光学と量子エレクトロニクス 第30章 §30.1 ★★★ Coulomb ゲージの A^ をモードで展開すると、各モードの複素振幅が a^ になる。光子1個の電場は Eph=ℏω/(2ε0Vm) で、モードの体積 Vm だけで決まる
第4部と第5部では、光の場を古典の関数 E(r,t)=Re[E0ei(k⋅r−ωt)] として扱い、原子だけを量子力学で扱ってきた(半古典の扱い)。レーザー光のモードには非常に多くの光子が入っているので、この扱いで Rabi 振動・光 Bloch 方程式・光の力・レーザー冷却まで説明することができた。一方で、半古典の扱いでは説明できない量が3つ残った。自然放出の速さ A21 は第20章で熱平衡の条件から間接的に決めただけで、真空の中で原子がなぜ光を出すのかは説明していない。レーザーの線幅(第22章)は、自然放出の光が発振のモードに混ざることで初めて有限になる。光子を1個ずつ数える実験の結果(第32・33章)は、古典の場の強度の揺らぎでは表すことができない。第6部では、場そのものを量子化してこの3つを扱う。
場の量子化の一般論は、解析力学から様々な理論分野を組み立てるの2つの章で済ませてある。第5部第2章(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第2章)は Klein–Gordon 場を例に、場の Poisson 括弧を交換子に置き換え、場が独立な振動子に分かれることを示した。第5部第3章(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第3章)は、空洞の電磁場の1つのモードが質量 ε0V/2 の振動子であること、零点の電場の大きさ、Planck の分布と Casimir 力を出した。この章ではそれらの結果を引いて、量子光学で使う形(SI・箱の体積 V の規格化・演算子の帽子つき)に書き直し、この巻の型「取り出すモード・物質のモデル・結合」に当てはめる。
30.1節で取り出すモードを決め、電場と磁場の演算子を書き、光子1個の電場 Eph を定義する。30.2節では1つのモードを振動子として読む道具(直交位相成分と相空間の図)を用意し、光子数の決まった状態の場には位相が無いことを示す。30.3節は真空の揺らぎで、1つのモードあたり光子半個分のエネルギーと、それが原子の準位をずらす大きさ(Lamb のずれの見積もり)を出す。30.4節で2準位原子と量子化した場を結合させ、吸収の行列要素が n、放出が n+1 になること、その +1 が自然放出であることを示す。30.5節で近似と実験の量を、30.6節で授業の形との対応を述べ、30.7節でまとめる。この章は SI で書き、演算子には帽子を付ける。
Coulomb ゲージと横波のモード
電荷の無い領域の電磁場は、Coulomb ゲージ ∇⋅A=0 と ϕ=0 を選ぶと、ベクトルポテンシャル A だけで E=−∂tA、B=∇×A と書ける。A は波動方程式 ∂t2A=c2∇2A に従う。原子のように電荷がある場合も、Coulomb ゲージでは電荷どうしの Coulomb 力が原子の Hamiltonian H^A の中に残り、量子化するのは ∇⋅A=0 を満たす横波の部分だけになる(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第12章 で使ったゲージと同じ)。
1辺 Lb の立方体(体積 V=Lb3)に周期境界条件を置くと、許される波数は k=(2π/Lb)(nx,ny,nz)(nx,ny,nz は整数)で、横波の条件 k⋅eks=0 を満たす偏光の単位ベクトル eks が s=1,2 の2つある。古典の A をこのモードで展開して
A(r,t)=k,s∑eks(Aksei(k⋅r−ωkt)+c.c.),ωk=c∣k∣(30.1)
と書く(eks は実数のベクトルに選ぶ)。ここで Aks は時間に依らない複素数である。箱の中の場のエネルギーは、異なるモードの交差項が体積の積分で消えるので
U=∫V(2ε0E2+2μ01B2)d3r=k,s∑2ε0Vωk2∣Aks∣2(30.2)
になる。k と −k のモードの積は e∓2iωkt で振動する項を作るが、電場の分と磁場の分で符号が逆になって打ち消し合う(ωk=c∣k∣ と横波の条件 k⋅eks=0 を使う)。
複素振幅を演算子に置き換える
式 (30.2) は、各モードが角振動数 ωk の調和振動子で、そのエネルギーが複素振幅の絶対値の2乗に比例することを表す。第4部第4章(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第4章)では、振動子の複素振幅を H=ω∣z∣2 となるように規格化し、正準量子化で a^=z^/ℏ、[a^,a^†]=1 とした。同じ規格化を選ぶには Aks=ℏ/(2ε0ωkV)αks とおけばよく、U=∑ℏωk∣αks∣2 になる。αks を演算子 a^ks に置き換えると
A^(r,t)E^(r,t)B^(r,t)=k,s∑2ε0ωkVℏeks(a^ksei(k⋅r−ωkt)+h.c.),=ik,s∑2ε0Vℏωkeks(a^ksei(k⋅r−ωkt)−h.c.),=ik,s∑2ε0ωkVℏ(k×eks)(a^ksei(k⋅r−ωkt)−h.c.)(30.3)(30.4)(30.5)
を得る。[a^ks,a^k′s′†]=δkk′δss′ で、異なるモードの演算子は交換する。E^ は A^ を時間で微分して −1 を掛けたもので、記法の正本の式と同じ形である。ここに書いた時間の依存 e−iωkt は、Heisenberg 描像の a^ks(t)=a^kse−iωkt である。
場のエネルギーと運動量は
H^F=k,s∑ℏωk(a^ks†a^ks+21),P^F=ε0∫VE^×B^d3r=k,s∑ℏka^ks†a^ks(30.6)
になる。21 は、古典の ∣α∣2=α∗α を演算子にするとき 21(a^†a^+a^a^†) と対称に並べたことから出る零点のエネルギーである。運動量では k と −k の零点の分が打ち消し合う。a^ks† を1回当てると、エネルギーが ℏωk、運動量が ℏk だけ増える。この1段を光子と呼ぶ(読み替えの全体は 解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第3章)。
同じ時刻の場の交換関係は、A^ の正準運動量 −ε0E^ との間で
[A^i(r),−ε0E^j(r′)]=iℏδij⊥(r−r′),δij⊥(r)=∫(2π)3d3k(δij−k2kikj)eik⋅r(30.7)
である(V→∞ の形)。偏光の和が ∑s(eks)i(eks)j=δij−kikj/k2 で k に平行な成分を含まないので、右辺は普通の δijδ(3)(r−r′) でなく横波のデルタ関数 δij⊥ になる。Klein–Gordon 場の [ϕ^(x),π^(y)]=iℏδ(3)(x−y) と比べると、ゲージを固定して縦波を除いたことが、この射影 δij−kikj/k2 として残っている。
一般のモードと光子1個の電場
周期境界の平面波は計算に便利だが、共振器の中の場は定在波で、横方向にも Gauss 型に絞られている(第4・5章)。境界のある一般の空洞では、Helmholtz 方程式 ∇2uℓ+(ωℓ/c)2uℓ=0、∇⋅uℓ=0 を壁の境界条件のもとで解いたモード関数 uℓ(r) を∫Vuℓ∗⋅uℓ′d3r=δℓℓ′ と規格化し、
E^(r,t)=iℓ∑2ε0ℏωℓ(uℓ(r)a^ℓe−iωℓt−uℓ∗(r)a^ℓ†eiωℓt)(30.8)
と書く。周期境界の平面波は u=ekseik⋅r/V の場合で、式 (30.4) に戻る。
1つのモードの場の大きさを決めるのは ∣uℓ(r)∣ である。その最大値を使ってモードの体積を Vm=1/maxr∣uℓ(r)∣2 と定義し、
Eph=2ε0Vmℏω(30.9)
を光子1個の電場と呼ぶ。平面波では Vm=V、両端を壁で挟んだ定在波 2/Vsinkx では腹で ∣u∣2=2/V なので Vm=V/2 である。Eph は、そのモードの光子の数が1つ変わるときの電場の行列要素の大きさで、⟨n−1∣E^∣n⟩ の絶対値が Ephn になる(モードの腹の位置で)。モードを小さな体積に閉じ込めるほど、光子1個の電場は大きくなる。第34章の共振器 QED は、この Eph を原子の線幅より大きな結合にする技術である。
例題 30.1 マイクロ波と光の共振器の光子1個の電場 ★★
オリジナル2枚の球面鏡の間の Gauss 型の定在波のモードを考える。軸方向の長さ L、ビームの半径 w0 とし、ビームの広がりは無視してモード関数を u∝e−ρ2/w02sinkz(ρ は軸からの距離)とする。
- (1) モードの体積が Vm=πw02L/4 であることを示せ。
- (2) マイクロ波の共振器(ω/2π=51.1GHz、L=2.70cm、w0=6.00mm)と光の微小共振器(波長 780nm、L=50.0μm、w0=5.00μm)について、Vm と腹での Eph を求めよ。
- (3) (2) の2つの値を、解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第3章の例題の「波長 500nm・体積 1cm3 で零点の電場 0.150Vm−1」と比べ、どちらが大きいかを ω と Vm の依存性で説明せよ。
解答
(1) 規格化の積分は、横方向が ∫0∞e−2ρ2/w022πρdρ=πw02/2、軸方向が ∫0Lsin2kzdz=L/2(kL が π の整数倍)で、∫∣u∣2d3r=C2πw02L/4(C は振幅)。最大値は C2 なので、Vm=∫∣u∣2d3r/max∣u∣2=πw02L/4 である。
(2) マイクロ波では Vm=π×(6.00×10−3)2×2.70×10−2/4=7.63×10−7m3、ℏω=3.39×10−23J で
Eph=2×8.854×10−12×7.63×10−73.39×10−23=1.58×10−3Vm−1.
光では Vm=π×(5.00×10−6)2×5.00×10−5/4=9.82×10−16m3、ℏω=2.55×10−19J で Eph=3.83×103Vm−1。
(3) Eph∝ω/Vm である。1cm3 の箱の 0.150Vm−1(平均の値)に比べ、マイクロ波は ω が約 1.2×104 分の1で体積は同じ桁なので約100分の1になる。光の微小共振器は体積が約 109 分の1で、ω が 500nm の光の 0.64 倍なので、0.64×109 から約 2.6×104 倍になる。光子1個で kVm−1 の桁の電場ができるので、原子1個と光子1個の結合を観測することができる。
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