信号処理論入門 第9章 §9.2 ★★★ 距離の積で振幅概形
伝達関数を因数分解した形で単位円上の点 ejΩ を代入すると、各因子は「零点(または極)から ejΩ へ引いたベクトル」になる。例えば1次 FIR H(z)=1−b1z−1=(z−b1)/z では
H(ejΩ)=∣ejΩ−0∣ejΩ−b1=1ℓ(Ω),argH=θ(Ω)−Ω
となる。ここで ℓ(Ω),θ(Ω) は零点 b1 から ejΩ へのベクトルの長さと偏角である。一般の有理伝達関数でも同様に、
∣H∣=極からの距離の積零点からの距離の積,argH=零点偏角の和−極偏角の和
が成り立つ。ここから周波数応答の概形が数値計算なしで読める:単位円上を動く点 ejΩ が零点に近づくと振幅は谷(単位円上の零点なら 0)、極に近づくと振幅は山になる。分母分子の z のべきをそろえるときに現れる原点の極(バーチャルな極)は振幅を変えない(原点から単位円への距離は常に 1)が、位相には −Ω ずつ寄与するので忘れやすい。注意すること。
作図で位相の概形を描くとき、最後に必ず当てておきたい検算がある。位相を Ω について 0 から 2π まで一周ぶん追いかけたときの総変化量は、途中の細かい形に依らず単位円の内側にある零点と極の個数だけで決まる。理由は単純で、argH は各因子 ejΩ−zk の偏角の和(極の分は差)であり、点 ejΩ が単位円を一周するあいだに、円内の点から見たベクトルは 2π だけ回りきるのに対し、円外の点から見たベクトルは行って戻るだけで元の偏角に帰る(正味 0)からである。
要点
即答則:位相の総変化と平均群遅延
ΔargHΩ=02π=2π(Nzin−Npin),τg=2π1∫02πτg(Ω)dΩ=Npin−Nzin.
Nzin,Npin はそれぞれ単位円の内側にある零点・極の個数(重複度を数える。円外のものと円上のものは数えない)。第2式は τg=−d(argH)/dΩ を一周にわたり平均しただけである。
使い方:極零図さえ描けていれば、位相応答の概形を計算する前に「一周で何 π 下がるか」が分かる。作図した位相曲線の端点がこの値と合わなければ、どこかの因子の偏角を数え落としている(原点の極が代表的な落とし穴)。
三分類との対応(同じ振幅応答をもつ Q 次 FIR 系、極は原点に Q 個):
- 最小位相(零点が全部円内、Nzin=Q):ΔargH=0、平均群遅延 0。
- 最大位相(零点が全部円外、Nzin=0):ΔargH=−2πQ、平均群遅延 Q。
- 混合位相(内外に分かれる):その中間。
「同じ振幅応答をもつ系のうち最小位相系の遅れが最小」という定理が、ここでは数えるだけの命題になっている。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com