解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第8章 §1.8.1 ★★★ L の速度 q˙ を正準運動量 p に取り替えた関数 H(q,p,t)=∑ipiq˙i−L を選ぶ
第1部第4章までで、運動は作用 S[q]=∫L(q,q˙,t)dt の停留として書けるようになった。停留の条件は Euler–Lagrange 方程式で、一般化座標 qi についての2階の微分方程式が f 本並ぶ。この章では同じ運動を、一般化座標 qi と正準運動量 pi=∂L/∂q˙i の 2f 個の変数で書き直す。使う関数は Lagrangian L を Legendre 変換して作る Hamiltonian H(q,p,t)=∑ipiq˙i−L で、運動方程式はq˙i=∂H/∂pi, p˙i=−∂H/∂qi という1階の方程式 2f 本になる(Hamilton 方程式)。
書き直して増えるものは3つある。1つ目は相空間で、(q,p) を座標とする 2f 次元の空間の各点から軌道が1本ずつ出ていき、自由度1の系なら運動の全体を平面上の図(相図)として見渡すことができる。2つ目は保存量の読み方で、H が時刻を含まなければ H が保存し、H がある座標 qk を含まなければ pk が保存して、問題の自由度が1つ減る。3つ目は流れの性質で、Hamilton 方程式の流れは相空間の面積(一般には 2f 次元の体積)を変えない。この性質は第3部の統計力学(Liouville の定理)の出発点になり、数値計算では長時間の積分の方法を選ぶ基準になる。最後に、Newton の運動方程式を1階の連立方程式に直す授業での書き方と、この章の形を並べる。
正準運動量と Hamiltonian
自由度 f の系の Lagrangian L(q,q˙,t) が与えられているとする。第1部第7章の式 (1.7.8) で作った正準運動量を、各 i について
pi=∂q˙i∂L(q,q˙,t)(i=1,…,f)(1.8.1)
と書く(qi に共役な正準運動量)。直交座標の粒子 L=21mx˙2−V(x) では p=mx˙ で、Newton 力学の運動量と同じものになる。極座標の角度 θ に共役な pθ は角運動量になり(下の例題)、電磁場の中の荷電粒子では p は mx˙ と一致しない(第2部第2章)。正準運動量は「L を速度で偏微分したもの」として定義される量で、速度に質量を掛けたものとは限らない。
式 (1.8.1) は (q,q˙,t) から p への対応を与える。q と t を止めたとき、この対応が q˙ について解けてq˙i=q˙i(q,p,t) と書けることを仮定する。十分条件は、f×f 行列 ∂2L/∂q˙i∂q˙j が正則(行列式が 0 でない)であることで、運動エネルギーが速度の正定値2次式である普通の力学系はこれを満たす。この条件を満たす L を正則な Lagrangian と呼ぶ。
定義 1.8.1(相空間(Hamiltonian は第7章のもの))
正則な Lagrangian L(q,q˙,t) に対して、第1部第7章の式 (1.7.9) で作った Hamiltonian を f 自由度で書くと
H(q,p,t)=i=1∑fpiq˙i(q,p,t)−L(q,q˙(q,p,t),t)(1.8.2)
である。右辺の q˙ はすべて (q,p,t) の関数として書き換えてから代入する。(q1,…,qf,p1,…,pf) を座標とする 2f 次元の空間を相空間と呼び、その点を (q,p) と書く。
H は L の速度の変数についての Legendre 変換である(第1部第7章)。第1部第7章で示したとおり、Legendre 変換は関数を「接線の傾き p と切片」で表し直す操作で、L が q˙ について凸なら情報を失わずに逆に戻すことができる。この章では、第7章の取り替えない変数の規則(式 (1.7.10))を f 自由度で使う。変換した変数については ∂H/∂pi=q˙i、変換に加わらない変数(q と t)については ∂H/∂qi=−∂L/∂qi と ∂H/∂t=−∂L/∂t が成り立つ。
例:1次元の粒子と調和振動子
L=21mq˙2−V(q) のとき、p=mq˙ を q˙=p/m と解いて式 (1.8.2) に入れると
H=p⋅mp−[21m(mp)2−V(q)]=2mp2+V(q)(1.8.3)
となる。この場合の H は運動エネルギーとポテンシャルの和で、力学的エネルギーと同じ値をとる。ただし H は速度でなく運動量の関数として書かれている。調和振動子 V=21mω2q2 では H=p2/(2m)+21mω2q2 で、q と p を対等に含む。
H がいつでも力学的エネルギーに等しいわけではない。H=T+V が成り立つ条件と、成り立たないのに H が保存する例は1.8.4節で扱う。
H は p の関数として書く
H の値だけを見れば、p で書いても q˙ で書いても同じ数になる。しかし1.8.2節の Hamilton 方程式は、q についての偏微分を「p を止めて」とることを要求する。q˙ で書いた式を「q˙ を止めて」偏微分すると、違う量が出る。次の例題の (3) がその例である。
例題 1.8.1 平面の極座標の Hamiltonian ★★★
オリジナル質量 m の粒子が平面内でポテンシャル V(r) の中を動く。極座標 (r,θ) で L=21m(r˙2+r2θ˙2)−V(r) である。
- (1) 正準運動量 pr, pθ を求め、pθ が原点のまわりの角運動量であることを確かめよ。
- (2) Hamiltonian H(r,θ,pr,pθ) を求めよ。
- (3) H の値を速度で書いた式 Ev(r,r˙,θ˙)=21m(r˙2+r2θ˙2)+V(r) について、「r˙,θ˙ を止めた r 偏微分」と「pr,pθ を止めた r 偏微分 ∂H/∂r」を比べよ。
解答
(1) pr=∂L/∂r˙=mr˙、pθ=∂L/∂θ˙=mr2θ˙。直交座標の位置 r=(rcosθ,rsinθ) と速度から角運動量の z 成分を計算するとm(xy˙−yx˙)=mrcosθ(r˙sinθ+rθ˙cosθ)−mrsinθ(r˙cosθ−rθ˙sinθ)=mr2θ˙ で、pθ と一致する。
(2) r˙=pr/m, θ˙=pθ/(mr2) を式 (1.8.2) に入れると、∑pq˙=pr2/m+pθ2/(mr2) とL=pr2/(2m)+pθ2/(2mr2)−V(r) の差から
H=2mpr2+2mr2pθ2+V(r).
(3) 速度を止めると ∂Ev/∂r=mrθ˙2+V′(r)。運動量を止めると
∂r∂H=−mr3pθ2+V′(r)=−mrθ˙2+V′(r).
第1項の符号が逆になる。pθ を止めて r を大きくすると θ˙=pθ/(mr2) が小さくなり、回転の運動エネルギー pθ2/(2mr2) が減るためである。Hamilton 方程式で使う正しい方は後者で、p˙r=−∂H/∂r=mrθ˙2−V′(r) の第1項が遠心力になる。前者を使うと遠心力の向きが逆になる。
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