partial F}{\partial\theta}=\frac{m\omega x^2}{2\sin^2\theta}.

第2式を xx について解き、第1式に代入すると

x=2Jmω sin⁡θ,p=2Jmω cos⁡θx=\sqrt{\frac{2J}{m\omega}}\,\sin\theta,\qquad p=\sqrt{2Jm\omega}\,\cos\theta

({x,p}(θ,J)=1\{x,p\}_{(\theta,J)}=1 となること、すなわち正準性は SymPy でも確認済み)。Hamiltonian に代入すると cos⁡2+sin⁡2=1\cos^2+\sin^2=1 が起きて

H=Jωcos⁡2θ+Jωsin⁡2θ= ωJ H=J\omega\cos^2\theta+J\omega\sin^2\theta=\boxed{\ \omega J\ }

——座標 θ\theta が消えた(循環座標)。新変数での正準方程式は

θ˙=∂H∂J=ω,J˙=−∂H∂θ=0\dot\theta=\frac{\partial H}{\partial J}=\omega,\qquad \dot J=-\frac{\partial H}{\partial\theta}=0

と自明で、θ=ωt+θ0\theta=\omega t+\theta_0、J=J=const.——「振動を解く」作業が変数の選び方に吸収されて消滅した。これが正準変換の「うれしさ」の実演である。しかもこの JJ は、位相空間の楕円軌道について

12π∮p dx=12π∫02π ⁣p dxdθ dθ=12π∫02π ⁣2Jcos⁡2θ dθ=J\frac{1}{2\pi}\oint p\,\mathrm{d} x =\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}\!p\,\frac{\mathrm{d} x}{\mathrm{d}\theta}\,\mathrm{d}\theta =\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}\!2J\cos^2\theta\,\mathrm{d}\theta=J

——§7.2.7 の作用変数そのものであり、(θ,J)(\theta,J) は角変数・作用変数の組にほかならない。E=ωJE=\omega J は ω=dE/dJ\omega=\mathrm{d} E/\mathrm{d} J の実例でもある。■\blacksquare

量子論との接続:正準変換の量子版はユニタリ変換。

この節の構造は、量子力学の読者には既視感があるはずだ。対応は次のとおりである。

  • 保存すべき構造:古典の正準変換は {X,P}=1\{X,P\}=1 を保つ変換だった。量子力学でその役を担うのがユニタリ変換 X^=U^†x^U^, P^=U^†p^U^\hat X=\hat U^\dagger\hat x\hat U,\ \hat P=\hat U^\dagger\hat p\hat U である:相似変換は交換子を保つから [X^, P^]=U^†[x^, p^]U^=iℏ\left[\hat X,\,\hat P\right]=\hat U^\dagger\left[\hat x,\,\hat p\right]\hat U=\mathrm{i}\hbar——Dirac の辞書 {,}↔[⋅, ⋅]/iℏ\{,\}\leftrightarrow\left[\cdot,\,\cdot\right]/\mathrm{i}\hbar がそのまま「正準変換 ↔\leftrightarrow ユニタリ変換」に持ち上がる。上の例 (i)(スケール変換 x→λx, p→p/λx\to\lambda x,\ p\to p/\lambda)はスクイージング(拡大縮小)のユニタリに、例 (ii)(X=p, P=−xX=p,\ P=-x)はFourier 変換に対応する——「波動関数を運動量表示に書き換える」操作は、量子版の正準変換なのである。
  • 生成子:恒等変換に近い微小正準変換は、1つの関数 G(x,p)G(x,p) から δf=ε{f,G}\delta f=\varepsilon\{f,G\} の形で生成される(例:G=pG=p が並進、G=HG=H が時間発展そのもの)。量子側の対応物はまさに U^=e−iεG^/ℏ\hat U=\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\varepsilon\hat G/\hbar}——第2部『対称性と結晶バンド』の第2章の「対称性 ⇔\Leftrightarrow 保存量」の定理で使った生成子の概念は、古典側では「微小正準変換の母」だったのである。
  • 面積保存の行き先:正準変換・時間発展が位相空間の面積を保つ(Liouville)ことの量子版が、ユニタリ性=確率の保存である。さらに Bohr–Sommerfeld の描像(面積 hh につき1状態;第5章)と合わせると、「時間発展やパラメータの断熱変化で状態の数が保存される」ことの半古典的な理由も面積保存に帰着する。
  • 作用・角変数の量子版:上の例題の H=ωJH=\omega J と、調和振動子の代数的解法 H^=ℏω(N^+12)\hat H=\hbar\omega(\hat N+\tfrac12)(第8部『時間依存摂動論とダイナミクス』の第0章§0.1)を見比べてほしい。対応は J↔ℏ(N+12)J\leftrightarrow\hbar(N+\tfrac12)——生成消滅演算子 a^,a^†\hat a,\hat a^\dagger による対角化は、作用・角変数への正準変換の量子版である(実際 a^∝mωx^+ip^/mω\hat a\propto\sqrt{m\omega}\hat x+\mathrm{i}\hat p/\sqrt{m\omega} は古典側の複素座標 J e−iθ\sqrt{J}\,\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\theta} に対応する)。調和振動子で Bohr–Sommerfeld が厳密になった(第5章例題5.1)のは、この系では「量子版の作用・角変数変換」が厳密に遂行できることの反映と読める。

木下の勉強ステータス

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