相対論入門 第11章 §11.2 ★★★ 恒等的に発散が0になる曲率の量は Einstein テンソルしかない。係数は Newton 極限で 8πG/c4 に決まる
方程式に求める条件
Poisson 方程式 (11.1) は、左辺がポテンシャルの2階微分、右辺が質量密度である。重力のポテンシャルの役をするのは計量 gμν であり(第9章 §9.2)、質量密度は T00≃ρc2 の一部である。そこで、計量の方程式を
Gμν=κTμν(11.13)
の形に探す。κ は定数で、Gμν は計量から作る量である。Gμν には次の4つを要求する。
- (a) 対称な (0,2) 型のテンソルである(右辺 Tμν がそうなので)。
- (b) 計量とその1階・2階の微分だけから作られ、2階微分については1次である(Poisson 方程式と同じ階数で、解が初期値で決まるようにするため)。
- (c) 恒等的に ∇μGμν=0 を満たす(右辺が (11.4) を満たすので)。
- (d) 平らな時空では 0 になる(物質が無ければ平らな時空が解になるように)。
(a) と (b) について調べる。第8章 §8.2 で示したように、各点で計量の1階微分はすべて 0 にでき、残る2階微分の組み合わせは Riemann テンソルにまとまる(第10章 §10.1)。したがって (a) と (b) を満たすテンソルは、Riemann テンソルの縮約で添字を2つ残すものに、計量を掛けたものの線形結合である。Riemann テンソルの対称性から、添字を2つ残す縮約は Ricci テンソル Rμν だけ、スカラーは R だけである。これに、2階微分を含まない gμν そのものを加えると、候補は
Gμν=aRμν+bgμνR+λgμν(11.14)
に限られる(a,b,λ は定数)。4次元でこの候補のほかに (a)–(c) を満たすものが無いことは Lovelock の定理として知られている。証明は微分幾何の本に譲る。
縮約した Bianchi 恒等式と Einstein テンソル
条件 (c) を調べるには、第10章 §10.3 の縮約した Bianchi 恒等式を使う。第2 Bianchi 恒等式 ∇λRρσμν+∇μRρσνλ+∇νRρσλμ=0 を2回縮約すると
∇μRμν=21∂νR(11.15)
が得られる。また ∇g=0 なので
∇μ(gμνR)=∂νR,∇μgμν=0
である。これらを (11.14) に当てはめると
∇μGμν=(2a+b)∂νR
となる。一般の計量では ∂νR=0 なので、(c) が恒等的に成り立つためには b=−a/2 でなければならない。全体の定数倍は κ に含められるので a=1 とし、
Gμν≡Rμν−21gμνR(11.16)
を Einstein テンソルと呼ぶ。(11.15) は ∇μGμν=0 と同じ内容である。λgμν の項は (c) を満たすが、(d) を満たさない。この項は §11.3 で別に扱い、この節では λ=0 とする。こうして
Rμν−21gμνR=κTμν(11.17)
が得られる。これが Einstein 方程式である。
記号の注意
Einstein テンソル Gμν と重力定数 G は同じ字である。式の中では、添字の付いた Gμν がテンソル、添字の無い G が重力定数である。また、この章の T はエネルギー運動量テンソルのトレース gμνTμν である。添字の無い R はスカラー曲率である。
トレースを反転した形
(11.17) の両辺に gμν を掛けて縮約する。gμνgμν=4 なので R−2R=κT、すなわち
R=−κT(11.18)
である。これを (11.17) に戻すと
Rμν=κTμν+21gμνR=κTμν−21κgμνT
より
Rμν=κ(Tμν−21gμνT)(11.19)
を得る。2つの形は同じ内容である。物質の無い所(Tμν=0)では (11.19) から
Rμν=0(11.20)
となる。これが真空の Einstein 方程式で、第12章ではこれを球対称の場合に解いて Schwarzschild 解を得る。真空で 0 になるのは Ricci テンソルであって、Riemann テンソルではない。Riemann テンソルの20個の成分のうち Ricci テンソルの10個に入らない部分は真空でも残り、星のまわりの潮汐力(第10章 §10.2)を表す。
Newton 極限での係数合わせ
定数 κ を、Newton の重力に戻る条件で決める。第9章 §9.2 と同じく、静的で弱い場と遅い物質を考える。物質は静止したダストで P≪ρc2 とし、
uμ≃(c,0),T00≃ρc2,T≃ρc2
とする。Tμν のほかの成分は ρc2 に比べて小さい。(11.19) の 00 成分は、g00≃1 として
R00≃κ(ρc2−21ρc2)=2κρc2(11.21)
となる。
左辺の R00 を計量から計算する。Ricci テンソルの定義と Riemann テンソルの式(第10章 §10.1)から
R00=Rρ0ρ0=∂ρΓρ00−∂0Γρρ0+ΓρρλΓλ00−Γρ0λΓλρ0
である。右辺の項を2つの理由で落とす。
- 弱い場では Γ は計量のずれ hμν の1次の大きさである。ΓΓ の項は2次なので無視する。
- 静的な場では ∂0 の付いた項も消える。
残る項は ∂iΓi00 だけである。第9章 §9.2 で計算したように
Γi00=−21gij∂jg00≃21∂ig00≃c2∂iΦ(gij≃−δij)(g00=1+2Φ/c2 を入れた)
である。したがって
R00≃i∑∂iΓi00=c2∇2Φ(11.22)
となる。この計算には gij のずれは入らない。
(11.21) と (11.22) を等しいと置くと ∇2Φ=κρc4/2 で、これが Poisson 方程式 ∇2Φ=4πGρ に一致するためには
κ=c48πG(11.23)
でなければならない。以上をまとめて、Einstein 方程式は
Rμν−21gμνR=c48πGTμν(11.24)
である。右辺の符号が + であることは、引力(∇2Φ>0 で物質に向かって引かれる)に対応している。

図 11.1 Einstein 方程式の論理の流れ。左辺の発散が恒等的に 0 なので、方程式が成り立てば右辺の保存則が成り立ち、保存則からダストの測地線運動が出る。
方程式の数と座標の自由度
gμν も Tμν も対称なので、(11.24) は10個の方程式である。求める計量の成分も10個ある。
しかし縮約した Bianchi 恒等式 ∇μGμν=0 は、10個の方程式のあいだの4個の恒等的な関係になっている。独立な方程式は6個しかない。
これは不足ではない。計量は座標を取り替えると変わり、4つの関数 x′μ(x) の分だけの自由度は方程式では決まらない。この4つは、問題に合わせて座標を選ぶことで固定する。電磁気学で、4元ポテンシャル Aμ がゲージ変換の自由度を持ち、Maxwell 方程式がそれを決めないことと同じ事情である。
例題 11.2 物質の中の時空の曲率の大きさ ★★★
オリジナルEinstein 方程式 (11.19) の 00 成分から、静止したダストの中で R00≃4πGρ/c2 が得られる。この量は長さの −2 乗の次元を持つので、L=(4πGρ/c2)−1/2 を曲率の長さの目安とする。G=6.674×10−11m3kg−1s−2、c=2.998×108m/s とする。
- (a) κ=8πG/c4 の値を SI 単位で求めよ。
- (b) 次の2つの密度について L を求め、地球と太陽の距離 1.496×1011m と比べよ。
水 ρ=1.0×103kg/m3,地球の平均密度 ρ=5.51×103kg/m3
3. (c) 地球の半径 R⊕=6.37×106m に対して (R⊕/L)2 を求めよ。これを地表での
c2∣Φ∣=R⊕c2GM⊕(M⊕=34πR⊕3ρ)
と比べよ。
解答
(a) c4=(2.998×108)4=8.078×1033m4/s4 なので
κ=8.078×10338π×6.674×10−11=2.08×10−43s2kg−1m−1
である。エネルギー密度 1J/m3 が作る曲率は 2.08×10−43m−2 に過ぎず、時空はきわめて曲がりにくい。
(b) 水では
c24πGρ=8.988×10164π×6.674×10−11×1.0×103=9.33×10−24m−2,L=3.27×1011m
で、地球と太陽の距離の約 2.2 倍である。地球の平均密度では 4πGρ/c2=5.14×10−23m−2、L=1.39×1011m で、地球と太陽の距離の約 0.93 倍である。
(c) (R⊕/L)2=(6.37×106)2×5.14×10−23=2.09×10−9 である。一方
R⊕c2GM⊕=3c24πGρR⊕2=31(LR⊕)2=6.95×10−10
で、2つは同じ大きさの程度(比は 1/3)である。天体の大きさに比べて曲率の長さがどれだけ長いかが、∣Φ∣/c2 の小ささ、つまり重力の弱さを表している。
例題 11.3 弱い場の空間成分 ★★
オリジナル静的な弱い場の計量を、第9章 §9.4 と同じく
ds2=(1+c22Φ)c2dt2−(1−c22Ψ)(dx2+dy2+dz2)
と書く。Φ,Ψ は位置だけの関数で、Φ/c2,Ψ/c2 の1次まで残すと、Ricci テンソルの空間成分は
Rij=c21[∂i∂j(Ψ−Φ)+δij∇2Ψ]
となる(この式は verify で成分計算により確かめてある)。静止したダストを源とする Einstein 方程式 (11.19) の ij 成分を考える。無限遠で Φ,Ψ→0 となる解では Ψ=Φ となることを示せ。
解答
静止したダストでは
Tij=ρuiuj=0,T≃ρc2,gij≃−δij
なので、右辺は
κ(Tij−21gijT)≃κ⋅21δijρc2=c24πGρδij
である(κ=8πG/c4)。したがって
∂i∂j(Ψ−Φ)+δij∇2Ψ=4πGρδij
となる。χ=Ψ−Φ と置いて、成分を2種類に分ける。
- i=j の成分は ∂i∂jχ=0 を要求する。
- i=j の3つの成分は ∂i2χ=4πGρ−∇2Ψ である。右辺が i によらないので
∂x2χ=∂y2χ=∂z2χ
である。
よって χ は、混合した2階微分がすべて 0 で、3つの純粋な2階微分が等しい関数である。
混合微分が 0 なので χ=f1(x)+f2(y)+f3(z) と書ける。条件 f1′′=f2′′=f3′′ は、別々の変数の関数どうしが等しいことを言う。したがって、どれも定数 2k である。したがって
χ=k(x2+y2+z2)+(1次式)
となる。無限遠で 0 になる条件から k=0 で、1次式も 0 である。よって χ=0、すなわち Ψ=Φ である。
このとき対角成分は ∇2Ψ=4πGρ となって 00 成分と同じ Poisson 方程式になり、矛盾しない。
第9章 §9.4 で見たように、光の曲がりの角には Φ と Ψ が同じ重みで入る。Ψ=Φ によって、太陽の縁での曲がりは等価原理だけから出る値の2倍 4GM/(c2b) になる(第12章 §12.3)。
確認テスト
オリジナル
- 11.2-1 Einstein 方程式 (11.17) から R=−κT と (11.19) を導け。真空では R=0 かつ Rμν=0 となることを確かめよ。
- 11.2-2 原子核の密度 ρ=2.3×1017kg/m3 について、例題 11.2 の曲率の長さ L を求めよ。この長さと中性子星の半径(およそ 10km)を比べて、中性子星の重力について何が言えるか述べよ。
- 11.2-3 方程式を Rμν=κTμν とした場合を考える。縮約した Bianchi 恒等式 (11.15) と ∇μTμν=0 から、T=gμνTμν が時空のどこでも一定でなければならないことを示し、この方程式が星の内部と外部を同時に記述できない理由を述べよ。
- 11.2-4 静止した完全流体(圧力 P を無視しない)を源とする。(11.19) の 00 成分から ∇2Φ=4πG(ρ+3P/c2) を導け。放射(P=ρc2/3)では、同じ ρ のダストの何倍の重力を作るか。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com