相対論入門 第11章 §11.3 ★★ Einstein 方程式に許される唯一の追加の項。負の圧力を持つ真空のエネルギーと同じ働きをし、距離に比例する斥力になる
宇宙定数の項
§11.2 の候補 (11.14) のうち、λgμν の項は条件 (a)–(c) をすべて満たす。∇μgμν=0 なので、発散は恒等的に 0 である。条件 (d)(平らな時空が真空の解になること)を外せば、この項を加えてよい。記法の正本に従って
Rμν−21gμνR−Λgμν=c48πGTμν(11.25)
と書き、定数 Λ を宇宙定数と呼ぶ。Λ は長さの −2 乗の次元を持つ。
計量の符号を (+,−,−,−) にとっているので、宇宙項は −Λgμν の形になる。(−,+,+,+) の計量を使う本では、同じ内容が +Λgμν と書かれている。Λ>0 の意味はどちらでも同じである。
歴史的には、Einstein は1917年に、時間によらない静的な宇宙を解として得るためにこの項を導入した(確認テスト 11.3-2)。その後 Hubble らによって宇宙の膨張が観測され、静的な宇宙の必要はなくなった。1998年に遠方の超新星の観測から宇宙の膨張が加速していることが報告され、Λ>0 の項(あるいはそれと同じ働きをする何か)が再び必要になった。
真空のエネルギーとしての読み方
(11.25) の宇宙項を右辺へ移すと
Gμν=c48πG(Tμν+Tμν(Λ)),Tμν(Λ)=8πGΛc4gμν
となる。Tμν(Λ) を完全流体 (11.2) と比べる。完全流体で P=−ρc2 と置くと、uμuν の係数が 0 になる。残るのは
Tμν=ρc2gμν
だけである。したがって宇宙項は
ρΛ=8πGΛc2,PΛ=−ρΛc2(11.26)
の完全流体と同じである。Tμν(Λ) は uμ を含まないので、どの観測者から見ても同じ密度と圧力を持つ。特定の静止系を持たない、真空そのもののエネルギーとして読むことができる。
密度 ρΛ は一定なので、宇宙が膨張しても薄まらない。これは確認テスト 11.1-4 の式で ρ+P/c2=0 とした場合にあたり、ρ˙Λ=0 と整合する。
Newton 極限での斥力
宇宙項があるときのトレースを反転した形を作る。(11.25) を縮約すると −R−4Λ=κT、すなわち R=−κT−4Λ である。これを戻すと
Rμν=κ(Tμν−21gμνT)−Λgμν(11.27)
となる。§11.2 と同じく弱い場では R00≃∇2Φ/c2、g00≃1 である。00 成分は
∇2Φ=4πGρ−Λc2(11.28)
となる。宇宙定数は、一様に分布した負の質量密度 −Λc2/(4πG)=−2ρΛ と同じ働きをする。
この −2ρΛ という値は、確認テスト 11.2-4 の結果から理解できる。静止した完全流体の重力の源は ρ+3P/c2 であり、真空のエネルギーでは ρΛ+3PΛ/c2=ρΛ−3ρΛ=−2ρΛ となる。圧力が負で十分大きいので、重力の源が負になる。
点質量 M のまわりの真空(ρ=0)で、球対称な (11.28) の解を求める。球対称のラプラシアン ∇2Φ=r−2(r2Φ′)′ で、∇2(r2)=6 なので
Φ(r)=−rGM−6Λc2r2(11.29)
が解である(r→0 で点質量の場に戻る解を選んだ)。単位質量あたりの力は
−drdΦ=−r2GM+3Λc2r(11.30)
で、第2項は外向きで距離に比例する斥力である。2つの項が釣り合う距離は
rΛ=(Λc23GM)1/3(11.31)
であり、r<rΛ では引力、r>rΛ では斥力がまさる(図 11.2)。

図 11.2 点質量のまわりの単位質量あたりの動径方向の力 (11.30)(外向きを正、GM/rΛ2 を単位とする)。実線が合計、点線が Newton の引力、破線が宇宙定数による斥力で、r=rΛ で釣り合う。
例題 11.4 太陽のまわりの宇宙定数の斥力 ★★
オリジナル数値は次の値を使う。宇宙定数の値は、第14章 §14.4 でハッブル定数と ΩΛ から求めるものである。
Λ=1.2×10−52m−2,GM⊙=1.327×1020m3/s2,c=2.998×108m/s,G=6.674×10−11m3kg−1s−2
- (a) 真空のエネルギーの密度 ρΛ を求めよ。それは 1m3 あたり水素原子(質量 1.674×10−27kg)何個分の質量にあたるか答えよ。
- (b) 太陽の引力と宇宙定数の斥力が釣り合う距離 rΛ を求め、パーセク(1pc=3.086×1016m)で表せ。
- (c) 海王星の軌道半径 r=4.5×1012m で、斥力と引力の比を求めよ。
解答
(a) Λc2=1.2×10−52×8.988×1016=1.08×10−35s−2 なので
ρΛ=8πGΛc2=8π×6.674×10−111.08×10−35=6.4×10−27kg/m3
である。水素原子の質量で割ると 3.8 個で、1m3 あたり水素原子4個ほどの質量にすぎない。
(b) (11.31) から
rΛ=(1.08×10−353×1.327×1020)1/3=(3.69×1055)1/3=3.33×1018m=108pc
である。これは太陽系の大きさよりはるかに遠く、近くの恒星までの距離(数 pc)よりも遠い。
(c) 比は
GM⊙/r2Λc2r/3=3GM⊙Λc2r3=(rΛr)3=3×1.327×10201.08×10−35×(4.5×1012)3=2.5×10−18
である。太陽系の中では宇宙定数の影響は観測できないほど小さい。宇宙定数は、銀河の集団より大きな、宇宙全体の大きさの現象で問題になる(第14章)。
確認テスト
オリジナル
11.3-1 宇宙項 −Λgμν を Einstein 方程式の左辺に加えても、∇μTμν=0 との整合が保たれる理由を1行で述べよ。
11.3-2 密度 ρ の一様なダストが静止したまま釣り合うには、(11.28) で ∇2Φ=0 となればよい(一様な物質の中で力が 0)。このときの Λ を ρ で表せ。また ρ=2ρΛ であることを示せ。
- (i) 例題 11.4 の Λ ではこの ρ はいくらか。
- (ii) ρ が少しだけ大きい場合と小さい場合に、この釣り合いがどうなるかを述べよ。
11.3-3 銀河の集まりの質量を次の値とする。
M=2.0×1012M⊙,M⊙=1.989×1030kg
(11.31) の rΛ をメガパーセク(1Mpc=3.086×1022m)で求めよ。ほかの定数は例題 11.4 の値を使う。4. 11.3-4 宇宙定数のある真空(Tμν=0)で、次の2式を示せ。
R=−4Λ,Rμν=−Λgμν
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com