相対論入門 第4章 §4.1 ★★★ 上付き・下付きの添字と総和規約は、以後のすべての式の書き方の規則になる
第2章で導いた Lorentz 変換は、ct と x を混ぜる線形変換であった。第3章では、その変換で値を変えない量として不変間隔
Δs2=c2Δt2−Δx2−Δy2−Δz2(4.1)
を見つけた。これから先、エネルギーと運動量、電荷密度と電流密度、電場と磁場のように、Lorentz 変換で互いに混ざり合う量が次々に出てくる。そのたびに γ と β の入った変換式を個別に書き下していては、式の数が増えるだけで見通しが立たない。
この章では、発想を逆にする。座標と同じ規則で変換する量に「4元ベクトル」という名前を付け、その規則を一度だけ確かめておく。そうしておけば、ある量が4元ベクトルだと分かった時点で変換則は自動的に決まり、内積をとれば不変量が得られる。
2つ以上の添字を持つ量(テンソル)にも同じ考え方を広げる。最後に、場の微分を同じ文法で扱えるようにする。
この章で作る道具の使い道を先に挙げておく。
- 第5章では4元速度と4元運動量を定義し、E2=(pc)2+(mc2)2 を4元運動量の内積として読む。
- 第6章では電磁場を反対称テンソル Fμν として扱い、そのエネルギー運動量テンソルを書く。
- 第8章からは計量 ημν を、位置によって変わる gμν に置き換える。それでも添字の上げ下げ・縮約・テンソルの変換則は、この章の規則がそのまま使われる。
前の章から借りる結果は2つある。1つめは x 方向のブーストである。
ct′=γ(ct−βx),x′=γ(x−βct),y′=y,z′=z(4.2)
ここで K′ 系は、もとの系に対して速度 vx^ で動く系である。記号は β=v/c、γ=(1−β2)−1/2 である。2つめは、不変間隔 (4.1) がこの変換で値を変えないことである。
座標と添字
時空の点(事象)を4つの数で指定する。時間の座標に c を掛けて長さの次元にそろえ、
xμ=(x0,x1,x2,x3)=(ct,x,y,z)(4.3)
と書く。添字 μ は上付きであり、指数ではない。x2 は y 座標のことであり、2乗ではない。2乗を書きたいときは (x1)2 のように括弧で包む。
添字の文字には次の約束を置く。
- ギリシャ文字 μ,ν,ρ,σ,α,β,… は0, 1, 2, 3を動く。
- ラテン文字 i,j,k,… は空間の成分1, 2, 3だけを動く。
3次元の位置ベクトルは太字で x=(x1,x2,x3) と書く。したがって xμ=(ct,x) である。
ただし β と γ は、ブーストの速さを表す記号として使い続ける。添字としての β は文脈で区別する。この章では添字に β を使う箇所でも、ブーストの速さと同じ式には並べない。
計量と不変間隔
不変間隔 (4.1) は、係数 +1,−1,−1,−1 を対角に並べた行列
ημν=10000−10000−10000−1=diag(+1,−1,−1,−1)(4.4)
を使うと、
Δs2=μ=0∑3ν=0∑3ημνΔxμΔxν(4.5)
と1つの式にまとまる。ημν を Minkowski 計量(または単に計量)と呼ぶ。名前は H. Minkowski に由来する。
(4.5) は、3次元の距離の2乗 ∑i(Δxi)2 を「長さを測る規則」とみなしたときの4次元版である。時間の方向と空間の方向とで符号が逆になっていることが、Euclid 空間との唯一の違いである。
この符号の付け方 (+,−,−,−) は流儀の1つで、時間的な間隔で Δs2>0 になる。逆の流儀 (−,+,+,+) の本では、同じ式の符号がところどころ反転する。式を比べるときは、計量の流儀を先に確かめる必要がある。
総和規約
(4.5) の2つの ∑ は、書かなくても添字の形から読み取ることができる。そこで次の約束を置く。
定義 4.1(Einstein の総和規約)
1つの項の中に同じ添字が上付きで1回、下付きで1回現れたら、その添字について0から3まで(ラテン文字なら1から3まで)和をとる。和の記号 ∑ は書かない。
この約束のもとで、(4.5) は次のように書くことができる。
Δs2=ημνΔxμΔxν
和をとる添字(この例の μ,ν)をダミー添字と呼ぶ。ダミー添字は和の変数なので、別の文字に取り替えても式の意味は変わらない。たとえば次の2つは同じ数である。
ημνΔxμΔxν=ηαβΔxαΔxβ
これに対し、項の中に1回だけ現れる添字を自由添字と呼ぶ。自由添字は「この式が μ=0,1,2,3 の4本の式をまとめたものである」ことを表す。
添字の式が正しく書けているかどうかは、次の3つの規則で機械的に点検することができる。
- 1つの項の中で、同じ添字は2回までしか現れない。2回現れるときは上下に1回ずつである。
- 等号や和でつながれたすべての項で、自由添字の文字と上下の位置が一致している。
- ダミー添字の文字は、同じ項の中のほかの添字と重ならないように選ぶ。
例を3つ挙げる。
- aμ=bμcνdν は正しい。右辺の ν はダミー添字で、μ は両辺で上の自由添字である。
- aμ=bμ は規則2に反する。
- aμbμcμ は規則1に反し、和をどう取るかが決まらない。
添字の式を書くときによく起きる誤り
- 2つの式を掛けるとき、両方に同じダミー添字の文字が入っていると、規則1が破れる。たとえば a⋅b=aμbμ と c⋅d=cμdμ を掛ける。その積は、片方の文字を替えて aμbμcνdν と書く。
- 上付き同士 aμbμ の和は、この章の規則では定義しない。和をとりたいときは計量で片方を下げてから掛ける。
- ημν は行列として書けるが、添字の式は行列の積の順序を気にしなくてよい。ημνaν と aνημν は同じ数である。
添字の上げ下げ
4元ベクトル aμ と計量から、下付きの添字を持つ組
aμ:=ημνaν=(a0,−a1,−a2,−a3)(4.6)
を作る。aμ を反変成分、aμ を共変成分と呼ぶ。計量が対角なので、空間成分の符号が反転するだけである。逆に戻すには、ημν の逆行列 ημν を使う。ημν は対角成分が ±1 なので逆行列も同じ成分を持ち、
ημληλν=δμν,ημν=diag(+1,−1,−1,−1)(4.7)
を満たす。ここで δμν は Kronecker のデルタである。添字が等しいとき1、それ以外で0をとる。(4.7) を使うと、確かにもとの成分に戻る。
ημνaν=ημνηνλaλ=δμλaλ=aμ
最後の等号では、Kronecker のデルタとの縮約が「添字の文字を λ から μ に付け替える」操作になることを使った。
2つの4元ベクトルの内積を
a⋅b:=ημνaμbν=aμbμ=aμbμ=a0b0−a⋅b(4.8)
と定める。中央の2つの等号は、(4.6) と、ημν が対称であることから従う。右辺の a⋅b は3次元の内積であり、点で書いた4次元の内積とは記号の文脈で区別する。
a⋅a を a のノルムと呼ぶ。Euclid 空間と違って、ノルムは負にも0にもなりうる。第3章 §3.2 で座標差について述べた分類は、任意の4元ベクトルに対して同じように定める。
- a⋅a>0 なら時間的。
- a⋅a=0 なら光的。
- a⋅a<0 なら空間的。
なぜ2種類の成分が要るのか
上付きと下付きの区別は、計量の符号に由来する技術的な都合に見えるかもしれない。しかし実際には、基底が直交していないときにはいつでも現れる、より一般的な区別である。
図4.1 の2次元の Euclid 平面で、互いに直交しない基底 e1,e2 をとる。2種類の成分は次のように読む。
- 反変成分:ベクトルを a=a1e1+a2e2 と書いたときの係数である。基底に平行に射影して読む(平行四辺形の辺の長さ)。
- 共変成分:ベクトルと基底との内積 ai:=a⋅ei である。基底に垂直に射影して読む。
2つの組は
ai=a⋅ei=ajej⋅ei=gijaj,gij:=ei⋅ej(4.9)
で結ばれる。基底どうしの内積を並べた行列 gij が計量であり、添字を下げる操作はこの行列を掛けることにほかならない。正規直交基底では gij=δij になり、2種類の成分は一致する。3次元の物理で両者を区別しなかったのはこのためである。
Minkowski 時空では、慣性系の基底 e0,e1,e2,e3 は「4次元の内積」(4.8) について互いに直交している。しかし長さの2乗の符号が違い、e0⋅e0=+1、ei⋅ei=−1 である。そのため gμν=eμ⋅eν=ημν が単位行列にならず、反変成分と共変成分が空間成分の符号の分だけずれる。
第8章で曲がった時空を扱うと、基底は位置ごとに斜交し、計量 gμν は対角ですらなくなる。そのときも (4.9) の関係はそのまま成り立つ。

図 4.1 斜交する基底での2種類の成分(単位長さの基底の場合)。破線は基底に平行な射影で、これで反変成分 a1,a2 を読む。点線は基底に垂直な射影で、これで共変成分 ai=a⋅ei を読む。基底が直交していれば2本の線は重なる。
例題 4.1 添字の式の計算 ★★
オリジナル4元ベクトル aμ=(3,1,2,0)、bμ=(2,0,1,1) を考える。
- 共変成分 aμ、bμ を書け。
- 次の3つの内積を求めよ。
a⋅a,b⋅b,a⋅b
2つのベクトルが、それぞれ時間的・光的・空間的のどれかを判定せよ。3. ημνημν と δμμ を求めよ。
解答
- (4.6) により、空間成分の符号を反転する。
aμ=(3,−1,−2,0),bμ=(2,0,−1,−1).
2. 内積は aμbμ の形で、成分ごとに掛けて足せばよい。
a⋅a=aμaμ=3⋅3+(−1)⋅1+(−2)⋅2+0⋅0=9−1−4=4,
b⋅b=2⋅2+0⋅0+(−1)⋅1+(−1)⋅1=4−0−1−1=2,
a⋅b=aμbμ=3⋅2+(−1)⋅0+(−2)⋅1+0⋅1=6−0−2+0=4.
a⋅a=4>0、b⋅b=2>0 なので、2つとも時間的である。3. ημνημν は2つのダミー添字について和をとる。対角成分以外は 0 なので
ημνημν=μ=0∑3ημμημμ=(+1)2+(−1)2+(−1)2+(−1)2=4.
別の見方をすると、これは (4.7) で ν を μ に合わせて和をとった量と同じである。
ημληλμ=δμμ
δμμ=δ00+δ11+δ22+δ33=4 は時空の次元に等しい。
確認テスト
オリジナル
- 4.1-1 次の式のうち、添字の規則に反しているものを選び、どの規則に反するかを答えよ。
(a) aμ=ημνbν(b) aμ=bμcνdν(c) aμ=bνcνdν(d) aμ=bμ
2. 4.1-2 aμ=(5,4,0,3)、bμ=(1,1,1,1) とする。次の4つの内積を求めよ。
a⋅a,b⋅b,a⋅b,(a+b)⋅(a+b)
さらに、次の式が成り立つことを数値で確かめよ。
(a+b)⋅(a+b)=a⋅a+2a⋅b+b⋅b
3. 4.1-3 δμνδνμ と ημνηνληλρηρμ を求めよ。4. 4.1-4 任意の4元ベクトル a,b について、aμbμ=aμbμ を証明せよ。計量の対称性 ημν=ηνμ を使ってよい。
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