解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第9章 §1.9.1 ★★★ 連続的な変換の族をパラメータで微分すると、各点を動かす向き K(q) が残る
回転・並進・時間発展は、物理のあらゆる場面に出てくる変換である。学部の授業では、回転は行列 (cosαsinα−sinαcosα) で、並進は x→x+a で、時間発展は運動方程式の解として、それぞれ別々の道具で扱われる。この章では、これら3つを同じ1つの形で書く。そのために使うのは、変換を「ほんの少しだけ」行ったときの1次の変化、つまり無限小変換だけを取り出すことである。連続的に変えられる変換は、無限小変換を何度も重ねれば有限の変換に戻せるので、無限小変換が分かれば変換全体が分かる。
相空間(q と p の空間。第1部第8章)の上の無限小変換のうち、Hamilton 方程式と相性のよいものは、すべて1つの関数 G(q,p) を使って
δqi=ϵ∂pi∂G,δpi=−ϵ∂qi∂G
と書くことができる。この G を変換の生成子と呼ぶ。並進の生成子は運動量 p、回転の生成子は角運動量 Lz、時間発展の生成子は Hamiltonian H である。時間発展の場合に上の式が Hamilton 方程式そのものになることが、この形を選ぶ理由の1つになる。
この章の道具は6つの節に分かれる。1.9.1節で無限小変換を定義し、1.9.2節で無限小変換から有限の変換を組み立てる。1.9.3節で相空間の無限小変換に生成子があることを示し、1.9.4節で並進・回転・時間発展を1つの表に並べる。1.9.5節で量子力学の同じ形(U^=e−iϵG^/ℏ)を見て、1.9.6節で授業で習った形と対応させる。生成子が保存量になること(Noether の定理)は1.9.4節で一言だけ予告し、本体は次の章(第1部第10章)で扱う。生成子どうしの括弧の計算規則(Poisson 括弧)は 第1部第11章、有限の変換としての正準変換と母関数は 第1部第12章で扱う。
パラメータで番号をつけた変換の族
平面の点 (x,y) を原点のまわりに角 α だけ反時計回りに回す変換を Φα と書く。
Φα(x,y)=(xcosα−ysinα, xsinα+ycosα).(1.9.1)
α は実数を連続的に動けるので、Φα は1つの変換ではなく、実数 α で番号をつけた変換の族である。この族は2つの性質を持つ。1つは Φ0 が何も動かさない恒等変換であること、もう1つは角 β 回してから角 α 回すと角 α+β 回したことになる、という合成の規則
Φα∘Φβ=Φα+β(1.9.2)
である。並進 Φα(x)=x+α もこの2つを満たす。
時間発展もこの形に入る。外から時間に依存する力がかからない系では、時刻 0 の状態を入れて時刻 α の状態を返す対応を Φα とすると、Φ0 は恒等変換で、β だけ時間を進めてからさらに α だけ進めると α+β だけ進めたことになるので、式 (1.9.2) が成り立つ。この章では、恒等変換から始まり式 (1.9.2) を満たす変換の族を1径数変換群と呼ぶ。「1径数」はパラメータが1つの実数であること、「群」は合成の規則 (1.9.2) で閉じていることを指す。
1次の変化だけを取り出す
Φα を α=0 のまわりで展開すると、Φ0 が恒等変換なので
Φϵ(q)=q+ϵK(q)+O(ϵ2),K(q):=dαdΦα(q)α=0
となる。ここで q=(q1,…,qf) は変換を受ける点の座標、K=(K1,…,Kf) は各点に1本ずつ付いたベクトルで、その点を「どちら向きにどれだけの速さで動かすか」を表す。
定義 1.9.1(無限小変換)
1径数変換群 Φα に対して、K(q)=dαdΦα(q)α=0 を変換の向きと呼び、
δqi=ϵKi(q)(i=1,…,f)(1.9.3)
をパラメータ ϵ の無限小変換と呼ぶ。
式 (1.9.3) の δ は、第1部第3章の変分と同じく「ϵ で微分して ϵ を掛けたもの」で、O(ϵ2) の項を捨てた近似ではない。δq=ϵK は「ϵ が小さいときの差 Φϵ(q)−q」と1次で一致するが、定義そのものは α=0 での微分である。第3章の変分との違いは、変分 δq(t)=ϵη(t) では経路の各時刻を好きな向き η(t) にずらしたのに対して、無限小変換では点の位置 q だけで決まる規則 K(q) に従って全部の点を一斉にずらすことにある。
回転 (1.9.1) では、cosα=1+O(α2), sinα=α+O(α3) なので
δx=−ϵy,δy=ϵx,K(x,y)=(−y, x)(1.9.4)
となる。向き K は位置ベクトル (x,y) に垂直で、長さは原点からの距離に比例する。原点を中心とする円に接する向きに、半径に比例する速さで動かすのが回転の無限小変換である。並進 x→x+α では K=1 で、すべての点を同じ向きに同じ量だけ動かす。
無限小回転では、距離の2乗 x2+y2 の1次の変化は 2xδx+2yδy=2ϵ(−xy+yx)=0 である。回転が距離を変えないことは、無限小変換の段階で「1次の変化が 0」という形で読み取ることができる。2次の項まで見ると (x−ϵy)2+(y+ϵx)2=(1+ϵ2)(x2+y2) で、x→x−ϵy, y→y+ϵx という1次式の写像そのものは距離をわずかに変える。この ϵ2 のずれを重ねると何が起こるかは次の節で調べる。
例題 1.9.1 双曲線の回転の無限小変換 ★★
オリジナル平面の変換の族 Φα(x,y)=(xcoshα+ysinhα, xsinhα+ycoshα) について次に答えよ。
- (1) Φα が1径数変換群であること(Φ0 が恒等変換で、Φα∘Φβ=Φα+β)を示せ。
- (2) 向き K(x,y) を求めよ。
- (3) 無限小変換で x2−y2 の1次の変化が 0 であることを示し、有限の Φα でも x2−y2 が変わらないことを確かめよ。
解答
(1) cosh0=1, sinh0=0 なので Φ0(x,y)=(x,y)。Φβ は行列 B(β)=(coshβsinhβsinhβcoshβ) を掛ける変換で、
B(α)B(β)=(coshαcoshβ+sinhαsinhβsinhαcoshβ+coshαsinhβcoshαsinhβ+sinhαcoshβsinhαsinhβ+coshαcoshβ)=B(α+β)
が双曲線関数の加法定理から成り立つ。よって Φα∘Φβ=Φα+β。
(2) dαdcoshα0=0, dαdsinhα0=1 なので K(x,y)=(y, x)、すなわち δx=ϵy, δy=ϵx。
(3) 1次の変化は 2xδx−2yδy=2ϵ(xy−yx)=0。有限の変換では
(xcoshα+ysinhα)2−(xsinhα+ycoshα)2=(x2−y2)(cosh2α−sinh2α)=x2−y2.
回転が x2+y2 を保つのと同じ形で、この変換は x2−y2 を保つ。x を ct、y を空間座標と読めば、これは Lorentz 変換(パラメータ α は rapidity)で、保たれる量は世界間隔 c2t2−y2 にあたる(第2部第3章)。
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