相対論入門 第11章 §11.4 ★★ 最小結合で Maxwell 方程式を移すと、斉次の方程式は計量を含まず、非斉次の方程式は −g を使った発散の形になる。電荷の保存は方程式から自動的に出る
電磁場テンソルと斉次の方程式
第6章 §6.1 では、平らな時空の電磁場を4元ポテンシャル Aμ=(ϕ/c,A) と電磁場テンソル
Fμν=∂μAν−∂νAμ
で表し、Maxwell 方程式を ∂μFμν=μ0Jν と Bianchi 恒等式 ∂λFμν+∂μFνλ+∂νFλμ=0 の2組に書いた(導出は『電磁気学入門』第10章)。最小結合で ∂→∇ と置き換える。まず電磁場テンソルは
Fμν=∇μAν−∇νAμ=(∂μAν−ΓλμνAλ)−(∂νAμ−ΓλνμAλ)=∂μAν−∂νAμ(11.32)
となる。Christoffel 記号は下の2つの添字で対称なので、Γ の項は打ち消し合う。電磁場テンソルの定義は計量を含まない。第8章の確認テスト 8.1-4 で示したように、∂μAν−∂νAμ は一般の座標変換でもテンソルとして変換するので、この式は座標によらない。
斉次の方程式も同じ理由で変わらない。∇λFμν=∂λFμν−ΓκλμFκν−ΓκλνFμκ を巡回的に3つ足すと、Γ の項は対称な添字の組ごとに打ち消し合い(確認テスト 11.4-1)、
∇λFμν+∇μFνλ+∇νFλμ=∂λFμν+∂μFνλ+∂νFλμ=0(11.33)
となる。最後の等号は、Fμν=∂μAν−∂νAμ を代入すれば偏微分の順序の入れ替えで恒等的に成り立つ。磁気単極子が無いことと Faraday の法則を表す斉次の方程式は、曲がった時空でも計量を含まない。
非斉次の方程式 ∇μFμν=μ0Jν
Gauss の法則と Ampère–Maxwell の法則を表す非斉次の方程式は、最小結合で
∇μFμν=μ0Jν(11.34)
となる。ここで Fμν=gμαgνβFαβ で、添字の上げ下げに計量が入る。電磁場が計量と出会うのはこの式だけである。左辺を書き下すと、(11.5) と同じく
∇μFμν=∂μFμν+ΓμμλFλν+ΓνμλFμλ
である。ただし今度は、最後の項が 0 になる。
- Γνμλ は下の2つの添字について対称である。
- Fμλ は反対称である。
したがって和をとると、2つの添字を入れ替えた項どうしが打ち消し合う。残る2項を Γμμλ=∂λln−g でまとめると
∇μFμν=−g1∂μ(−gFμν)(11.35)
を得る。したがって (11.34) は
∂μ(−gFμν)=μ0−gJν(11.36)
と、偏微分だけで書ける。Christoffel 記号を計算しなくてよいので、実際の計算ではこの形が便利である。
電荷の保存が自動で出ること
平らな時空では、Maxwell 方程式が電荷の保存 ∂νJν=0 を含んでいた(第6章 §6.1)。対称な ∂ν∂μ と反対称な Fμν の縮約が 0 になるからである。曲がった時空でも同じことが成り立つ。(11.36) の両辺を xν で偏微分する。
- 偏微分の順序は入れ替えられるので、∂ν∂μ は2つの添字について対称である。
- −gFμν は反対称である。
したがって左辺は
∂ν∂μ(−gFμν)=0
となる。したがって
∂ν(−gJν)=0,すなわち∇νJν=0(11.37)
を得る(第8章のベクトルの発散の公式 ∇νJν=(1/−g)∂ν(−gJν) を使った)。電荷の保存は、別に仮定しなくても場の方程式から出てくる。
(11.37) は偏微分の発散の形なので、空間で積分すると全電荷
Q=c1∫−gJ0d3x(11.38)
が時間によらないことが分かる(境界で電流が 0 とする)。この節では電荷密度を、質量密度 ρ と区別して ρe と書く。平らな時空の直交座標では −g=1、J0=cρe なので、全電荷は通常の形
Q=∫ρed3x
に戻る。
エネルギーと電荷の違い
エネルギー運動量テンソルの保存則 (11.6) には ΓνμλTμλ の項が残り、一般には積分した保存量にならなかった。電荷の保存 (11.37) にはその項が無い。
違いは、Tμν が対称で Jν がベクトルであることから来る数学的な違いである。Fμν が反対称であることから来る、と言ってもよい。重力の場は電荷を運ばないので、電荷は重力とやりとりされず、どんな時空でも全体で保存する。
この結果は、曲率の言葉でも確かめられる。共変微分は一般に交換しないが、Fμν の反対称性から
∇ν∇μFμν=21[∇ν,∇μ]Fμν
であり、第10章の交換子の式を2つの上付き添字に1回ずつ使うと、右辺は Ricci テンソル(対称)と F(反対称)の縮約になって 0 になる(確認テスト 11.4-4)。
運動方程式とエネルギー運動量テンソル
第6章 §6.2・§6.3 の残りの式も、最小結合で移す。電荷 q、質量 m の粒子の運動方程式と、電磁場のエネルギー運動量テンソルは
muμ∇μuν=qFνλuλ,Temμν=μ01(FμαFαν+41gμνFαβFαβ)(11.39)
となる。左の式は q=0 で測地線の方程式に戻る。右の Temμν は、第6章の定理 ∂μTemμν=−FνλJλ と同じく
∇μTemμν=−FνλJλ
を満たす。局所慣性系の点では第6章の計算がそのまま使え、両辺がテンソルなので全部の座標で成り立つ。荷電したダストの Tμν と合わせた全体は
∇μ(Tdustμν+Temμν)=0
を満たし、Einstein 方程式の右辺に置くことができる。電磁場のエネルギーも重力の源になる。真空中の電磁場では Tem=0(第6章 §6.3)なので、(11.18) からスカラー曲率は R=0 である。
最小結合の順序
最小結合は、1階の方程式に当てはめるのが原則である。平らな時空の Lorenz ゲージの波動方程式 ∂μ∂μAν=μ0Jν に直接 ∂→∇ を当てはめると、曲率の項を取りこぼす。(11.34) を A で書くと ∇μFμν=∇μ∇μAν−∇μ∇νAμ で、第2項の共変微分の順序を入れ替えると交換子から Ricci テンソルが出る。第10章の交換子の式は
[∇μ,∇λ]Aρ=RρσμλAσ
である。ρ=μ と縮約すると
∇μ∇νAμ=∇ν∇μAμ+RνσAσ
なので、Lorenz ゲージ ∇μAμ=0 で
∇μ∇μAν−RνσAσ=μ0Jν
となる。2階の微分は交換しないので、2階の方程式に最小結合を当てはめると、微分の並べ方によって答えが変わる。
例題 11.5 静的で球対称な時空での Gauss の法則 ★★★
オリジナル静的で球対称な計量
ds2=A(r)c2dt2−B(r)dr2−r2(dθ2+sin2θdφ2)
を考える(xμ=(ct,r,θ,φ)、A,B>0)。中心には、全電荷 Q の球対称な電荷が静止している。電荷の外側で、静的で球対称な電場 Fr0=−F0r だけが 0 でないとする。
- (a) −g を求めよ。また Fr0 を Fr0 で表せ。
- (b) (11.36) の ν=0 成分を半径 r の球の内部で積分し、次の式を示せ。
Fr0=−4πr2μ0cQAB
3. (c) その場所に静止した観測者が局所慣性系で測る電場の大きさを E とする。これが E=Q/(4πε0r2) となり、計量の関数 A,B によらないことを示せ。観測者の局所慣性系の時間と動径の座標の刻みは
dt^=Adt,dr^=Bdr
である。平らな時空と同じく E=c∣Fr^0^∣ とする(x^0=ct^)。
解答
(a) 計量は対角で、
g00=A,grr=−B,gθθ=−r2,gφφ=−r2sin2θ
である。行列式は g=−ABr4sin2θ なので −g=ABr2sinθ。逆計量は g00=1/A、grr=−1/B で、
Fr0=grrg00Fr0=−ABFr0
である。
(b) ν=0 成分は
∂μ(−gFμ0)=μ0−gJ0
である。左辺の和では、静的なので μ=0 の項は無く、球対称なので μ=r だけが残る。両辺を drdθdφ で、中心から半径 r まで積分する。右辺は (11.38) により μ0cQ である。左辺は
∫0π∫02π−gFr0dφdθ=4πr2AB(−ABFr0)=−AB4πr2Fr0
である(∫sinθdθdφ=4π)。等しいと置いて
Fr0=−4πr2μ0cQAB
を得る。平らな時空(A=B=1)では Fr0=∂rA0=∂rϕ/c=−Er/c である。μ0c2=1/ε0 を使うと
Er=4πε0r2Q
となり、Coulomb の法則に戻る。
(c) 局所慣性系の座標は x^0=ct^=Ax0、r^=Br である。この座標での成分は、共変テンソルの変換則で
∂x^0∂x0=A1,∂r^∂r=B1
を1つずつ掛けて
Fr^0^=ABFr0=−4πr2μ0cQ
である。したがって
E=c∣Fr^0^∣=4πr2μ0c2Q=4πε0r2Q
で、A,B が消える。座標 r は、その半径の球の面積がちょうど 4πr2 になるように定義した座標である。そのため、局所的に測った電場に面積を掛けた電束が Q/ε0 になる。Gauss の法則は曲がった時空でも、その場で測る量については同じ形で成り立っている。
確認テスト
オリジナル
11.4-1 ∇λFμν+∇μFνλ+∇νFλμ を Christoffel 記号で書き下し、Γ の項がすべて打ち消し合うことを示せ。
11.4-2 確認テスト 11.1-3 の膨張する時空で、空間座標に対して静止した電荷の流れ Jμ=(cρe,0,0,0) を考える。∇μJμ=0 から、ρea3 が一定であることを導き、その意味を述べよ。
11.4-3 例題 11.5 で A=1−rs/r、B=1/A とする(第12章の Schwarzschild 計量。rs は定数)。Ar=0 の静的な場では Fr0=∂rA0 である。
- (i) これから A0 を求めよ(無限遠で A0→0)。
- (ii) 電位 ϕ=cA0 が平らな時空の Coulomb ポテンシャル Q/(4πε0r) と同じ形になることを示せ。
11.4-4 交換子の式 [∇ρ,∇σ]Fμν=RμλρσFλν+RνλρσFμλ を使って、∇ν∇μFμν=0 を示せ。
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