光学と量子エレクトロニクス 第30章 §30.2 ★★★ 1つのモードの電場は2つの直交位相成分 X^1, X^2 で書け、[X^1,X^2]=i/2 から不確定性が出る。光子数の決まった状態は電場の期待値が 0 で、位相を持たない
直交位相成分
1つのモードだけを取り出す。偏光を e に固定し、位置 r での電場の e 成分を E^ と書くと、式 (30.4) の1項は E^=iEph(a^e−iφ−a^†eiφ)、φ=ωt−k⋅r である(平面波なので Vm=V)。a^ を実部と虚部に分けて
X^1=2a^+a^†,X^2=2ia^−a^†,[X^1,X^2]=2i(30.10)
とおくと、a^=X^1+iX^2 で、電場は
E^=2Eph(X^1sinφ−X^2cosφ)(30.11)
と書ける。X^1 と X^2 を直交位相成分と呼ぶ。古典の場 E0sin(φ−θ) の sinφ と cosφ の係数にあたり、振動子の言葉では位置と運動量(を無次元にしたもの)である。1つのモードのエネルギーは ℏω(X^12+X^22) になる(X^12+X^22=a^†a^+21)。
交換関係 (30.10) から、Robertson の不等式で
ΔX1ΔX2≥41(30.12)
が出る。電場の2つの位相の成分は同時に決めることができない。X^1 の固有値を x とする表示では、X^2=−(i/2)d/dx で、a^=x+(1/2)d/dx である。基底状態 a^ψ0=0 を解くと ψ0(x)=(2/π)1/4e−x2 で、ΔX1=ΔX2=21 と不等式の等号が成り立つ。n 個の光子の状態の波動関数は
ψn(x)=(π2)1/42nn!Hn(2x)e−x2(30.13)
で(Hn は Hermite 多項式)、調和振動子の固有関数の変数を 2x に取り直したものである。∣ψn(x)∣2 は、ホモダイン検出(第31章)で同じモードの強い光と重ねて測る電場の1つの位相の成分の分布になる(図 30.1)。

図 30.1 光子数 n=0,1,2 の状態で、電場の直交位相成分 X^1 を測ったときの値の分布 ∣ψn(x)∣2(式 (30.13))。真空でも幅 ΔX1=21 で揺らぎ、n=1 では x=0 の値がちょうど出ない。どの n でも分布は x→−x で対称で、電場の平均は 0 である。
光子数の決まった状態には位相が無い
光子数の固有状態 ∣n⟩ では ⟨n∣a^∣n⟩=0 なので、どの時刻でも ⟨E^⟩=0 で、
⟨n∣E^2∣n⟩=Eph2⟨n∣a^a^†+a^†a^∣n⟩=Eph2(2n+1)(30.14)
も時刻に依らない。古典の場 E0sin(φ−θ) は、振幅 E0 と位相 θ を決めると各時刻の値が決まるが、∣n⟩ は振幅の2乗の平均だけを持ち、位相 θ についての情報を持たない。直交位相成分の平面の上では、∣n⟩ は原点を中心とする半径 n+21 ほどの輪で、古典の場は1点(矢印の先)にあたる(図 30.2)。光子数と位相の間にも不確定性があり、光子数を決めると位相は決まらない。レーザー光は逆に位相がほぼ決まり、光子数が揺らいだ状態で、第31章のコヒーレント状態がそれにあたる。

図 30.2 直交位相成分の平面の上の状態の見取り図。真空は半径 21 の円板(各方向の揺らぎ 21)、光子数の状態 ∣n⟩ は半径 n+21 の輪(n=3 を描いた)で、位相の方向に一様に広がる。古典の場は振幅と位相の決まった1点である。
例題 30.2 光子1個の状態の電場を測る ★★
オリジナル1つのモードが光子1個の状態 ∣1⟩ にある。
- (1) ⟨X^1⟩、⟨X^12⟩、⟨E^2⟩ を求め、真空の値と比べよ。
- (2) X^1 を測って ∣x∣<21 の値が出る確率を、真空と ∣1⟩ のそれぞれについて求めよ。
- (3) ∣1⟩ で ∣ψ1(x)∣2 が最大になる x を求め、(2) とあわせて、光子1個の状態の電場の測定値がどのような分布になるかを述べよ。
解答
(1) ⟨X^1⟩=21⟨1∣a^+a^†∣1⟩=0。X^12=41(a^2+a^†2+2a^†a^+1) で、∣1⟩ では a^2 と a^†2 の期待値が 0 なので ⟨X^12⟩=41(2+1)=43。真空では 41 なので、分散は3倍になる。式 (30.14) で n=1 とおくと ⟨E^2⟩=3Eph2 で、これも真空の3倍である。
(2) 真空では ∣ψ0∣2=2/πe−2x2 で、標準偏差 21 の正規分布なので、確率は erf(1/2)=0.683。∣1⟩ では ∣ψ1∣2=2/π4x2e−2x2 で、∫−1/21/2∣ψ1∣2dx=0.199。
(3) x2e−2x2 を微分して 0 とおくと x2=21、x=±1/2=±0.707。∣1⟩ の測定値は 0 の近くに出にくく、±0.71 の付近に2つの山を作る。それでも平均は 0 で、2つの山の高さが等しいので、どちらの符号が出るかは決まっていない。光子が1個あることは電場の分布の形(x=0 のくぼみ)には表れるが、決まった位相の振動としては表れない。
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