相対論入門 第8章 §8.2 ★★★ 長さと時間を測る規則。重力の場は計量の成分として表され、以後のすべての計算は計量から始まる
線素と計量
多様体には、そのままでは長さや角度の概念が無い。座標は点に番号を付けるだけで、番号の差がどれだけの距離にあたるかは別に与える必要がある。特殊相対論では、不変間隔 ds2=ημνdxμdxν がその規則であった。これを、点ごとに係数の変わる2次形式に広げる。
定義 8.6(計量)
各点に、対称な (0,2) 型テンソル gμν=gνμ で、行列として逆行列を持つものが与えられているとき、これを計量テンソル(計量)と呼ぶ。隣り合う2点の間の線素を
ds2=gμν(x)dxμdxν(8.11)
で定める。2次元の曲面のように gμν が正定値のものを Riemann 計量、時空のように対角化したとき符号が (+,−,−,−) になるものを Lorentz 計量と呼ぶ。
gμν を対称にとってよい理由は、反対称な部分 Aμν=−Aνμ が線素に寄与しないことにある(確認テスト 8.2-1)。実際、
Aμνdxμdxν=0
となる。線素 ds2 は2点の間の「間隔」で、座標の取り方によらない量として定める。ds′2=ds2 が任意の dxμ で成り立つことを要求すると、(8.2) から
gμν′dx′μdx′ν=gμν′∂xα∂x′μ∂xβ∂x′νdxαdxβ=gαβdxαdxβ
となる。両辺の係数は α,β について対称なので、任意の dx で等しいことから係数どうしが等しい。これを g′ について解くと
gμν′=∂x′μ∂xα∂x′ν∂xβgαβ(8.12)
を得る。これは (0,2) 型テンソルの変換則 (8.9) にほかならない。行列 Jαμ=∂xα/∂x′μ を使うと、g′=JTgJ と書くこともできる。
計量の逆行列を gμν と書く。
gμλgλν=δμν.(8.13)
gμν は (2,0) 型のテンソルである。第4章と同じく、計量で添字を下げ Vμ=gμνVν、逆計量で添字を上げる ωμ=gμνων。2つの接ベクトルの内積は gμνUμVν=UμVμ で、座標によらない。曲線 xμ(λ) の長さ(時空では固有時に c を掛けたもの)は
L=∫gμνdλdxμdλdxνdλ(8.14)
で、パラメータの付け替え λ→λ′(λ) でも値を変えない。
符号と体積要素
計量の行列は対称なので、各点で直交行列によって対角化できる。さらに座標の線形な取り替えで対角成分の大きさを1にそろえることができる。このとき残る対角成分の正負の個数は、変換 g′=JTgJ で変わらない(Sylvester の慣性法則)。
したがって「時空の計量の符号は (+,−,−,−)」という言明は座標によらない意味を持つ。正の固有値が1つの計量では、時間的・空間的・光的の区別が各点の接空間で第3章と同じように定まる。
面積や体積を測るには、座標の微小な箱 dnx=dx1⋯dxn にどれだけの大きさを割り当てるかを決める必要がある。g=detgμν と書く。計量の変換と積分の変数変換は、それぞれ
g′dnx′=(detJ)2g=∣det(∂x′/∂x)∣dnx=∣detJ∣−1dnx((8.12) の行列式をとった)(積分の変数変換)
となる。この2つを掛け合わせると
∣g′∣dnx′=∣detJ∣∣g∣⋅∣detJ∣−1dnx=∣g∣dnx(8.15)
となり、∣g∣dnx は座標によらない。これを体積要素と呼ぶ。時空では g<0 なので −gd4x と書く。
計量の例
平面の極座標。
Euclid 平面の計量は直交座標で ds2=dx2+dy2、すなわち gμν=δμν である。例題 8.1 の Jacobi 行列 J を使うと g′=JTJ である。J の2つの列ベクトル
(cosφ, sinφ),(−rsinφ, rcosφ)
どうしの内積を並べればよい。結果は
ds2=dr2+r2dφ2,grr=1,gφφ=r2,grφ=0(8.16)
である。成分 gφφ が位置によって変わるが、空間は平らなままである。計量の成分が定数でないことは、空間が曲がっていることを意味しない。
2次元の球面。
半径 a の球面を3次元空間に置き、点を X=(asinθcosφ,asinθsinφ,acosθ) と表す。球面の上の2点の距離は、3次元空間の距離 dX⋅dX で測る。dX=∂θXdθ+∂φXdφ で、
∂θX⋅∂θX=a2,∂φX⋅∂φX=a2sin2θ,∂θX⋅∂φX=0
であるから、
ds2=a2(dθ2+sin2θdφ2)(8.17)
を得る。g=a2sinθ なので、面積は
∫02π∫0πa2sinθdθdφ=4πa2
である。
こうして得た計量は、球面の上の住人が球面の中だけで距離を測った結果と同じであり、3次元空間を使わずに球面の幾何を書き表している。この「中から測った幾何」が一般相対論で必要になる考え方である。時空を外から眺める高い次元の空間は、物理的には存在しなくてよい。
Minkowski 時空の球座標。
特殊相対論の時空でも、空間を球座標で書けば
ds2=c2dt2−dr2−r2(dθ2+sin2θdφ2)(8.18)
となる(確認テスト 8.2-2 の空間部分に時間を足したもの)。第12章の Schwarzschild 計量は、この形の c2dt2 と dr2 の係数を動径の関数に置き換えたものである。
局所平坦性
極座標の例が示すように、計量の成分が場所によって変わっても、座標をうまく選べば定数にできることがある。では、球面のように本当に曲がった空間では、どこまで計量を簡単にできるだろうか。答えは次の定理である。
定理 8.7(局所平坦性)
n 次元の多様体の任意の点 p で、次の2つを満たす座標をとることができる。
- 点 p での計量 gμν′(p) は対角である。対角成分は ±1 で、時空では
gμν′(p)=ημν.
2. 計量の1階微分がすべて点 p で0になる。
∂λ′gμν′(p)=0.
一方、計量の2階微分 ∂λ′∂κ′gμν′(p) については、次の数の組み合わせが、座標をどう選んでも一般には0にすることができない。
12n2(n2−1)
証明
点 p を原点とする座標 x′ を、もとの座標の Taylor 展開
xμ=xpμ+Aμαx′α+21Bμαβx′αx′β+61Cμαβγx′αx′βx′γ+⋯(8.19)
で決める。係数 B は下の2つの添字について、C は下の3つの添字について対称にとることができる。変換則 (8.12) の右辺
∂x′μ∂xα∂x′ν∂xβgαβ(x)
を x′ で展開する。すると、各次数に現れる係数は次のとおりで、それぞれの次数で新しく現れる係数について1次式になる。
- g′(p) には A だけが現れる。
- ∂′g′(p) には A,B が現れる。
- ∂′∂′g′(p) には A,B,C が現れる。
そこで、各次数で「満たしたい条件の数」と「自由に選べる係数の数」を比べる。
0階 g′(p)=ATg(p)A である。g(p) は対称行列なので、A を次の行列に選べば1つ目の条件が満たされる。直交行列で対角化してから、各軸を 1/∣固有値∣ 倍する行列である。数を比べると次のようになる。
A の成分対称行列 g′(p) の条件残り(1つ目の条件を保ったまま自由に選べる)n2 個n(n+1)/2 個n2−n(n+1)/2=n(n−1)/2 個
n=4 では残りが6個で、ημν を保つ変換(3つの回転と3つのブースト)の数に等しい。
1階 条件と選べる係数の数は次のとおりである。
条件 ∂λ′gμν′(p)係数 Bμαβλ が n 通り×対称な (μ,ν) が n(n+1)/2 通り上の添字 n 通り×対称な下の組 n(n+1)/2 通り
どちらも n⋅n(n+1)/2 個で、数がちょうど一致する。実際にすべての1階微分を0にする B が1組存在する。その具体的な形は §8.3 の式 (8.25) で与える。
2階 条件と選べる係数の数は次のとおりである。
条件 ∂λ′∂κ′gμν′(p)係数 Cμαβγ対称な (λ,κ) と対称な (μ,ν) の組で [n(n+1)/2]2 個上の添字 n 通り×下の3つの対称な組 n(n+1)(n+2)/6 通り
係数は n2(n+1)(n+2)/6 個しかない。差は
4n2(n+1)2−6n2(n+1)(n+2)=12n2(n+1)[3(n+1)−2(n+2)]=12n2(n+1)(n−1)=12n2(n2−1)
であり、少なくともこれだけの数の2階微分の組み合わせは C を選んでも動かすことができない。これらは座標の取り方によらない、空間そのものの性質である。
数え上げの結果を表にしておく。
| 次元 n | 2階微分の数 [n(n+1)/2]2 | 係数 C の数 | 消せない数 n2(n2−1)/12 |
| 2 | 9 | 8 | 1 |
| 3 | 36 | 30 | 6 |
| 4 | 100 | 80 | 20 |
2次元では消せない量が1つだけで、これが曲面の Gauss 曲率にあたる。4次元の20個は、第10章で導入する Riemann テンソルの独立な成分の数に一致する。
定理 8.7 の座標は、第7章 §7.2 の局所慣性系の数学的な表現である。点 p で計量は ημν に等しく、その1階微分は0である。そのため点 p のごく近くでは、計量は Minkowski 計量からの2次のずれしか持たない。
第9章で見るように、自由落下の運動方程式に現れる重力の項は計量の1階微分で書かれるので、この座標では p において重力が消える。消えずに残る2階微分は、第10章で潮汐力として現れる。等価原理が「十分に小さな」実験室に限られるのは、このためである。
例題 8.2 一様に加速する座標の計量 ★★
オリジナル2次元の Minkowski 時空 ds2=c2dt2−dx2 に、第7章 §7.4 の Rindler 座標 (T,ξ) を
ct=(αc2+ξ)sinhcαT,x=(αc2+ξ)coshcαT−αc2
で入れる。範囲は ξ>−c2/α で、α は原点の観測者の固有加速度である。第7章 §7.4 では、この座標での線素を微分の2乗の差から求めた。ここでは同じ線素を、テンソルの変換則の練習として求め直す。
- 計量の変換則 (8.12) を使って、(x′0,x′1)=(cT,ξ) での計量を求めよ。
- この座標で計量の成分は定数でないが、時空は平らなままである。そのことを1文で説明せよ。
解答
- 次のように略す。
Ξ=αc2+ξ,χ=cαT
(η は Minkowski 計量に使うので、ここでは χ と書く。)cT で微分するときは ∂/∂(cT)=(1/c)∂/∂T に注意して、
∂(cT)∂(ct)∂ξ∂(ct)=c2Ξαcoshχ=Ncoshχ,=sinhχ,∂(cT)∂x∂ξ∂x=Nsinhχ,=coshχ.
ここで N=Ξα/c2=1+αξ/c2 とおいた。g′=JTηJ で η=diag(1,−1) なので、
g00′=(Ncoshχ)2−(Nsinhχ)2=N2,g11′=sinh2χ−cosh2χ=−1,
g01′=Ncoshχsinhχ−Nsinhχcoshχ=0.
したがって
ds2=(1+c2αξ)2c2dT2−dξ2.
これは第7章 §7.4 の Rindler 座標の線素(y,z を省いたもの)と一致する。Ξ,χ は、第7章 §7.4 で別の文字(ρ,θ)で書いた量である。この章では2つの文字を球面上の距離と極角に使うので、文字を替えた。2. 計量はもとの座標 (ct,x) で ημν という定数であり、変換則 (8.12) で座標を取り替えただけなので、同じ平らな時空を別の番号付けで表したにすぎない。曲がっているかどうかは、定理 8.7 の消せない2階微分(第10章の Riemann テンソル)が0かどうかで判定する。
次の3点は第7章 §7.4 で調べた。
- ξ=0 の世界線は双曲線運動である。
- T はその上の固有時である。
- g00=(1+αξ/c2)2 は重力の時間の遅れと同じ形をしている。
例題 8.3 地表に描いた円の周の長さ ★★★
オリジナル地球を半径 a=6371 km の球とみなす。北極から地表に沿って測った距離(子午線に沿った距離)が ρ の点の集まりは円になる。
- この円の周の長さ C(ρ) を、球面の計量 (8.17) から求めよ。
- ρ≪a で C(ρ) を展開せよ。平面での値 2πρ からの不足を、ρ の最低次で求めよ。
- ρ=1000 km のとき、周の長さ、不足 2πρ−C、相対的な不足を数値で求めよ。
解答
- 子午線(φ= 一定)の上では ds=adθ である。したがって北極からの距離 ρ の点は θ=ρ/a にある。円の上では dθ=0 で ds=asinθdφ。方位角を1周分積分して
C(ρ)=∫02πasinaρdφ=2πasinaρ.
2. sinu=u−u3/6+O(u5) を使うと
C(ρ)=2πa[aρ−61a3ρ3+O(a5ρ5)]=2πρ−3a2πρ3+O(a4ρ5).
不足は πρ3/(3a2)、相対的な不足は (πρ3/3a2)/(2πρ)=ρ2/(6a2) である。3. ρ/a=1000/6371=0.15696 で sin(0.15696)=0.15632。
C=2π×6371×0.15632 km=6257.4 km,2πρ=6283.2 km.
不足は 25.8 km で、近似式 πρ3/(3a2)=π×109/(3×4.059×107) km=25.8 km と一致する。相対的な不足は ρ2/(6a2)=4.1×10−3 である。
相対的な不足が ρ の1次でなく2次で始まることが、定理 8.7 の内容である。北極を原点とする座標で計量の1階微分が0なので、平面からのずれは2次から現れる。
その係数 1/(6a2) は曲がり具合 1/a2 を表す。第10章でこれを球面のスカラー曲率 2/a2 と結びつける。図 8.2 に比 C/(2πρ) を示す。

図 8.2 球面上で北極から距離 ρ の円の周の長さと、平面での値 2πρ との比(実線)。破線は2次までの近似。ρ→0 で比は 1 に近づき、ずれは ρ2 に比例して始まる。ρ=πa/2(赤道)で 2/π、ρ=πa(南極)で 0 になる。
確認テスト
オリジナル
- 8.2-1 線素 ds2=gμνdxμdxν で、計量の反対称な部分が線素に寄与しないことを示せ。
- 8.2-2 3次元の Euclid 空間の計量 dx2+dy2+dz2 を球座標に変換し、g を求めよ。それを使って半径 R の球の体積を計算せよ。
- 8.2-3 球面の計量 (8.17) で、θ の代わりに u=cosθ を座標に使うと、計量はどう書けるか。そのとき g が定数になることを示し、北緯 30∘ より北の部分の面積が球面全体の何分の1かを求めよ。
- 8.2-4 Jαμ=∂xα/∂x′μ とする。座標変換で detg′=(detJ)2detg となることを示し、それを使って ∣g∣dnx が座標によらないことを証明せよ。
- 8.2-5 3次元の空間で、計量の2階微分の数と、座標の3次の係数 Cμαβγ の数を数え、消せない組み合わせの数が6になることを確かめよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com