相対論入門 第2章 §2.3 ★★★ 速度は足し算でなく (2.19) で合成する。光速を超えない理由と、星の見える向きのずれが同じ式から出る
速度の変換
K で速度 u=(ux,uy,uz) で動く粒子を考える。この粒子を K′ から見た速度 u′ を求める。粒子の世界線上で近い2つの事象の座標の差を (dt,dx,dy,dz) とすると、dx=uxdt などである。Lorentz 変換は線形なので、座標の差も同じ式で変換される。
dt′=γ(dt−c2vdx)=γ(1−c2vux)dt,dx′=γ(dx−vdt)=γ(ux−v)dt,
dy′=dy=uydt、dz′=uzdt である。速度は u′=dx′/dt′ なので、比をとって
ux′=1−vux/c2ux−v,(2.19)
uy′=γ(1−vux/c2)uy,uz′=γ(1−vux/c2)uz(2.20)
を得る。逆向きは v を −v に替えたもので、
ux=1+vux′/c2ux′+v
などとなる。
運動の方向に垂直な成分 uy も変わることに注意する。座標は y′=y なのに、速度の成分は uy′=uy となる。これは、y を割る時間の側が変わるからである。
x 軸に沿った運動(uy=uz=0)に限る。物体の K′ での速度を u′ と書く。このとき K での速度は
u=1+u′v/c2u′+v(2.21)
である。これを速度の合成則と呼ぶ。u′v≪c2 なら分母は 1 に近く、Galilei の足し算 u=u′+v に戻る。
u′=c を入れると u=(c+v)/(1+v/c)=c である。光の速さはどの慣性系でも c のままである。
光速を超えないこと
速度の合成則で、光速より遅い速度をいくら合成しても光速に届かないことを示す。
命題 2.2(光速未満は保たれる ★★)
速度の変換 (2.19)・(2.20) について、u2=ux2+uy2+uz2、u′2 を同様に定めると
1−c2u′2=(1−vux/c2)2(1−u2/c2)(1−v2/c2)(2.22)
が成り立つ。したがって ∣v∣<c のとき、次が成り立つ。
- (i) u<c ならば u′<c である。
- (ii) u=c ならば u′=c である。
証明
D=1−vux/c2 と書く。(2.19)・(2.20) から
c2D2−u′2D2=c2D2−(ux−v)2−γ2uy2+uz2.
右辺を展開する。次の3つを使う。
c2D2(ux−v)2γ21=c2−2vux+c2v2ux2,=ux2−2vux+v2,=1−c2v2
これらを入れると
c2−2vux+c2v2ux2−ux2+2vux−v2−(uy2+uz2)(1−c2v2)=c2−v2−u2+c2v2u2
となる。−2vux は打ち消し合う。残りの速さの2乗の項は、まとまって u2=ux2+uy2+uz2 になる。
右辺は c2(1−u2/c2)(1−v2/c2) と因数分解できる。両辺を c2D2 で割れば (2.22) である。最後に結論の2つを確かめる。
- (i) ∣v∣<c かつ u<c とする。このとき ∣vux∣<c2 なので D>0 である。右辺は正なので、u′<c である。
- (ii) u=c なら右辺は 0 で、u′=c である。
物体を光速より速く送れないことは、第3章 §3.2 で因果律として、第5章 §5.2 でエネルギーが発散することとして、別の角度から確かめる。
光行差
光の速度にも (2.19)・(2.20) が使える。光が届く向きは観測者の速度によって変わり、星の見える方向がずれる。これを光行差と呼ぶ。
K で静止した星を考える。星の方向を、観測者から星へ向かう単位ベクトル n で表す。その x 軸となす角を α とする。
xy 面内で n=(cosα,sinα,0) である。星から来る光は −n の向きに進むので、光の速度は u=−cn である。K′ の観測者が見る星の方向は n′=−u′/c である。(2.19)・(2.20) に ux=−ccosα、uy=−csinα を入れると
cosα′=1+βcosαcosα+β,sinα′=γ(1+βcosα)sinα(2.23)
を得る(u′=c なので cos2α′+sin2α′=1 は自動的に成り立つ)。0<α<π の星を考える。β>0 なら cosα′>cosα で、星は進む向きの側へ寄って見える。
β≪1 で1次まで展開すると、α′=α−Δα として
Δα≃βsinα(2.24)
である。実際、cosα′≃(cosα+β)(1−βcosα)≃cosα+βsin2α とcos(α−Δα)≃cosα+Δαsinα を比べればよい。

図 2.3 光行差 (2.23)。横軸は静止した観測者が見る星の方向、縦軸は x の正の向きに速さ βc で動く観測者が見る方向。点線は β=0。β が大きいほど星は進む向き(α′=0)の側へ集まる。
図 2.3 のとおり、β が 1 に近づくと、ほとんどの星が進む向きの小さな円錐の中に集まって見える。K で α=90∘ の星を考える。(2.23) から、この星は cosα′=β、すなわち sinα′=1/γ の方向に見える。したがって静止系で前半分の空にある星は、K′ では半頂角 arcsin(1/γ) の円錐の中に収まる。
同じ式を、光源が動く場合に読み替えることもできる。K′ に静止した光源が、すべての向きに一様に光を出すとする。K ではその光の半分が、進む向きの半頂角 arcsin(1/γ) の円錐に集まる。光速に近い電子が出す放射が細いビームになるのはこのためで、放射の強さも含めた議論は『電磁気学入門』第11章 §11.4 で扱う。
例題 2.3 地球の公転による年周光行差 ★★
オリジナル地球は太陽のまわりを平均の速さ 29.8 km/s で公転している。太陽に対して静止した系での星の方向を α(公転の速度の向きから測る)とする。
- 地球から見た星の方向のずれ Δα の最大値を求めよ。角度の秒(1′′=1/3600 度)で表し、c=2.998×108 m/s を使え。
- 公転の速度は半年で向きが反転する。公転面に垂直な方向(黄道の極)にある星は、1年のあいだに天球上でどのような図形を描くか。
解答
(1) β=2.98×104/2.998×108=9.94×10−5 である。β≪1 なので (2.24) が使え、ずれは α=90∘(速度に垂直な方向の星)で最大になる。
Δαmax=β rad=9.94×10−5×π180×3600′′=20.5′′
である。この値は光行差定数と呼ばれ、18世紀に J. Bradley が星の位置の年周変化として見つけた量と同じ大きさである。γ−1≈5×10−9 なので、ここで現れるのは β の1次の効果である。相対論に特有の部分(γ の補正)はこの精度では見えない。
(2) 黄道の極にある星は、公転の速度とつねに垂直なので α=90∘ で、ずれは常に 20.5′′ である。ずれの向きは公転の速度の向きで、速度は1年で公転面内を1周する。したがって星は、真の位置を中心とする半径 20.5′′ の円を1年で1周する。
黄道の極から離れた星では、速度と星の方向のなす角が1年のあいだに変わり、ずれの大きさも変わる。図形は円でなく楕円になり、黄道面上の星では線分になる。
確認テスト
オリジナル
- 2.3-1 K′ の速さは 0.9c である(標準配置)。K′ で、同じ向きに速さ 0.9c で粒子を打ち出した。K での粒子の速さを求めよ。
- 2.3-2 屈折率 n の水が管の中を速さ v で流れている。水の静止系で光の速さは c/n である。実験室で、流れと同じ向きに進む光の速さをv の1次まで求め、u≃c/n+v(1−1/n2) となることを示せ。n=1.333 のときの係数 1−1/n2 の値を求めよ。
- 2.3-3 命題 2.2 の式 (2.22) を、x 軸に沿った運動(uy=uz=0)の場合に(2.19) から直接導け。
- 2.3-4 K′ に静止した光源が全方向に一様に光を出す。K′ の速さは β=0.99 である。K で、光の半分が入る前方の円錐の半頂角を度で求めよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com