相対論入門 第8章 §8.3 ★★★ 偏微分を、座標によらない微分(共変微分)に直す。測地線・曲率・場の方程式のすべてがこの微分で書かれる
共変微分の定義
§8.1 で、ベクトル場の偏微分 ∂μVν は余分な項 (8.10) のためにテンソルにならないことを見た。そこで、偏微分に「基底の変化を補う項」を足して、テンソルとして変換する微分を作る。補う項は V について1次であるはずなので、
∇μVν:=∂μVν+ΓνμλVλ(8.20)
とおく。係数 Γνμλ を接続の係数と呼ぶ。共変微分が (1,1) 型のテンソルになるように、Γ の変換則を決める。
要求は
∇μ′V′ν=∂x′μ∂xα∂xβ∂x′ν∇αVβ
である。左辺の偏微分の部分は (8.10) で計算済みなので、
∂x′μ∂xα∂xβ∂x′ν∂αVβ+∂x′μ∂xα∂xα∂xγ∂2x′νVγ+Γ′νμλV′λ=∂x′μ∂xα∂xβ∂x′ν(∂αVβ+ΓβαγVγ)
となる。両辺の ∂αVβ の項は消える。残りに Vγ=(∂xγ/∂x′λ)V′λ を代入し、任意のベクトルで成り立つことから係数を比べると、
Γ′νμλ=∂x′μ∂xα∂x′λ∂xγ∂xβ∂x′νΓβαγ−∂x′μ∂xα∂x′λ∂xγ∂xα∂xγ∂2x′ν(8.21)
を得る。第1項は (1,2) 型テンソルの変換則であるが、第2項は Γ によらない余分な項である。したがって Γ はテンソルではない。
この余分な項が、偏微分の余分な項を打ち消す役をしている。直交座標で Γ=0 でも、極座標では Γ=0 となりうる。
Γ はテンソルでない
- Γ は、ある座標で0でも別の座標で0でないことがある。定理 8.5 はテンソルにしか使えない。
- 逆に、ある点で Γ=0 になる座標を選ぶことができる(下の (8.25))。これが局所慣性系で重力が消えることの数学的な表現になる。
- 2つの接続の係数の差 Γνμλ−Γ~νμλ では、余分な項が打ち消し合ってテンソルになる(確認テスト 8.3-4)。
余接ベクトルの共変微分は、スカラーの共変微分が偏微分に等しいこと、積の微分の規則(Leibniz 則)が成り立つことを要求して決める。スカラー ωνVν に対して
∂μ(ωνVν)=∇μ(ωνVν)=(∇μων)Vν+ων(∂μVν+ΓνμλVλ)
が成り立つべきである。左辺を積の微分で展開し、両辺の ων∂μVν を消すと
(∇μων)Vν=(∂μων)Vν−ωνΓνμλVλ.
任意の V で成り立つので、添字の名前を整えて
∇μων=∂μων−Γλμνωλ(8.22)
を得る。一般のテンソルでは、上付きの添字ごとに +Γ、下付きの添字ごとに −Γ の項を1つずつ足す。たとえば
∇λTμν=∂λTμν+ΓμλκTκν−ΓκλνTμκ(8.23)
である。
Levi-Civita 接続と Christoffel 記号
ここまでの議論では Γ を変換則 (8.21) を満たすものとして自由に選べる。計量のある多様体では、次の2つの条件で Γ がただ1つに決まる。
定理 8.8(Levi-Civita 接続)
接続の係数が
- ねじれが無い:Γρμν=Γρνμ、
- 計量と両立する:∇λgμν=0、
の2つを満たすなら、Γ は
Γρμν=21gρσ(∂μgσν+∂νgσμ−∂σgμν)(8.24)
に限られる。逆に (8.24) はこの2つの条件を満たす。(8.24) を Christoffel 記号と呼ぶ。
証明
条件2を (8.23) と同じ規則で書くと
∂λgμν=Γκλμgκν+Γκλνgμκ.
添字を下げた記号 Γνλμ:=gνκΓκλμ を使い、条件1から後ろの2つの添字について対称であることに注意すると
∂λgμν=Γνλμ+Γμλν.
添字 (λ,μ,ν) を巡回させた2つの式
∂μgνλ=Γλμν+Γνμλ,∂νgλμ=Γμνλ+Γλνμ
も同時に成り立つ。2番目と3番目を足して1番目を引くと、後ろの2つの添字についての対称性 Γνμλ=Γνλμ、Γμνλ=Γμλν によって4つの項が打ち消し合い、
∂μgνλ+∂νgλμ−∂λgμν=2Γλμν
が残る。両辺に 21gρλ を掛けて和をとり、計量の対称性を使って添字を並べ直すと (8.24) になる。こうして Γ は計量とその1階微分で一意に決まった。
逆に、(8.24) が下の2つの添字について対称であることは式から明らかである。これを Γνλμ+Γμλν に代入すると、6つの項のうち4つが打ち消し合って ∂λgμν が残り、条件2も満たされる。
一般相対論では、この Levi-Civita 接続だけを使う。2つの条件を課す理由は物理の側にある。次に示すように、どの点でも Γ がその点で0になる座標を選ぶことができ、そこでは共変微分が偏微分に一致する。等価原理によれば、そのような座標(局所慣性系)では特殊相対論が成り立つので、ベクトルの微分は特殊相対論と同じく偏微分でなければならない。
2つの条件はそれぞれ次のように出てくる。
- ねじれが無い。ねじれのある接続ではねじれ(テンソル)を消せないので、どの座標でも Γ=0 にはならない。
- 計量と両立する。局所慣性系では計量が ημν で、1階微分が0である。したがってその座標で
∇λgμν=∂λgμν=0
が成り立つ。これはテンソルの式なので、定理 8.5 によりどの座標でも成り立つ。
1点で Γ を消す座標
点 p を原点とし、yμ=xμ−xpμ とおいて、新しい座標を
x′ρ=yρ+21Γρμν(p)yμyν(8.25)
で定める。点 p では、Γ の対称性を使うと
∂xμ∂x′ρ=δρμ,∂xμ∂xν∂2x′ρ=Γρμν(p)
である。変換則 (8.21) に入れると、点 p では Jacobi 行列がすべて δ なので
Γ′ρμν(p)=Γρμν(p)−Γρμν(p)=0
となる。この座標で ∇λgμν′=0 を書くと、Γ′(p)=0 なので次が成り立つ。
∂λ′gμν′(p)=0
はじめに線形な変換で g(p) を η(または単位行列)にしておけば、定理 8.7 の2つの条件がそろう。これで定理の1階の部分の証明が完成した。
この結果から、特殊相対論の式を曲がった時空の式へ移す規則が得られる。局所慣性系で成り立つ特殊相対論のテンソルの式の中で、次の置き換えを行う。
ημν → gμν,∂μ → ∇μ
置き換えた式はテンソルの式なので、局所慣性系で正しければ定理 8.5 によりどの座標でも正しい。第11章 §11.4 では、この規則で Maxwell 方程式を曲がった時空へ移す。
置き換えの規則の限界
- 偏微分を2回含む式では、∂μ∂ν の順序は入れ替えられるが、∇μ∇ν の順序は一般に入れ替えることができない。どちらの順に置き換えるかで、曲率に比例する項だけ違う式になる。
- その差は局所慣性系での実験では区別しにくいほど小さいことが多いが、原理だけでは決まらない。この曖昧さは第10章で交換子 [∇μ,∇ν] を計算するときに具体的な形で現れる。
縮約した Γ と発散
(8.24) で ρ と μ を縮約すると、第1項と第3項は逆計量の対称性によって打ち消し合い、
Γμμν=21gμσ∂νgσμ
が残る。行列の公式(Jacobi の公式)
∂νln∣detg∣=tr(g−1∂νg)=gμσ∂νgσμ
を使うと
Γμμν=∂νln∣g∣(8.26)
となる。これを使うと、ベクトル場の発散が簡単な形になる。
∇μVμ=∂μVμ+ΓμμλVλ=∂μVμ+∣g∣∂λ∣g∣Vλ=∣g∣1∂μ(∣g∣Vμ).(8.27)
スカラー場 f について Vμ=gμν∂νf とおけば、Laplace 演算子(時空ではダランベルシアン)の一般の座標での形
∇μ∇μf=∣g∣1∂μ(∣g∣gμν∂νf)(8.28)
を得る。極座標や球座標のラプラシアンの公式は、すべてこの1つの式から得られる。
例:平面の極座標
計量 (8.16) で0でない微分は ∂rgφφ=2r だけである。(8.24) で、この微分を含む成分だけを拾うと
Γrφφ=21grr(−∂rgφφ)=−r,Γφrφ=Γφφr=21gφφ∂rgφφ=r1(8.29)
で、ほかは0である。同じ結果は、直交座標で Γ=0 として変換則 (8.21) の第2項だけを計算しても得られる。
例題 8.1 の一定のベクトル場 Vr=cosφ、Vφ=−sinφ/r の共変微分を計算すると、
∇rVr∇rVφ∇φVr∇φVφ=∂rcosφ=0,=r2sinφ+ΓφrφVφ=r2sinφ−r2sinφ=0,=−sinφ+ΓrφφVφ=−sinφ+sinφ=0,=−rcosφ+ΓφφrVr=−rcosφ+rcosφ=0
となり、4成分ともに0である。直交座標で ∂μVν=0 だったことと、テンソルの0が座標によらないこと(定理 8.5)とが整合する。偏微分 ∂rVφ=sinφ/r2 は基底 ∂φ の長さの変化を拾っていた。Γ の項がちょうどその分を差し引いている。
例題 8.4 球面の Christoffel 記号とラプラシアン ★★★
オリジナル半径 a の球面 ds2=a2(dθ2+sin2θdφ2) について、
- Christoffel 記号のうち0でないものをすべて求めよ。
- Γμμθ=∂θlng を確かめよ。
- スカラー場の Laplace 演算子を書き、f=cosθ に作用させた結果を求めよ。
解答
- 計量とその逆の成分は
gθθ=a2,gφφ=a2sin2θ,gθθ=a21,gφφ=a2sin2θ1
である。0でない微分は ∂θgφφ=2a2sinθcosθ だけである。この微分を含むのは、φ が2つと θ が1つの組み合わせなので、
Γθφφ=21gθθ(−∂θgφφ)=2a21(−2a2sinθcosθ)=−sinθcosθ,
Γφθφ=Γφφθ=21gφφ∂θgφφ=2a2sin2θ2a2sinθcosθ=cotθ.
ほかの成分は0である。
Γθθθ=Γθθφ=Γφθθ=Γφφφ=0
半径 a によらないことに注意する。Γ は計量の微分を計量で割った形なので、全体の大きさを変えても変わらない。2. g=a2sinθ なので、2つの量は
∂θlngΓμμθ=sinθcosθ=cotθ,=Γθθθ+Γφφθ=0+cotθ
で一致する。3. (8.28) に g=a2sinθ と逆計量を入れて
∇2f=a2sinθ1∂θ(sinθ∂θf)+a2sin2θ1∂φ2f.
f=cosθ では
∂θf=−sinθ,sinθ∂θf=−sin2θ,∂θ(sinθ∂θf)=−2sinθcosθ
なので
∇2cosθ=a2sinθ−2sinθcosθ=−a22cosθ.
cosθ は球面調和関数の l=1 の成分である。結果の係数は、固有値 −l(l+1)/a2 に一致する。3次元のラプラシアンの角度部分を r=a で切り出したものと同じ式である。
確認テスト
オリジナル
- 8.3-1 平面の直交座標では Γ=0、極座標では Γrφφ=−r=0 である。このことから Γ がテンソルでないことを結論できる理由を1文で述べよ。
- 8.3-2 例題 8.2 の計量
ds2=N(ξ)2c2dT2−dξ2,N=1+c2αξ,x0=cT,x1=ξ
の Christoffel 記号をすべて求めよ。また ξ=0 での Γξ00 の値を答えよ。3. 8.3-3 3次元の球座標(確認テスト 8.2-2 の計量)で、発散の公式 (8.27) を使い、次の2つのベクトル場の発散を求めよ(r>0、ほかの成分は0)。
(a) Vr=r21,(b) Vr=1
4. 8.3-4 2つの接続の係数 Γνμλ と Γ~νμλ が、どちらも変換則 (8.21) を満たすとする。差
Sνμλ=Γνμλ−Γ~νμλ
が (1,2) 型のテンソルであることを証明せよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com