相対論入門 第8章 §8.4 ★★★ 曲がった空間で「向きを変えずにベクトルを運ぶ」操作。測地線(第9章)と曲率(第10章)はどちらもこの操作から定義する
曲線に沿った共変微分
平らな空間では、離れた2点のベクトルを比べるには、片方を平行に動かして重ねればよい。直交座標の成分を変えずに運ぶ操作がそれである。曲がった空間では「平行」の意味が自明でないので、共変微分を使って定義する。
ベクトル Vμ(λ) が曲線 xμ(λ) の上だけで与えられているとする。もし V が曲線のまわりのベクトル場として広がっていれば、曲線の接ベクトル dxμ/dλ の方向の共変微分は
dλdxμ∇μVν=dλdxμ∂μVν+Γνμλ′dλdxμVλ′
である。第1項は連鎖律で dVν/dλ に等しく、曲線の上の値だけで決まる。そこで、曲線の上だけで定義されたベクトルに対しても
dλDVν:=dλdVν+ΓνμκdλdxμVκ(8.30)
を定義する。これを曲線に沿った共変微分と呼ぶ。∇μVν はテンソルで、dxμ/dλ はベクトルである。したがって曲線に沿った共変微分もベクトルとして変換する。
定義 8.9(平行移動)
曲線 xμ(λ) に沿ったベクトル Vμ(λ) が
dλDVν=dλdVν+ΓνμκdλdxμVκ=0(8.31)
を満たすとき、V は曲線に沿って平行移動されているという。
(8.31) は Vν(λ) についての1階の線形な常微分方程式である。曲線と始点のベクトル Vν(λ0) を与えれば、解はただ1つに決まる。
局所慣性系で考えると意味がはっきりする。接続の係数が点 p で0になる座標では、その点で dVν/dλ=0、つまり成分が変わらない。平行移動は、各点で局所慣性系の意味で「成分を変えずに」少しずつ運ぶことを積み重ねた操作である。
命題 8.10(平行移動は内積を保つ)
2つのベクトル Uμ、Vμ が同じ曲線に沿ってどちらも平行移動されているとする。このとき内積 gμνUμVν は曲線に沿って一定である。とくにベクトルの長さと、2つのベクトルのなす角は変わらない。
証明
スカラー gμνUμVν の λ 微分は、曲線に沿った共変微分に等しい。共変微分は積の微分の規則を満たすので
dλd(gμνUμVν)=dλdxκ(∇κgμν)UμVν+gμνdλDUμVν+gμνUμdλDVν.
第1項は計量と両立する条件 ∇g=0 で、第2項と第3項は平行移動の条件 (8.31) で0になる。
平面での平行移動
平面の直交座標では Γ=0 なので、(8.31) は dVν/dλ=0 で、成分を変えずに運ぶ通常の平行移動になる。同じことを極座標で確かめる。原点を中心とする半径 r0 の円に沿って運ぶ。曲線とその接ベクトルは
r=r0,φ=λ,dλdxμ=(0,1)
で、(8.29) から
dφdVr−r0Vφ=0,dφdVφ+r01Vr=0
となる。φ=0 で V=(1,0) から出発すると、解は
Vr=cosφ,Vφ=−r0sinφ
である。これは例題 8.1 の一定のベクトル場 ∂x の成分そのもので、直交座標で見れば向きを変えていない。
1周して φ=2π に戻ると、V=(1,0) に戻る。平面では、閉じた曲線に沿って1周したベクトルは必ず元に戻る。
球面の緯線に沿った平行移動
球面で、極角 θ=θ0 の緯線に沿って運ぶ。曲線とその接ベクトルは
θ=θ0,φ=λ,dλdxμ=(0,1)
である。例題 8.4 の Christoffel 記号を (8.31) に入れると、μ=φ の項だけが残り
dφdVθ−sinθ0cosθ0Vφ=0,dφdVφ+cotθ0Vθ=0(8.32)
となる。1つ目をもう一度 φ で微分して2つ目を代入すると
dφ2d2Vθ=sinθ0cosθ0dφdVφ=−sinθ0cosθ0cotθ0Vθ=−cos2θ0Vθ
で、角振動数 cosθ0 の単振動の式である。φ=0 で南を向いたベクトル (Vθ,Vφ)=(V0,0) から出発する。1つ目の式から残りの成分も決まり、
Vθ=V0cos(φcosθ0),Vφ=−sinθ0V0sin(φcosθ0)(8.33)
を得る。
この結果を、長さ1の基底に対する成分で読む。基底は
eθ^=a∂θ (南向き),eφ^=asinθ0∂φ (東向き)
で、成分は
Vθ^=aVθ=aV0cos(φcosθ0),Vφ^=asinθ0Vφ=−aV0sin(φcosθ0)
となる。長さ aV0 は一定で(命題 8.10)、向きは南から測って西の側へ角度 φcosθ0 だけ回っている。緯線を1周(φ=2π)すると、基底は元に戻るのに、ベクトルは
Δψ=−2πcosθ0≡2π(1−cosθ0)(mod2π)(8.34)
だけ回っている。右辺は、緯線が囲む北の極冠の面積 2πa2(1−cosθ0) を a2 で割ったもの、すなわち極冠の立体角に等しい。
- 赤道(θ0=π/2)では、回転は0である。
- 小さな極冠(θ0→0)でも、回転は0に近づく。
後者は、球面の小さな範囲が平面と区別できないこと(局所平坦性)の表れである。


図 8.3 球面上の平行移動。青の矢印が運ばれていくベクトル、赤の矢印が1周後のベクトル(薄い矢印は球の裏側)。(a) 極角 θ0=60∘ の緯線を東向きに1周すると、南を向いていたベクトルが北を向く(回転 2π(1−cos60∘)=π)。(b) 北極 N から子午線に沿って赤道の A へ、赤道に沿って 90∘ 離れた B へ、子午線に沿って N へ戻ると、ベクトルは 90∘ 回る。これは三角形の面積 πa2/2 を a2 で割った値に等しい。
経路への依存と測地線
図 8.3(b) の三角形の場合を確かめる。北極で A の方向(φ=0 の子午線の南向き)を向いたベクトルから出発する。
子午線は大円で、その接ベクトルは子午線に沿って平行移動される(次の段落と確認テスト 8.4-4 で確かめる)。命題 8.10 により、平行移動されるベクトルと接ベクトルのなす角は一定である。3つの辺を順にたどる。
- N→A(子午線)。ベクトルが接ベクトルに一致しているので、A に着いたとき南を向いている。
- A→B(赤道)。ベクトルは接ベクトル(東向き)と直角を保ち、B でも南を向いている。
- B→N(子午線)。北へ進むので、ベクトル(南向き)は接ベクトルと逆向きを保つ。北極に着いたときには、B の子午線(φ=π/2)の南向きを向く。
出発時の向きから 90∘ 回った。
同じ北極から同じ北極へ運んだのに、通った道によって結果が違う。平面ではこのようなことは起こらない。平行移動の結果が経路に依存することが、空間が曲がっていることの、座標によらない表れである。
第10章では、小さな閉曲線を1周したときの回転を計算して Riemann テンソルを定義する。回転の角が囲んだ面積に比例するという、ここで見た2つの例に共通する性質が、その出発点になる。
最後に、曲線自身の接ベクトル uμ=dxμ/dλ を平行移動することを考える。V=u とおいた (8.31) は
dλ2d2xν+Γνμκdλdxμdλdxκ=0(8.35)
となる。これは「向きを変えずにまっすぐ進む」曲線の方程式で、平面では直線、球面では大円になる。
緯線 θ=θ0 では u=(0,1) で、
dφDuθ=Γθφφ=−sinθ0cosθ0
となる。これは赤道以外では0にならない(確認テスト 8.4-4)。緯線は、赤道を除いて「曲がっている」曲線である。第9章では、(8.35) を測地線の方程式と呼び、パラメータを固有時に選んで自由落下する粒子の運動方程式として読む。
例題 8.5 Foucault の振り子と平行移動 ★★
オリジナル地球の自転により、北緯 φL の地点は、慣性系から見て1恒星日(23.93 h)で緯線を東向きに1周する。振り子の振動面は、鉛直方向に垂直な面内で、地面の回転に引きずられずに平行移動されると考える(下の注意を参照)。
- 地面に固定した南北・東西の向きに対して、振動面が1恒星日にどれだけ、どちら向きに回るかを求めよ。
- 北緯 35.7∘ の地点で、1恒星日に回る角度と、振動面が1周するのにかかる時間を求めよ。
解答
- 極角は θ0=90∘−φL で、cosθ0=sinφL である。(8.33) によれば、緯線を角度 φ だけ進んだとき、平行移動されたベクトルは南から西の側へ φcosθ0 だけ回っている。ここで向きは長さ1の基底 (eθ^,eφ^)(南と東)に対して測る。この基底は地面に固定された南と東の向きそのものである。1恒星日で φ=2π なので、地面から見た振動面は
Δψ=2πcosθ0=2πsinφL
だけ回る。向きは南から西、つまり上から見て時計回りである(北を上、東を右にした地図の上で、下から左へ回る向き)。2. sin35.7∘=0.5835 なので、1恒星日に 360∘×0.5835=210∘ 回る。振動面が 360∘ 回るのにかかる時間は
sin35.7∘23.93 h=0.583523.93 h=41.0 h
である。北極(φL=90∘)では1恒星日でちょうど1周し、赤道では回らない。
振動面を平行移動とみなす根拠
- 振り子のおもりに水平方向にはたらく力は、糸の張力の水平成分だけで、これは振動面の中を向く。振動面を水平面内で回そうとする力は無い。
- 振り子の周期(数秒)は地球の自転の周期よりはるかに短いので、地点が緯線に沿って運ばれる間、振動面はその時々の水平面の中で「向きを変えずに」運ばれる。これが球面上の平行移動にあたる。
- 回転系での Coriolis 力から運動方程式を解いても、振動面の回転の角速度は ΩsinφL(Ω は自転の角速度)となり、ここでの結果と一致する。
確認テスト
オリジナル
8.4-1 2つのベクトルを同じ曲線に沿って平行移動するとき、それらのなす角が変わらないのはなぜか。接続のどの性質を使うかを挙げて1文で答えよ。
8.4-2 球面上で、次の三角形をたどる(0<Φ<π)。
- (i) 赤道上の点 A(φ=0)から赤道に沿って東へ、点 B(φ=Φ)まで進む。
- (ii) 子午線に沿って北極 N へ進む。
- (iii) φ=0 の子午線に沿って A へ戻る。
A で北を向いたベクトルを平行移動すると、1周したあと何度回っているか。それが三角形の面積を a2 で割ったものに等しいことを示せ。3. 8.4-3 極角 θ0=60∘ の緯線を1周したとき、ベクトルの向きが逆になることを (8.33) から確かめよ。また、1周でちょうど 90∘ 回る緯線の極角をすべて求めよ。4. 8.4-4 球面の緯線 θ=θ0、φ=λ を考える。接ベクトル uμ=(0,1) の曲線に沿った共変微分 Duμ/dλ を計算し、平行移動されるのが赤道だけであることを示せ。θ0=45∘ での値も求めよ。5. 8.4-5 北緯 60∘ の地点で、Foucault の振り子の振動面が1恒星日(23.93 h)に回る角度と、1周にかかる時間を求めよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com