解答
§1.2 の定石を一段ずつなぞる。
Step 0(無摂動系の整理). H^0=μBB0σ^z の固有状態は ∣±⟩、固有値は E±=±μBB0。準位間隔は E+−E−=2μBB0≡ℏω0(ω0=2α)。始状態 ∣i⟩=∣+⟩、終状態 ∣f⟩=∣−⟩ で、この遷移の Bohr 振動数は
ω−+=ℏE−−E+=−ω0.
Step 1(行列要素と選択則). 前節の行列表示 V^(t)=μBB1(0eiωte−iωt0) の左下成分を読んで
⟨−∣V^(t)∣+⟩=μBB1eiωt,⟨+∣V^(t)∣+⟩=⟨−∣V^(t)∣−⟩=0.
回転磁場は純粋に非対角——スピンを反転させる遷移だけを起こし、準位をずらす対角成分をもたない。対角要素が零である事実は Step 3′ で効く。
Step 2(相互作用描像の位相).
V−+I(t)=⟨−∣V^(t)∣+⟩eiω−+t=μBB1ei(ω−ω0)t=ℏβeiΔt,Δ≡ω−ω0 (離調).
外場の回転 eiωt と準位の位相 e−iω0t が合成され、時間依存が単色 eiΔt に化けた——定石の標準形である。
Step 3(1次振幅と万能公式).
c−(1)(t)=−ℏi∫0tV−+I(t1)dt1=−iβ∫0teiΔt1dt1=−iβeiΔt/2Δ2sin(Δt/2)
(§1.2 の標準積分をそのまま使った)。絶対値の2乗をとれば、v=ℏβ とした万能公式そのもので
P+→−(t)≃c−(1)2=Δ24β2sin22Δt=(ω−ω0)24β2sin22(ω−ω0)t
Step 3′(なぜこれで「2次まで」なのか). 2次振幅は中間状態 m を一つ挟む
c−(2)(t)=(−ℏi)2m∑∫0tdt1∫0t1dt2V−mI(t1)Vm+I(t2).
2準位系なので中間状態は m∈{+,−} の2つだけ。和を展開すると2本の経路の被積分関数
m=− の経路V−−I(t1)V−+I(t2) + m=+ の経路V−+I(t1)V++I(t2)
になる。ここで決定的なのは、この問題の V^(t)=μBB1(0eiωte−iωt0) が非対角のみで、対角要素がゼロだという事実である(相互作用描像に移しても VnmI=Vnmeiωnmt ゆえ対角性は保たれる):
V++I(t)=0,V−−I(t)=0.
これを2経路に代入すると、m=− の経路は先頭の因子 V−−I(t1)=0 で潰れ、m=+ の経路は末尾の因子 V++I(t2)=0 で潰れる:
V−−I(t1)V−+I(t2)=0,V−+I(t1)V++I(t2)=0.
どちらの経路も因子の一つが恒等的にゼロなので、積分するまでもなく
c−(2)(t)≡0
パリティによる言い換え. V^ が非対角のみとは、「摂動は蹴るたびに必ずスピンを反転させ(∣+⟩↔∣−⟩)、その場に留まる成分をもたない」ということ。すると ∣+⟩ から ∣−⟩ へ行くには奇数回の反転が要り、∣+⟩∣−⟩∣+⟩ と偶数回蹴られると必ず出発点 ∣+⟩ に戻ってしまう。ゆえに ∣+⟩→∣−⟩ の遷移には奇数次 c−(1),c−(3),… だけが寄与し、偶数次はすべて零。したがって確率を B1 の2次まで正しく与えるのは ∣c−(1)∣2 で尽きており、次の補正は 2Re[c−(1)∗c−(3)]=O(B14)(c−(1)=O(B1) と c−(3)=O(B13) の積)から始まる。
(もし静磁場のずれ δBzσ^z のような対角摂動が加われば V−−I=0 となり、m=− の経路が生き残って c−(2)=0 になる。2次が消えるのは、本問の V^ が純粋にスピン反転型だからこその結果である。)