応用数学入門 第14章 §14.1 ★ 分岐を消す筋のよい別解。読み物として。
演習 11.3 で用いた基本公式
L−1[e−as](t)=2πt3/2ae−a2/4t(a>0)
を、ブロムウィッチ積分と分岐切断から導く。s があるため s=0 は分岐点であり、負の実軸に沿って分岐切断を入れる。ブロムウィッチ路をこの切断のまわりの鍵穴(キーホール)型に変形すると、大円弧の寄与は t>0 で消え、切断の上下両岸からの寄与だけが残る。
切断の上岸では s=reiπ(s=ir)、下岸では s=re−iπ(s=−ir)。両岸を合わせると、e−as の差から正弦が現れて
g(t)=π1∫0∞e−rtsin(ar)dr.
r=ξ2(dr=2ξdξ)と置換すると
g(t)=π2∫0∞ξe−ξ2tsin(aξ)dξ.
ここで既知のガウス積分 ∫0∞e−ξ2tcos(aξ)dξ=21tπe−a2/4t を a で微分すると
∫0∞ξe−ξ2tsin(aξ)dξ=4tatπe−a2/4t=4t3/2aπe−a2/4t.
これを代入して
g(t)=π2⋅4t3/2aπe−a2/4t=2πt3/2ae−a2/4t.
a=x とすれば、本文で用いた w(x,τ) の表式に一致する。
分岐切断に巻きつける上の方法は一般性が高いが、この問題に限れば、そもそも分岐を消してしまうという筋のよい別解がある。
出発点は同じくブロムウィッチ積分
g(t)=2πi1∫c−i∞c+i∞est−xsds
である。ここで w=s と置く。s=w2、ds=2wdw であり、この置換により s が消えて被積分 2wetw2−xw は w の整関数となる(分岐点も極も無い)。s 平面の縦線は w 平面では argw=±π/4 の 2 本の半直線に写る。
被積分が整関数である以上、端点が収束を保つ限り経路は自由に変形できる。etw2 が減衰するのは w2 の実部が負となる扇形 argw∈(π/4,3π/4) であり、いまの端点 ±π/4 はちょうどその境界(w=aeiπ/4 で w2=ia2 となりetw2=eita2 は純振動する、いわゆるフレネル型)である。そこで経路を虚軸 argw=±π/2 まで倒してしまう。虚軸上では w=iρ でw2=−ρ2 となり、etw2=e−tρ2 という本物のガウス減衰が得られる。
w=iρ(ρ:−∞→∞)、dw=idρ より2wdw=(2iρ)(i)dρ=−2ρdρ であるから
g(t)=2πi1∫−∞∞e−tρ2−ixρ(−2ρ)dρ=−πi1∫−∞∞ρe−tρ2−ixρdρ.
あとは素直なガウス積分である。平方完成−tρ2−ixρ=−t(ρ+2tix)2−4tx2 をしてμ=ρ+2tix と置くと、μe−tμ2 は奇関数なので消え、定数項だけが残る:
∫−∞∞ρe−tρ2−ixρdρ=e−x2/4t(−2tix)∫−∞∞e−tμ2dμ=−2tixtπe−x2/4t.
これを戻すと −πi1⋅(−2tix)tπ=2πtxtπ となり、
g(t)=2πt3/2xe−x2/4t
と、先の結果に一致する。
円弧の寄与が消えること
経路を argw=π/4 から π/2 へ倒す際、両者をつなぐ半径 R の円弧の寄与がR→∞ で消えることを確かめておく必要がある。円弧上の積分は
∫arcF(w)dw≤(弧長∼R)×arcmax∣F(w)∣
で押さえられるから、∣F∣ が 1/R より速く小さくなればよい。いま F(w)=2wetw2−xw で、w=Reiθ とおくと
∣F∣=2ReRe(tw2−xw),Re(tw2−xw)=tR2cos2θ−xRcosθ.
θ∈[π/4,π/2] を二つに分けて考える。
- 扇形の内部 θ∈(π/4,π/2):2θ∈(π/2,π) より cos2θ<0 で、第一項が tR2cos2θ∼−R2 とガウス的に急降下する。e−(正)R2 は因子 2R を一瞬で潰す。
- 境界 θ=π/4:cos2θ=0 となり、ガウス項による抑えが消える。しかしここでは第二項が抑えを引き継ぐ。cosθ=1/2>0 なので−xRcosθ≈−2xR→−∞ となり、e−xw 由来の線形項が e−xR/2 という指数減衰を供給して肩代わりする。
厳密には δ>0 を取って区間を割ればよい。境界近く θ∈[π/4,π/4+δ] ではcosθ≥cos(4π+δ)>0 より ∣F∣≤2Re−xcos(π/4+δ)R、内部側 θ∈[π/4+δ,π/2] では cos2θ≤−sin2δ<0 より∣F∣≤2Re−tsin2δR2。いずれも「2R×(指数減衰)」であり、弧長 O(R) を掛けても R→∞ で 0 に行く。
落とし穴
二段構えの減衰.ガウス項 tR2cos2θ が扇形の内部を潰し、それが弱る境界方向では線形項 −xRcosθ が代わりに潰す。この二段構えのおかげで、本来きわどい ±π/4 の向きを含めても経路変形が正当化される。逆にいえば x=0(つまり e−sx=1)の極限では線形項の救済が消えて境界がむき出しになり、この単純な変形は使えない。前節の「負の実軸の切断に巻きつける」ルートを別に用意してあるのは、そちらがそうした場合にも使える一般的な道だからである。
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