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出てくるもの(3):ゲージの固定と、A\bm{A} でしか書けない位相

2026年10月15日13分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第2部 第8章 ゲージ不変性という制約
目次
  1. ゲージ軌道と、そこから1つ選ぶ条件
  2. ゲージで消せない量:
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第8章 §2.8.5 ★★ ゲージ軌道から代表を1つ選ぶ条件が Lorenz・Coulomb ゲージ。ゲージで消せない ∮A⋅dl\oint\bm{A}\cdot\mathrm{d}\bm{l} が Aharonov–Bohm の位相になる

ゲージ軌道と、そこから1つ選ぶ条件

1つの AμA_\mu からゲージ変換で移れる Aμ−∂μΛA_\mu-\partial_\mu\Lambda の全体を、AμA_\mu のゲージ軌道と呼ぶ。同じ軌道の上の AμA_\mu はすべて同じ FμνF_{\mu\nu} になり、物理的に区別することができない。計算するときは、各軌道から代表を1つずつ選ぶ条件を課しておくと式が簡単になる。これをゲージの固定と呼ぶ(図 2.8.2)。

よく使う条件の1つ目は Lorenz ゲージ(L. V. Lorenz にちなむ。変換の名の Lorentz とは別人)

∂μAμ=1c2∂ϕ∂t+∇⋅A=0(2.8.22)\partial_\mu A^\mu=\frac{1}{c^2}\frac{\partial \phi}{\partial t}+\nabla\cdot\bm{A}=0\tag{2.8.22}

である。ゲージ変換で ∂μAμ→∂μAμ−□Λ\partial_\mu A^\mu\to\partial_\mu A^\mu-\Box\Lambda となるので、与えられた AμA_\mu に対して波動方程式 □Λ=∂μAμ\Box\Lambda=\partial_\mu A^\mu を解いて Λ\Lambda を選べば、この条件にたどり着くことができる。∂μFμν=□Aν−∂ν(∂μAμ)\partial_\mu F^{\mu\nu}=\Box A^\nu-\partial^\nu(\partial_\mu A^\mu) なので、このゲージでは Maxwell 方程式 (2.8.3) が4つの成分ごとに分かれた波動方程式

□Aν=μ0Jν,すなわち□ϕ=ρε0,□A=μ0J(2.8.23)\Box A^\nu=\mu_0J^\nu,\qquad\text{すなわち}\quad \Box\phi=\frac{\rho}{\varepsilon_0},\quad \Box\bm{A}=\mu_0\bm{J}\tag{2.8.23}

になる(□=1c2∂t2−∇2\Box=\frac{1}{c^2}\partial_t^2-\nabla^2)。条件 (2.8.22) は計量を使って書いたので、Lorentz 変換で別の慣性系に移っても同じ形のまま保たれる。ただし条件は軌道から代表を1つに絞り切らない。□Λ=0\Box\Lambda=0 を満たす Λ\Lambda でゲージ変換しても条件は崩れないので、この分の不定性(残りのゲージ自由度)が残る。

2つ目は Coulomb ゲージ

∇⋅A=0(2.8.24)\nabla\cdot\bm{A}=0\tag{2.8.24}

で、2.8.4節の言葉では A~∥=0\tilde{\bm{A}}_\parallel=0 と選ぶことに当たる。∇2Λ=−∇⋅A\nabla^2\Lambda=-\nabla\cdot\bm{A} を解けばたどり着くことができる。このゲージでは Gauss の法則が −∇2ϕ=ρ/ε0-\nabla^2\phi=\rho/\varepsilon_0 となり、ϕ\phi は各時刻の電荷分布から瞬時に決まる Coulomb のポテンシャルになる。ϕ\phi が瞬時に決まっても電場の伝わり方が光速を超えるわけではない。A\bm{A} の側にも瞬時に決まる部分があり、E=−∇ϕ−∂tA\bm{E}=-\nabla\phi-\partial_t\bm{A} にするとその部分が打ち消し合う。Coulomb ゲージは、動く自由度 A~⊥\tilde{\bm{A}}_\perp だけを残すので量子化と相性が良く、Lorenz ゲージは計量で書けるので相対論的な計算と相性が良い。

図

図 2.8.2 ゲージの固定の模式図。灰色の線の1本1本が同じ FμνF_{\mu\nu} になる AμA_\mu の集まり(ゲージ軌道)で、ゲージ変換は線に沿って動く。黒い線がゲージの固定の条件で、各軌道と1点(黒丸)で交われば代表が1つに決まる。Lorenz ゲージでは □Λ=0\Box\Lambda=0 の分だけ交わりが1点に絞り切れない

ゲージで消せない量:∮A⋅dl\oint\bm{A}\cdot\mathrm{d}\bm{l}

ゲージ変換で変わらない量は FμνF_{\mu\nu} だけではない。閉じた曲線 CC についての線積分 ∮CA⋅dl\oint_C\bm{A}\cdot\mathrm{d}\bm{l} は、A→A+∇Λ\bm{A}\to\bm{A}+\nabla\Lambda で∮C∇Λ⋅dl\oint_C\nabla\Lambda\cdot\mathrm{d}\bm{l} だけ変わるが、Λ\Lambda が1価の関数ならこれは 00 である。Stokes の定理から、CC を縁とする面 Σ\Sigma を貫く磁束∮CA⋅dl=∫ΣB⋅dS\oint_C\bm{A}\cdot\mathrm{d}\bm{l}=\int_\Sigma\bm{B}\cdot\mathrm{d}\bm{S} に等しい。

この量が B\bm{B} だけで言い尽くせない例が、無限に長いソレノイドである。半径 RR のソレノイドの中に一様な磁場 B0ezB_0\bm{e}_z があり、外では B=0\bm{B}=0 とする。円柱座標 (ρ,φ,z)(\rho,\varphi,z) でベクトルポテンシャルを

Aφ={B0ρ2(ρ<R)ΦB2πρ(ρ>R),ΦB=πR2B0(2.8.25)A_\varphi=\begin{cases}\dfrac{B_0\rho}{2}&(\rho<R)\\[2mm] \dfrac{\Phi_B}{2\pi\rho}&(\rho>R)\end{cases},\qquad \Phi_B=\pi R^2B_0\tag{2.8.25}

と選ぶと、中では ∇×A=1ρ∂ρ(ρAφ)ez=B0ez\nabla\times\bm{A}=\frac1\rho\partial_\rho(\rho A_\varphi)\bm{e}_z=B_0\bm{e}_z、外では 00 になる(図 2.8.3)。ソレノイドを1周する曲線では、半径によらず ∮A⋅dl=2πρAφ=ΦB\oint\bm{A}\cdot\mathrm{d}\bm{l}=2\pi\rho A_\varphi=\Phi_B である。

外側だけを見ると A=∇Λ\bm{A}=\nabla\Lambda、Λ=ΦBφ/(2π)\Lambda=\Phi_B\varphi/(2\pi) と書けて、A\bm{A} をゲージ変換で消せるように見える。しかしこの Λ\Lambda は1周すると ΦB\Phi_B だけずれる多価の関数で、外側の領域全体では1価の Λ\Lambda で A\bm{A} を消すことはできない。外側の領域は穴(ソレノイド)のあいた領域で、ソレノイドを囲む曲線を縮めて1点にできないためである。

古典力学の粒子は Lorentz 力にしか反応しないので、外側を動く限りソレノイドの影響を受けない。一方、作用 (2.8.1) の値にはq∫r˙⋅A dt=q∫A⋅dlq\int\dot{\bm{r}}\cdot\bm{A}\,\mathrm{d} t=q\int\bm{A}\cdot\mathrm{d}\bm{l} が入るので、ソレノイドの両側を通って同じ2点を結ぶ2本の経路では、作用が

ΔS=q∮A⋅dl=qΦB(2.8.26)\Delta S=q\oint\bm{A}\cdot\mathrm{d}\bm{l}=q\Phi_B\tag{2.8.26}

だけ違う。この差はゲージによらない。量子力学では作用が位相 eiS/ℏ\mathrm{e}^{\mathrm{i} S/\hbar} に入るので(第1部第5章・第4部第8章)、2本の経路を通った波の干渉縞は位相差 qΦB/ℏq\Phi_B/\hbar だけずれる。B=0\bm{B}=0 の場所しか通らない電子でも、ソレノイドの中の磁束を感じる。これを Aharonov と Bohm が1959年に指摘し1Y. Aharonov and D. Bohm (1959), Physical Review 115, 485–491.下の脚注へ、外村らが超伝導体で磁場を閉じ込めた微小な環状磁石を使って確かめた2A. Tonomura et al. (1986), Physical Review Letters 56, 792–795.下の脚注へ。量子力学での扱いは第4部第6章で行う。

図

図 2.8.3 無限に長いソレノイド(半径 RR)のまわりの AφA_\varphi(式 (2.8.25))と磁場。ρ>R\rho>R では B=0\bm{B}=0 なのに Aφ=ΦB/(2πρ)A_\varphi=\Phi_B/(2\pi\rho) は 00 でなく、1周の線積分は半径によらず ΦB\Phi_B になる。どちらも厳密な式で、近似は入っていない

例題 2.8.5 ソレノイドの外の A\bm{A} は局所的にしか消せない ★★

オリジナル式 (2.8.25) の外側 ρ>R\rho>R の Aφ=ΦB/(2πρ)A_\varphi=\Phi_B/(2\pi\rho) と、Λ=ΦBφ/(2π)\Lambda=\Phi_B\varphi/(2\pi) を考える。

  1. (1) 円柱座標の勾配 ∇Λ=∂ρΛ eρ+1ρ∂φΛ eφ+∂zΛ ez\nabla\Lambda=\partial_\rho\Lambda\,\bm{e}_\rho+\frac1\rho\partial_\varphi\Lambda\,\bm{e}_\varphi+\partial_z\Lambda\,\bm{e}_z を使って A=∇Λ\bm{A}=\nabla\Lambda を確かめ、ゲージ関数 −Λ-\Lambda でゲージ変換したポテンシャル (ϕ′,A′)(\phi',\bm{A}') を求めよ(静磁場なので ϕ=0\phi=0 とする)。
  2. (2) 外側の領域から負の xx 軸に沿う半平面(φ=π\varphi=\pi)を除き、−π<φ<π-\pi<\varphi<\pi と選ぶ。この領域の中で Λ\Lambda は1価で滑らかか。
  3. (3) 除いた半平面をまたぐと Λ\Lambda はいくら跳ぶか。外側の領域全体で A′=0\bm{A}'=0 にする1価の Λ\Lambda が無いことを、1周の線積分から示せ。
  4. (4) 例題 2.8.6 と同じ R=1 μmR=1\,\mu\mathrm m、B0=1 mTB_0=1\,\mathrm{mT} のとき、ρ=2R\rho=2R での AφA_\varphi を数値で求めよ。
解答

(1) ∂ρΛ=∂zΛ=0\partial_\rho\Lambda=\partial_z\Lambda=0、1ρ∂φΛ=ΦB2πρ\frac1\rho\partial_\varphi\Lambda=\frac{\Phi_B}{2\pi\rho} なので ∇Λ=ΦB2πρeφ=A\nabla\Lambda=\frac{\Phi_B}{2\pi\rho}\bm{e}_\varphi=\bm{A}。ゲージ関数 −Λ-\Lambda の変換 (2.8.5) で A′=A−∇Λ=0\bm{A}'=\bm{A}-\nabla\Lambda=0、Λ\Lambda は時刻によらないので ϕ′=ϕ=0\phi'=\phi=0 である。

(2) −π<φ<π-\pi<\varphi<\pi の範囲では、φ\varphi は位置の1価で滑らかな関数なので、Λ\Lambda も1価で滑らかである。この領域の中では ϕ′=0\phi'=0、A′=0\bm{A}'=0 というゲージが存在し、ポテンシャルにソレノイドの痕跡はどこにも残らない。局所的には(ソレノイドを囲まない領域では)A\bm{A} をゲージ変換で消すことができる。

(3) 半平面に上側から近づくと φ→π\varphi\to\pi で Λ→ΦB/2\Lambda\to\Phi_B/2、下側から近づくと φ→−π\varphi\to-\pi で Λ→−ΦB/2\Lambda\to-\Phi_B/2 となり、Λ\Lambda は ΦB\Phi_B だけ跳ぶ。外側の領域全体で1価で滑らかな Λ~\tilde\Lambda が ∇Λ~=A\nabla\tilde\Lambda=\bm{A} を満たしたとすると、ソレノイドを1周する円 CC で∮CA⋅dl=∮C∇Λ~⋅dl=0\oint_C\bm{A}\cdot\mathrm{d}\bm{l}=\oint_C\nabla\tilde\Lambda\cdot\mathrm{d}\bm{l}=0 になるが、本文のとおりこの線積分は ΦB≠0\Phi_B\neq0 で矛盾する。1価の Λ\Lambda によるゲージ変換は ∮CA⋅dl\oint_C\bm{A}\cdot\mathrm{d}\bm{l} を変えないので、どのゲージでも外側の A\bm{A} をすべて 00 にすることはできない。Λ\Lambda の跳び ΦB\Phi_B は1周の線積分そのもので、次の例題でこれが電子の干渉の位相差 qΦB/ℏq\Phi_B/\hbar になる。

(4) ΦB=πR2B0\Phi_B=\pi R^2B_0 なので Aφ(2R)=πR2B02π⋅2R=B0R4=10−3×10−64=2.5×10−10 T mA_\varphi(2R)=\frac{\pi R^2B_0}{2\pi\cdot2R}=\frac{B_0R}{4}=\frac{10^{-3}\times10^{-6}}{4}=2.5\times10^{-10}\,\mathrm{T\,m}。

例題 2.8.6 細いソレノイドを回る電子の位相差 ★★

オリジナル半径 R=1 μmR=1\,\mu\mathrm m のソレノイドの中に B0=1 mTB_0=1\,\mathrm{mT} の一様な磁場がある。電子(電荷 −e-e)の波がソレノイドの両側を通って干渉する。

  1. (1) 外側の Aφ=ΦB/(2πρ)A_\varphi=\Phi_B/(2\pi\rho) について、ソレノイドを1周する半径 ρ\rho の円での線積分を求め、ρ\rho によらないことを示せ。また、1周しない閉曲線(ソレノイドを囲まない曲線)での線積分はいくらか。
  2. (2) 磁束 ΦB\Phi_B と、2本の経路の位相差の大きさ eΦB/ℏe\Phi_B/\hbar を数値で求めよ。ΦB\Phi_B は磁束の単位 h/eh/e の何倍か。
  3. (3) ΦB=h/(2e)\Phi_B=h/(2e)(超伝導体で量子化される磁束の単位)なら位相差はいくらか。
解答

(1) 半径 ρ\rho の円では ∮A⋅dl=∫02πAφ ρ dφ=ΦB2πρ⋅2πρ=ΦB\oint\bm{A}\cdot\mathrm{d}\bm{l}=\int_0^{2\pi}A_\varphi\,\rho\,\mathrm{d}\varphi=\frac{\Phi_B}{2\pi\rho}\cdot2\pi\rho=\Phi_B で、ρ\rho によらない。ソレノイドを囲まない閉曲線は、外側の領域の中で縮めて1点にでき、その内側で B=0\bm{B}=0 なので、Stokes の定理から線積分は 00 である(Λ=ΦBφ/(2π)\Lambda=\Phi_B\varphi/(2\pi) が曲線の上で1価に選べる、と言ってもよい)。

(2) ΦB=πR2B0=π×(10−6)2×10−3=3.14×10−15 Wb\Phi_B=\pi R^2B_0=\pi\times(10^{-6})^2\times10^{-3}=3.14\times10^{-15}\,\mathrm{Wb}。ℏ=1.055×10−34 J s\hbar=1.055\times10^{-34}\,\mathrm{J\,s}、e=1.602×10−19 Ce=1.602\times10^{-19}\,\mathrm C を使って

eΦBℏ=1.602×10−19×3.14×10−151.055×10−34=4.77 rad.\frac{e\Phi_B}{\hbar}=\frac{1.602\times10^{-19}\times3.14\times10^{-15}}{1.055\times10^{-34}}=4.77\,\mathrm{rad}.

h/e=2πℏ/e=4.14×10−15 Wbh/e=2\pi\hbar/e=4.14\times10^{-15}\,\mathrm{Wb} なので、ΦB\Phi_B はその 0.7600.760 倍である。位相差は 2π×0.760=4.77 rad2\pi\times0.760=4.77\,\mathrm{rad} と言い換えられる。

(3) eΦB/ℏ=eℏ⋅2πℏ2e=πe\Phi_B/\hbar=\frac{e}{\hbar}\cdot\frac{2\pi\hbar}{2e}=\pi。干渉縞はちょうど半周期ずれ、明るい所と暗い所が入れ替わる。磁場の大きさを変えると、位相差は ΦB\Phi_B に比例して連続に変わり、ΦB\Phi_B が h/eh/e 増えるごとに干渉縞は元に戻る。

1 Y. Aharonov and D. Bohm (1959), Physical Review 115, 485–491.

2 A. Tonomura et al. (1986), Physical Review Letters 56, 792–795.

木下の勉強ステータス

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