相対論入門 第11章 §11.1 ★★★ 特殊相対論の ∂μTμν=0 は、曲がった時空では ∇μTμν=0 になる。ダストの場合、この式だけから測地線の方程式が出る
第8章から第10章までで、曲がった時空を記述する幾何の道具をそろえた。第8章では計量 gμν と Christoffel 記号と共変微分 ∇μ を作り、第9章では自由落下する粒子が測地線
dτ2d2xρ+Γρμνdτdxμdτdxν=0
を進むこと、遅い粒子と弱い静的な場では g00≃1+2Φ/c2 が Newton のポテンシャル Φ の役をすることを見た。第10章では次の3つの曲率の量を定義し、潮汐力が曲率で表されることを示した。
Riemann テンソル Rρσμν,Ricci テンソル Rμν=Rρμρν,スカラー曲率 R=gμνRμν
ここまでの議論には、計量そのものを決める方程式が欠けている。Newton の重力理論では、粒子の運動方程式 x¨=−∇Φ と、ポテンシャルを質量密度から決める Poisson 方程式
∇2Φ=4πGρ(11.1)
の2つがそろって1つの理論になる。第9章の測地線の方程式は前者の一般化であり、この章で作る Einstein 方程式は後者の一般化である。
章の流れは次のとおりである。
- §11.1 では、方程式の右辺に入る物質の側を整える。第6章 §6.3・§6.4 で作ったエネルギー運動量テンソルを曲がった時空へ移し、その保存則が ∇μTμν=0 になることと、そこからダストの測地線運動と静水圧の釣り合いが出ることを示す。
- §11.2 では、左辺に置く幾何の量の形を、保存則との整合と Newton 極限から決め、係数が 8πG/c4 になることを導く。
- §11.3 では、同じ条件のもとで唯一付け加えることのできる宇宙定数の項を調べる。
- §11.4 では、電磁場を曲がった時空へ移し、電荷の保存が方程式から自動的に出ることを確かめる。
作用原理(Einstein–Hilbert 作用)から同じ方程式を導く道は、虎の巻『解析力学から様々な理論分野を組み立てる』第2部第15章にある。
特殊相対論の式を曲がった時空へ移す規則
第8章では、時空の任意の点 p のまわりで
gμν(p)=ημν,Γρμν(p)=0
となる座標(局所慣性系)がとれることを示した(§8.2 の局所平坦性の定理と §8.3 の座標の作り方)。Einstein の等価原理(第7章 §7.2)によれば、この座標の中では、点 p での物理法則は特殊相対論の形で書ける。
局所慣性系の点 p では、共変微分と偏微分が一致し、計量も平らな時空のものと一致する。そこで、特殊相対論の法則の中で次の置き換えをする。
∂μ → ∇μ,ημν → gμν
置き換えた式は、
- 局所慣性系の点 p では、もとの特殊相対論の式と同じであり、
- 両辺がテンソルなので、第8章の定理(テンソルの成分が1つの座標で 0 ならすべての座標で 0)により、ほかのどの座標でも成り立つ。
この置き換えの規則を最小結合と呼ぶ。重力は gμν と Γ を通してだけ式に入り、曲率を直接含む項は足さない。この規則が一意でない場合があることは §11.4 の落とし穴の箱で述べる。
ダストと完全流体
第6章 §6.4 では、ダスト(圧力の無い物質)と完全流体のエネルギー運動量テンソルを作った。記号は、静止系の質量密度を ρ、圧力を P とする。4元速度は uμ と書く。最小結合で ημν を gμν に替えると
Tdustμν=ρuμuν,Tμν=(ρ+c2P)uμuν−Pgμν(11.2)
となる。4元速度の規格化は gμνuμuν=c2 である。添字を下げた Tμν=gμαgνβTαβ と、トレース
T≡gμνTμν=(ρ+c2P)c2−4P=ρc2−3P(11.3)
も、第6章と同じ形である(gμνgμν=δμμ=4 を使った)。この章では、添字の無い T をいつもエネルギー運動量テンソルのトレースの意味で使う。
保存則 ∇μTμν=0
第6章 §6.3 で示したように、外から力を受けない物質(あるいは物質と電磁場の全体)のエネルギー運動量テンソルは、特殊相対論で ∂μTμν=0 を満たす。最小結合で
∇μTμν=0(11.4)
とする。左辺を書き下すと、第8章 §8.3 の共変微分の規則(上付きの添字1つごとに +Γ の項が1つ付く)から
∇μTμν=∂μTμν+ΓμμλTλν+ΓνμλTμλ(11.5)
である。第8章で導いた Γμμλ=∂λln−g(g=detgμν<0)を使うと、最初の2項は1つにまとまり
∇μTμν=−g1∂μ(−gTμν)+ΓνμλTμλ(11.6)
となる。実際、右辺の第1項を積の微分で開くと ∂μTμν+(∂μln−g)Tμν で、(11.5) の最初の2項と一致する。
(11.6) の最後の項 ΓνμλTμλ は、一般には消えない。Γ が下の2つの添字で対称であり、Tμλ も対称だからである。このため (11.4) は「ある量の4元発散が0」という形にならず、空間で積分しても時間によらない全エネルギーを作ることができない。
この最後の項は、物質が重力の場とエネルギーと運動量をやりとりしていることを表している。たとえば膨張する宇宙では、光子の集団のエネルギーは膨張とともに減り続ける(確認テスト 11.1-4)。
それでも、時空に対称性があれば積分した保存量を作ることができる。ξμ を Killing ベクトル(第9章 §9.3)とする。すなわち
∇μξν+∇νξμ=0
である。このときベクトル Jμ=Tμνξν は ∇μJμ=0 を満たす(確認テスト 11.1-5)。ベクトルの発散には (11.6) の最後の項に当たるものが無いので
∂μ(−gJμ)=0(11.7)
となる。これを空間で積分すれば、∫−gJ0d3x が時間によらないことが分かる。計量が時刻によらない静的な時空では ξ=∂0 が Killing ベクトルで、これがエネルギーの保存になる。
ダストの保存則は測地線の方程式を含む
保存則 (11.4) は、物質の運動について多くのことを含んでいる。ダスト Tμν=ρuμuν で調べる。積の微分で
0=∇μ(ρuμuν)=[∇μ(ρuμ)]uν+ρuμ∇μuν(11.8)
である。規格化 gνλuνuλ=c2 を共変微分する。∇g=0 なので
2uν∇μuν=0
になる。そこで (11.8) に uν を掛けて縮約する。
- 第2項は、上の式から ρuμuν∇μuν=0 になる。
- 第1項は、uνuν=c2 なので c2∇μ(ρuμ) になる。
したがって
∇μ(ρuμ)=0(11.9)
を得る。これを (11.8) に戻すと、ρ=0 の所で
uμ∇μuν=0(11.10)
が残る。(11.9) は質量の保存(連続の式)である。(11.10) を成分で書くと、uμ∂μ=d/dτ(ダストの粒子の世界線に沿った微分)なので
uμ∇μuν=uμ∂μuν+Γνμλuμuλ=dτ2d2xν+Γνμλdτdxμdτdxλ=0
となり、第9章の測地線の方程式そのものである。
要点
物質のエネルギー運動量テンソルの保存則 ∇μTμν=0 を認めれば、ダストの粒子が測地線を進むことは、別に仮定しなくても導かれる。第6章 §6.4 で平らな時空のダストの保存則から自由運動 uμ∂μuν=0 が出たことの、曲がった時空での形である。次の節で作る Einstein 方程式は ∇μTμν=0 を自動的に満たすので、一般相対論では「物質は測地線を進む」という運動の法則も場の方程式から出てくる。
静的な時空での静水圧の釣り合い
圧力のある完全流体が、静的な重力の場の中で静止しているときの釣り合いを調べる。計量は時刻によらず、g0i=0 とする(第9章 §9.2 の仮定 (ii) と同じ)。流体が静止しているので ui=0 であり、規格化と添字の下げ方から
u0=g00c,u0=g00u0=cg00,u0u0=c2
である。計算には、上下1つずつの添字を持つ形
Tμν=(ρ+c2P)uμuν−Pδμν
が便利である。上付き1つ・下付き1つの共変微分は
∇μTμν=∂μTμν+ΓμμλTλν−ΓλμνTμλ
である。空間成分 ν=i を順に計算する。ui=0 なので Tμi=−Pδμi であり、
- 第1項は ∂μTμi=−∂iP、
- 第2項は ΓμμλTλi=−PΓμμi、
- 第3項は
−ΓλμiTμλ=−(ρ+c2P)Γλ0iu0uλ+PΓμμi=−(ρ+c2P)c2Γ00i+PΓμμi
となる。第3項では、uμ のうち u0 だけが残ることを使った。uλ のうちでも u0 だけが残る。PΓμμi の項は打ち消し合う。静的な計量では Γ00i=21g00∂ig00=∂ilng00 なので、∇μTμi=0 は
∂iP=−(ρ+c2P)c2∂ilng00(11.11)
となる。これが一般相対論の静水圧の釣り合いの式である。弱い場 g00≃1+2Φ/c2 では c2∂ilng00≃∂iΦ なので
∇P≃−(ρ+c2P)∇Φ(11.12)
を得る。P/c2≪ρ なら、Newton 力学の静水圧の式 ∇P=−ρ∇Φ に戻る。
(11.12) の右辺で、重力を受ける量が ρ でなく ρ+P/c2 になっている。圧力もエネルギーの流れ(運動量の流れ)を持つので、圧力自身も重さを持つ。この補正は中性子星のように P が ρc2 に近づく天体で大きくなり、圧力を上げても重力に逆らえなくなる理由の1つになる。
例題 11.1 海の底の圧力と相対論の補正 ★★
オリジナル水が一様な重力の中で、次の条件で静止している。
密度 ρ=1.0×103kg/m3,重力加速度 g=9.8m/s2,深さ h=1.0×104m
- (a) Newton 力学の静水圧の式で、底の圧力 P を求めよ。
- (b) (11.12) の P/c2 の項は、ρ に比べてどれだけの割合か。底での P/(ρc2) を求めよ。
- (c) 深さ方向の座標を z(下向きを正)とする。ρ を一定として (11.12) を解き、補正を含む底の圧力が P=ρc2(egh/c2−1) となることを示せ。
解答
(a) Newton 力学では dP/dz=ρg なので、P=ρgh=1.0×103×9.8×1.0×104=9.8×107Pa である。
(b) ρc2=1.0×103×(2.998×108)2=8.99×1019Pa なので
ρc2P=8.99×10199.8×107=1.1×10−12
である。地上の流体では、圧力が重さを持つ効果は 10−12 の大きさしかない。
(c) 下向きを正とすると、−∇Φ の z 成分は重力加速度の大きさに等しく、正である。したがって (11.12) は
dzdP=(ρ+c2P)g
となる。Q=ρc2+P と置くと
dzdQ=c2gQ
である。水面 z=0 では圧力が 0、つまり Q=ρc2 である。この条件を満たす解は Q=ρc2egz/c2 である。したがって
P(h)=ρc2(egh/c2−1)=ρgh(1+2c2gh+⋯)
となる。補正の相対的な大きさは gh/(2c2)=5.5×10−13 で、(b) の値の半分である(底で P/(ρc2) の割合の補正が、深さ全体で平均されて半分になる)。
確認テスト
オリジナル
- 11.1-1 曲がった時空で、物質の保存則を ∂μTμν=0 と書くことができない理由を述べよ。
- 11.1-2 完全流体 (11.2) について、Tμνuμuν=ρc4 と T=ρc2−3P を示せ。放射(P=ρc2/3)でトレースがいくらになるかも答えよ。
- 11.1-3 次の計量を考える(x0=ct、a˙=da/dt)。
ds2=c2dt2−a(t)2(dx2+dy2+dz2)
この計量の0でない Christoffel 記号が
Γ0ij=caa˙δij,Γi0j=Γij0=caa˙δij
であることを確かめよ。さらに、この時空で静止したダスト(uμ=(c,0,0,0))を考える。保存則 ∇μTμ0=0 から、ρa3 が一定であることを導け。4. 11.1-4 確認テスト 11.1-3 と同じ時空で、静止した完全流体について ∇μTμ0=0 が
ρ˙+3aa˙(ρ+c2P)=0
となることを示せ。放射(P=ρc2/3)について、次の2つを示せ。
- (i) 密度は ρ∝a−4 となる。
- (ii) 体積 a3 の箱の中の放射のエネルギーは a−1 に比例して減る。
- 11.1-5 Tμν が対称で ∇μTμν=0 を満たすとする。ξμ が Killing ベクトルなら、Jμ=Tμνξν の発散が 0 になることを示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com