解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第8章 §2.8.1 ★★★ 作用は E,B でなく Aμ で書くしかなく、そのことと引き換えに Aμ→Aμ−∂μΛ という不定性が入る
電磁気学では、電場 E と磁場 B が測れる量で、ポテンシャル ϕ と A は計算を楽にする補助の量として導入されることが多い。ところが第2部第2章の荷電粒子の Lagrangian にも、第2部第6章の電磁場の Lagrangian 密度にも、現れるのは E,B でなく ϕ,A である。そして ϕ,A にはゲージ変換という大きな不定性があり、同じ E,B になるポテンシャルは無数にある。この章では、この不定性を「作用が変わらない変換」として正面から扱う。
この章で選ぶものは、第2部第6章の電磁場と源の作用と、それを変えないゲージ変換 Aμ→Aμ−∂μΛ の組である。当てる道具は、第1部第10章の Noether の定理のうち、変換のパラメータが定数でなく時空の任意の関数 Λ(x) である場合の版(Noether の第2定理)と、第1部第6章の未定乗数、第1部第9章の生成子である。出てくるものは3つある。①運動方程式(Maxwell 方程式)の発散が恒等的に 0 になり、そのため源の電荷が保存していなければ方程式が解を持たないこと。②Hamilton 形式では ϕ が未定乗数になり、Gauss の法則が「拘束」として現れ、しかもその拘束がゲージ変換の生成子になること。その結果、Aμ の4成分のうち時間とともに動く自由度は各点2つ(光の2つの偏り)しか残らない。③ゲージの固定のしかた(Lorenz ゲージ・Coulomb ゲージ)と、B=0 の場所でも ∮A⋅dl が意味を持つ Aharonov–Bohm の位相。最後に、ポテンシャルの導入・変位電流・最小結合 p−qA という授業での書き方を、この章の形と並べる。
単位は SI、計量は ημν=diag(+1,−1,−1,−1)、xμ=(ct,x)、Aμ=(ϕ/c,A)、Jμ=(cρ,J) で、上下に1回ずつ現れるギリシャ添字は和を取る(記法の正本どおり)。
2つの作用
この章で扱う作用は、第2部第2章と第2部第6章で選んだ2つである。1つ目は、与えられた電磁場の中を動く電荷 q・質量 m の粒子の作用で、非相対論の範囲では
S粒子[r]=∫t1t2(2mr˙2−qϕ(r,t)+qr˙⋅A(r,t))dt(2.8.1)
である。2つ目は、与えられた源 Jμ のもとでの電磁場そのものの作用で、
S場[A]=c1∫Ld4x,L=−4μ01FμνFμν−JμAμ=2ε0E2−2μ01B2−ρϕ+J⋅A(2.8.2)
である。ここで Fμν=∂μAν−∂νAμ で、成分は F0i=Ei/c、F12=−B3 などである。最後の等号は FμνFμν=2(B2−E2/c2) と JμAμ=ρϕ−J⋅A を使った。第2部第6章で、S場 の Aν についての Euler–Lagrange 方程式が Maxwell 方程式のうち源を含む半分
∂μFμν=μ0Jν(2.8.3)
になることを示した。ν=0 が Gauss の法則 ∇⋅E=ρ/ε0、ν=i が Ampère–Maxwell の法則 ∇×B=μ0J+μ0ε0∂tE である。
ゲージ変換
時空の関数 Λ(x) を1つ選び、ポテンシャルを
Aμ ⟶ Aμ−∂μΛ(2.8.4)
と取り替える。成分で書くと A0=ϕ/c、Ai=−Ai なので
ϕ ⟶ ϕ−∂t∂Λ,A ⟶ A+∇Λ(2.8.5)
である。これをゲージ変換と呼び、Λ をゲージ関数と呼ぶ。偏微分の順序が交換できるので
Fμν ⟶ ∂μ(Aν−∂νΛ)−∂ν(Aμ−∂μΛ)=Fμν−(∂μ∂ν−∂ν∂μ)Λ=Fμν(2.8.6)
となり、E と B はゲージ変換で変わらない。したがって L のうち FμνFμν の項は変わらない。変わりうるのは源との結合の項 −JμAμ だけで、それがいつ変わらないかは 2.8.3節の主題になる。
粒子の作用 (2.8.1) では、経路 r(t) に沿って
L ⟶ L+q∂t∂Λ+qr˙⋅∇Λ=L+qdtdΛ(r(t),t)(2.8.7)
となり、Lagrangian は全微分だけ変わる。第1部第4章で見たとおり、全微分を足しても Euler–Lagrange 方程式は変わらないので、粒子の運動(Lorentz 力)はゲージによらない。第1部第10章の言葉では、式 (2.8.7) は準対称性の式 δL=ϵΛ˙ と同じ形をしている。ただし、ここで変換しているのは粒子の座標ではなく外から与えた場 Aμ なので、この全微分から保存量が1つ出るのでなく、「同じ物理を表す Lagrangian が何通りもある」ことを表している。
なぜ E,B でなく Aμ で書くのか
不定性が入ることを承知で Aμ を使う理由は、粒子の側と場の側にそれぞれ1つずつある。
粒子の側の理由は、磁場の力が速度に比例することである。速度に1次の項を持つ一番一般的な Lagrangian をL=2mr˙2+qr˙⋅W(r,t)−qU(r,t) と書き、Euler–Lagrange 方程式を計算すると、∇(r˙⋅W)−(r˙⋅∇)W=r˙×(∇×W) を使って
mr¨=q(−∇U−∂tW)+qr˙×(∇×W)
を得る。これが Lorentz 力 q(E+r˙×B) に一致するには、∇×W=B かつ −∇U−∂tW=E でなければならない。つまり Lagrangian に入る係数 (U,W) は、ポテンシャル (ϕ,A) そのものである。速度に依存する力を Lagrangian から出すには速度と内積を取るベクトル場が要り、その回転が B になるので、B を直接 Lagrangian に入れる道は無い。しかも上の運動方程式には W の回転と ∂tW+∇U しか現れないので、W に勾配 ∇Λ を足し、U から ∂tΛ を引いても運動は変わらない。これがゲージ変換 (2.8.5) である。
場の側の理由は、変分原理で動かす変数は互いに独立でなければならないことである。Maxwell 方程式は8本あり、そのうち
∇⋅B=0,∇×E+∂t∂B=0(2.8.8)
の4本は源を含まない。E=−∇ϕ−∂tA、B=∇×A と書けば、この4本は ϕ,A が何であっても成り立つ恒等式になる(共変形では ∂λFμν+∂μFνλ+∂νFλμ=0 の Bianchi 恒等式)。残る4本 (2.8.3) を、自由に動かせる4つの変数 Aμ の Euler–Lagrange 方程式として出すことができる。仮に E,B の6成分を独立な変数にして L=2ε0E2−2μ01B2 を変分すると、L に E,B の微分が入っていないのでEuler–Lagrange 方程式は E=0、B=0 という代数方程式になってしまい、波も何も出てこない。式 (2.8.8) を拘束として課す道もあるが、そうすると拘束を解く変数はまたポテンシャルになる。
不定性は払った代価
Aμ は4成分、E,B は6成分だが、式 (2.8.8) の4本の条件で縛られているので、各点で独立に選べる量はもっと少ない。Aμ で書くと条件 (2.8.8) は自動的に満たされるかわりに、Λ の分だけ余分な成分を持ち込む。この章の残りは、その余分な成分を作用の言葉でどう扱うかの話である。2.8.4節で、各点で本当に動く成分が2つであることを数える。
例題 2.8.1 平面波を2つのゲージで書く ★★
オリジナル真空を x の向きに進む平面波を考え、θ=kx−ωt、ω=ck とおく。
- (1) ゲージ1 (ϕ,A)=(0, ωE0sinθey) の E と B を求めよ。このポテンシャルが ∇⋅A=0 も満たすことを確かめよ(ϕ=0 と合わせて、2.8.5節の Coulomb ゲージの1つ)。
- (2) ゲージ関数 Λ=ωE0sinθ でゲージ変換 (2.8.5) をしたゲージ2の (ϕ′,A′) を求めよ。
- (3) ゲージ2でも E と B が (1) と同じになることを確かめよ。2つのゲージで変わったのはポテンシャルのどの成分か。
- (4) 2つのゲージのそれぞれで c21∂tϕ+∇⋅A を計算せよ。
解答
(1) ∂tsinθ=−ωcosθ なので、E=−∇ϕ−∂tA=E0cosθey。B=∇×A=∂xAyez=ωE0kcosθez=cE0cosθez。Ay は y によらないので ∇⋅A=∂yAy=0 である。
(2) ϕ′=ϕ−∂tΛ=E0cosθ、A′=A+∇Λ=cE0cosθex+ωE0sinθey(∂xΛ=ωE0kcosθ=cE0cosθ)。
(3) x 成分は −∂xϕ′−∂tAx′=E0ksinθ−cE0ωsinθ=0、y 成分は Ay が変わらないので E0cosθ のままで、E′=E。Ax′ は x と t だけの関数なので回転に寄与せず、B′=B。変わったのは ϕ と、A の進む向き k に平行な x 成分だけで、k に垂直な Ay はそのままである。(ϕ,A) と (ϕ′,A′) は同じゲージ軌道(2.8.5節)の2点で、Λ で軌道に沿って動いた。ゲージで動くのが k に平行な成分と ϕ で、k に垂直な成分が物理の自由度であることを、2.8.4節で一般に数える。
(4) ゲージ1では 0。ゲージ2では c21∂tϕ′=c2E0ωsinθ=cE0ksinθ、∇⋅A′=∂xAx′=−cE0ksinθ で、和は 0 である。ゲージ2は ∇⋅A′=0 なので Coulomb ゲージではないが、どちらのゲージも2.8.5節の Lorenz ゲージの条件を満たす。Λ そのものが ω=ck の平面波で □Λ=0 を満たすためで、Lorenz ゲージに残る不定性の例になっている。
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