応用数学入門 第11章 §11.2 ★ 収束座標・最右特異点の意味。概念問題として押さえる背景。
「変換が存在する」とはどういうことか
★ 広義積分の収束=変換の存在。減衰の有無で決まる。
フーリエ変換もラプラス変換も、無限に伸びた区間にわたる積分(広義積分)で定義されている。広義積分は「途中まで積分した値が、区間を伸ばす極限で有限の値に落ち着く」ときに収束 する、と定義する。落ち着かずに振動し続けたり無限大に膨らんだりすれば発散 であり、そのとき変換は(通常の意味では)存在しない 。つまり「変換が存在する」とは、定義している積分が有限の値に収束することに他ならない 。収束するか否かは、被積分関数が遠方 t → ∞ t\to\infty t → ∞ でどれだけ小さくなるかで決まる。
フーリエ変換の弱点. フーリエ変換の被積分は f ( t ) e − i ω t f(t)\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t} f ( t ) e − i ω t である。ここで決定的なのは
∣ f ( t ) e − i ω t ∣ = ∣ f ( t ) ∣ ⋅ ∣ e − i ω t ∣ = ∣ f ( t ) ∣ ⋅ 1 = ∣ f ( t ) ∣ \left\vert f(t)\,\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t}\right\vert =\left\vert f(t)\right\vert \cdot\left\vert \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t}\right\vert =\left\vert f(t)\right\vert \cdot 1=\left\vert f(t)\right\vert f ( t ) e − i ω t = ∣ f ( t ) ∣ ⋅ e − i ω t = ∣ f ( t ) ∣ ⋅ 1 = ∣ f ( t ) ∣
という点だ。e − i ω t \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t} e − i ω t は複素平面上を回るだけの因子で、絶対値は常に 1 1 1 。振動はしても、被積分を小さくする働きは一切ない。したがって収束のためには f f f 自身が遠方で減衰してくれなければならず、もっとも分かりやすい十分条件は絶対可積分性 ∫ − ∞ ∞ ∣ f ( t ) ∣ d t < ∞ \int_{-\infty}^{\infty}\left\vert f(t)\right\vert \mathop{}\!\mathrm{d} t<\infty ∫ − ∞ ∞ ∣ f ( t ) ∣ d t < ∞ である。裏を返せば、1 1 1 、sin t \sin t sin t 、階段関数、e a t \mathrm{e}^{at} e a t のように減衰しない関数は(通常の意味の)フーリエ変換をもたない。
ラプラス変換の強み:減衰のツマミ. ラプラス変換の被積分 f ( t ) e − s t f(t)\mathrm{e}^{-st} f ( t ) e − s t を、s = σ + i τ s=\sigma+\mathrm{i}\tau s = σ + i τ (σ = Re s \sigma=\operatorname{Re} s σ = Re s )と分けて大きさを見よう:
∣ f ( t ) e − s t ∣ = ∣ f ( t ) ∣ ⋅ e − σ t ⋅ ∣ e − i τ t ∣ ⏟ = 1 = ∣ f ( t ) ∣ e − σ t . \left\vert f(t)\,\mathrm{e}^{-st}\right\vert =\left\vert f(t)\right\vert \cdot\mathrm{e}^{-\sigma t}\cdot\underbrace{\left\vert \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\tau t}\right\vert }_{=1}
=\left\vert f(t)\right\vert \,\mathrm{e}^{-\sigma t}. f ( t ) e − s t = ∣ f ( t ) ∣ ⋅ e − σ t ⋅ = 1 e − i τ t = ∣ f ( t ) ∣ e − σ t .
虚部 i τ \mathrm{i}\tau i τ は積分の収束には寄与しないが、実部から e − σ t \mathrm{e}^{-\sigma t} e − σ t という本物の減衰因子が現れる 。これが f f f の増大を押さえ込む「ツマミ」であり、σ \sigma σ を大きく回すほど減衰が強くなる。
指数位数と収束の横座標
★ Re s > γ \operatorname{Re} s>\gamma Re s > γ で絶対収束。収束領域は右半平面。
f f f の増大の速さを測る言葉を用意する。ある定数 M , γ M,\gamma M , γ があって十分大きい t t t で
∣ f ( t ) ∣ ≤ M e γ t \left\vert f(t)\right\vert \le M\,\mathrm{e}^{\gamma t} ∣ f ( t ) ∣ ≤ M e γ t
が成り立つとき、f f f は指数位数 γ \gamma γ をもつという(多項式・三角関数・指数関数はすべてこれを満たす)。このとき被積分の大きさは
∣ f ( t ) ∣ e − σ t ≤ M e ( γ − σ ) t \left\vert f(t)\right\vert \,\mathrm{e}^{-\sigma t}\le M\,\mathrm{e}^{(\gamma-\sigma)t} ∣ f ( t ) ∣ e − σ t ≤ M e ( γ − σ ) t
で押さえられ、右辺は指数 γ − σ \gamma-\sigma γ − σ が負のとき、すなわちσ > γ \sigma>\gamma σ > γ のときだけ 減衰する。よって
Re s = σ > γ ⟹ ラプラス変換は絶対収束する(存在する) \boxed{\ \operatorname{Re} s=\sigma>\gamma\ \Longrightarrow\ \text{ラプラス変換は絶対収束する(存在する)}\ } Re s = σ > γ ⟹ ラプラス変換は絶対収束する(存在する)
この境目の値 γ \gamma γ を収束の横座標(収束座標) という。「横座標」と呼ぶのは、複素 s s s 平面上で Re s = γ \operatorname{Re} s=\gamma Re s = γ が縦線 を引き、その右半平面 が変換の存在する領域(収束領域 )になるからである。フーリエ変換が減衰する関数にしか使えなかったのに対し、ラプラス変換は σ \sigma σ を大きく取るだけで増大する関数まで扱える 。これが両者の実力差の源である。
落とし穴
例で感触をつかむ.
f = 1 f=1 f = 1 :フーリエは振動が止まらず存在しない。ラプラスは σ > 0 \sigma>0 σ > 0 で 1 / s 1/s 1/ s に収束。γ = 0 \gamma=0 γ = 0 。
f = e a t f=\mathrm{e}^{at} f = e a t (a > 0 a>0 a > 0 、増大):フーリエは論外。ラプラスは σ > a \sigma>a σ > a で収束し 1 / ( s − a ) 1/(s-a) 1/ ( s − a ) 。γ = a \gamma=a γ = a 。
f = e − t 2 f=\mathrm{e}^{-t^2} f = e − t 2 :フーリエも存在し、ラプラスはすべての s s s で収束。γ = − ∞ \gamma=-\infty γ = − ∞ 。
f = e t 2 f=\mathrm{e}^{t^2} f = e t 2 :どんな指数より速く増大するので、e − σ t \mathrm{e}^{-\sigma t} e − σ t を掛けてもe t 2 − σ t → ∞ \mathrm{e}^{t^2-\sigma t}\to\infty e t 2 − σ t → ∞ 。指数位数をもたず、どの s s s でもラプラス変換は存在しない 。
なお「存在」には強さの階層がある。ここでは絶対可積分という最も強い意味を扱ったが、正負の打ち消しで収束する条件収束 や、δ \delta δ 関数・主値を許す超関数の意味での存在 (§2.6 の sgn \operatorname{sgn} sgn の変換がその例)もある。「存在しない」と言うときは、どの意味で言っているかを意識するとよい。
存在は右へ伝播する
★ 一度収束すれば右側でも収束。c c c は十分大きく取ればよい。
重要なのは次の事実である:ある s 0 s_0 s 0 で収束すれば Re s > Re s 0 \operatorname{Re} s>\operatorname{Re} s_0 Re s > Re s 0 でも収束する 。これは上の評価 ∣ f ( t ) ∣ e − σ t ≤ M e ( γ − σ ) t \left\vert f(t)\right\vert \mathrm{e}^{-\sigma t}\le M\mathrm{e}^{(\gamma-\sigma)t} ∣ f ( t ) ∣ e − σ t ≤ M e ( γ − σ ) t から明らかで、σ \sigma σ を大きくするほど減衰が強まるからである。この一方向性のおかげで、収束領域は必ず「ある縦線より右の半平面」という形になる 。
この形が保証されていることには、実用上の大きな御利益がある。逆変換を実行するにはc c c を収束領域内に取らねばならないが、その境界 γ \gamma γ を知るには f f f の増大の様子が分かっていなければならない。ところがその f f f こそ、いま逆変換で求めようとしているものである。一見この循環は厄介に思えるが、収束領域が右半平面である以上、c c c を十分大きく取りさえすれば必ず領域内に入る ので、境界を厳密に突き止める必要はないのである。
最も右の特異点は何を表すか
★ 特異点=増大モード。最右特異点が収束領域の左端を決める。
では「十分大きい」とはどこまでか。それを F ( s ) F(s) F ( s ) の特異点 が教えてくれる。鍵となる対応は、F F F の特異点が f f f の増大モードに対応する ことである。たとえば単純極 1 s − a \dfrac{1}{s-a} s − a 1 は f f f の中の e a t \mathrm{e}^{at} e a t という項を生む。f f f が複数のモードの重ね合わせなら、t → ∞ t\to\infty t → ∞ での振る舞いは最も速く増大する項 が支配する。その項の指数こそ、最も右にある特異点の実部である。したがって
γ = max k ( Re s k ) = 最も右の特異点の実部 = f の増大率 . \gamma=\max_k\bigl(\operatorname{Re} s_k\bigr)=\text{最も右の特異点の実部}=f\text{ の増大率}. γ = k max ( Re s k ) = 最も右の特異点の実部 = f の増大率 .
最も右の特異点とは、その関数の「いちばん暴れる成分」の指標 であり、収束領域の左端を決める番人なのである。たとえば f = e t + e 3 t f=\mathrm{e}^{t}+\mathrm{e}^{3t} f = e t + e 3 t なら F = 1 s − 1 + 1 s − 3 F=\frac{1}{s-1}+\frac{1}{s-3} F = s − 1 1 + s − 3 1 で、最も右の特異点は s = 3 s=3 s = 3 。t → ∞ t\to\infty t → ∞ では e 3 t \mathrm{e}^{3t} e 3 t が主役だから γ = 3 \gamma=3 γ = 3 となり、収束領域 Re s > 3 \operatorname{Re} s>3 Re s > 3 の左端にちょうどその特異点が立っている。収束領域の内部で F F F は解析的(特異点をもたない)ので、「c c c を収束領域内に取る」ことと「全特異点を c c c の左に置く」ことは同値である。
ブロムウィッチ路の位置:一条件が三つの要請を果たす
★ c c c を全特異点の右に置く一条件が、収束・因果性・完全性を同時に満たす。
以上より、逆変換の縦線は
F ( s ) のすべての特異点 s ∗ が Re s ∗ < c を満たすように c を選ぶ \boxed{\ F(s)\text{ のすべての特異点 } s_\ast \text{ が } \operatorname{Re} s_\ast<c \text{ を満たすように } c \text{ を選ぶ}\ } F ( s ) のすべての特異点 s ∗ が Re s ∗ < c を満たすように c を選ぶ
と定める。この一つの条件が、独立な三つの要請を同時に満たしている ことを確認しておこう。輪郭を閉じるときの鍵は ∣ e s t ∣ = e t Re s \left\vert \mathrm{e}^{st}\right\vert =\mathrm{e}^{t\,\operatorname{Re} s} ∣ e s t ∣ = e t Re s の振る舞いである。
(i) 逆変換の式がそもそも定義できる(収束領域内にいる). 逆変換は g ( t ) = f ( t ) Θ ( t ) e − σ t g(t)=f(t)\varTheta (t)\mathrm{e}^{-\sigma t} g ( t ) = f ( t ) Θ ( t ) e − σ t のフーリエ反転として導かれた(§3.1)。この g g g がフーリエ変換をもつ、すなわち減衰して絶対可積分になるための条件がまさに σ = c > γ \sigma=c>\gamma σ = c > γ である。c c c を γ \gamma γ より左に取ると g g g が減衰せず、その縦線上では F F F の積分表示が存在しないので、逆変換を書きようがない。
(ii) t < 0 t<0 t < 0 で f = 0 f=0 f = 0 (因果性). t < 0 t<0 t < 0 では e t Re s \mathrm{e}^{t\operatorname{Re} s} e t Re s が Re s → + ∞ \operatorname{Re} s\to+\infty Re s → + ∞ で減衰するので、輪郭を右 に閉じる。c c c の右には特異点が一つも無いから囲む極はゼロで、留数定理より積分は 0 0 0 、すなわち f ( t ) = 0 f(t)=0 f ( t ) = 0 。もし特異点を一つでも右に取り残せば f ( t ) ≠ 0 f(t)\neq0 f ( t ) = 0 となり、片側変換の前提が壊れる。
(iii) t > 0 t>0 t > 0 で全モードを拾う(完全性). t > 0 t>0 t > 0 では e t Re s \mathrm{e}^{t\operatorname{Re} s} e t Re s が Re s → − ∞ \operatorname{Re} s\to-\infty Re s → − ∞ で減衰するので、輪郭を左 に閉じる。全特異点は左にあるから閉じた輪郭はそれらを漏れなく囲み、f ( t ) = ∑ k Res s = s k [ e s t F ( s ) ] f(t)=\sum_k\operatorname{Res}_{s=s_k}[\mathrm{e}^{st}F(s)] f ( t ) = ∑ k Res s = s k [ e s t F ( s )] が完全な逆変換を与える。特異点が右にあれば、左に閉じたときそれを取りこぼして誤った f f f を得る。
落とし穴
c c c の値によらないこと、そして経路を動かせる範囲. 全特異点の右にある二つの選び方 c 1 < c 2 c_1<c_2 c 1 < c 2 の間の帯には特異点が無いので、コーシーの定理により縦線を平行移動しても積分値は変わらない。だから「十分大きく取ればよい」で済む。移動を止めさせる唯一の障害物が特異点 であり、いちばん右の特異点にぶつかったところが収束領域の左端 γ \gamma γ である。
ここで注意すべきは、発散するか否かを決めるのは Re s \operatorname{Re} s Re s の値そのものであって、経路が特異点を避けているかどうかではない という点である。∣ e s t ∣ = e σ t \left\vert \mathrm{e}^{st}\right\vert =\mathrm{e}^{\sigma t} ∣ e s t ∣ = e σ t は虚部をいくら動かしても変わらず、実部だけで決まる。特異点は「その点で被積分が無限大になる」という局所的な事故であるのに対し、収束は「経路が伸びていく無限遠で被積分が十分小さくなるか」という大域的な事情であり、両者は独立である。したがって、特異点を一つも通らない縦線であっても、c < γ c<\gamma c < γ なら収束領域の外にあるので積分は意味をもたない。また、途中で Re s \operatorname{Re} s Re s を変えて左右に振れる「特異点の間を縫うような経路」は、逆変換がσ \sigma σ を一定に保った 1 本の縦線上のフーリエ反転 として定義されている以上、区間ごとに異なる g g g を混ぜることになり、そもそも公式の前提を満たさない。許されるのは「特異点をまたがない範囲で、1 本の縦線を平行移動する」変形だけである。
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