信号処理論入門 第8章 §8.5 ★★★ FIRは常に安定・IIRは分母あり。差分方程式の実装
システムをディジタル信号処理プロセッサ(DSP)としてハードウェア実装するときの構成単位は、乗算器(x[n]↦ax[n])、加算器、遅延器(メモリ:x[n]↦x[n−1]、z 領域では z−1 倍)の三つである。これらの組み合わせで実現できる入出力関係が差分方程式であり、インパルス応答の長さによって二つの族に分かれる。
FIR(finite impulse response)システムはインパルス応答が有限長のもので、差分方程式と伝達関数は
y[n]=b0x[n]+b1x[n−1]+⋯+bQx[n−Q],H(z)=b0+b1z−1+⋯+bQz−Q
となる(時間シフトの性質をそのまま使った)。インパルス応答は係数そのもの:h[n]=bn(0≤n≤Q)である。FIR システムの極は原点 z=0(Q 重)のみだから常に BIBO 安定である。
IIR(infinite impulse response)システムはインパルス応答が無限長のものである。無限長の h[n] を y[n]=∑m=0∞h[m]x[n−m] のまま実装するには無限個の部品が必要になるが、出力のフィードバックを使うと有限の部品で済む。例えばステップの z 変換 U(z)=1/(1−z−1) を伝達関数とするシステムはy[n]=x[n]+x[n−1]+x[n−2]+⋯(累積和)で、このままでは実現できないが、(1−z−1)Y(z)=X(z) と書き直せば
y[n]−y[n−1]=x[n]⟺y[n]=y[n−1]+x[n]
と、過去の出力一つを再利用するだけの形になる。一般の差分方程式は
y[n]+a1y[n−1]+⋯+aPy[n−P]=b0x[n]+b1x[n−1]+⋯+bQx[n−Q]
であり、両辺を z 変換して
H(z)=X(z)Y(z)=1+a1z−1+⋯+aPz−Pb0+b1z−1+⋯+bQz−Q
を得る。フィードバック係数 {ap} が分母を作り、極(したがって無限長の応答と安定性の問題)を生む—「IIR=分母がある」と覚えてよい(ただしすべての IIR システムが有理関数で書けるわけではない)。
分母の次数が分子の次数以上(P≥Q)のときプロパー、真に大きい(P>Q)とき真にプロパーと呼ぶ。z の正べきで書き直すと、非プロパーな伝達関数は多項式部分=未来の入力の参照を含むことになるから、因果的な LTI システムの伝達関数は常にプロパーである。
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