解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第7章 §1.7.4 ★★★ H(q,p,t)=supq˙[pq˙−L]。q と t は取り替えない変数で、偏微分は符号を変えて引き継がれる
取り替える変数と取り替えない変数
Lagrangian L(q,q˙,t) は3種類の変数を持つが、取り替えたいのは速度 q˙ だけである。q と t を止めると、L は q˙ の1変数関数になる。それに1.7.2節の Legendre 変換を当てる。q˙ についての傾きを
p:=∂q˙∂L(q,q˙,t)(1.7.8)
と書き、正準運動量と呼ぶ。q と t を止めた上での Legendre 変換が
H(q,p,t):=q˙sup[pq˙−L(q,q˙,t)]=pq˙(q,p,t)−L(q,q˙(q,p,t),t)(1.7.9)
で、これを Hamiltonian と呼ぶ。2つ目の等号は、L が q˙ について狭義に下に凸(∂2L/∂q˙2>0)で、式 (1.7.8) を q˙ について解けるときの形である。変換の間じゅう q と t は止めた数として運ばれるだけなので、これらを取り替えない変数と呼ぶことにする。
最も基本的な L=21mq˙2−V(q) では、∂2L/∂q˙2=m>0、p=mq˙、q˙=p/m なので
H=p⋅mp−[21m(mp)2−V(q)]=2mp2+V(q)
となる。V(q) は q˙ を含まないので、Legendre 変換の中では定数として扱われ、符号を変えて H に移る。1.7.1節の言葉で言えば、−V(q) は L のグラフを上下にずらすだけで、切片が V(q) だけ変わる。
取り替えない変数の偏微分
命題 1.7.4(取り替えない変数の規則)
L が q˙ について狭義に下に凸なとき、式 (1.7.9) の H は
∂p∂H=q˙,∂q∂Hp,t=−∂q∂Lq˙,t,∂t∂Hq,p=−∂t∂Lq,q˙(1.7.10)
を満たす。
証明
1つ目は定理 1.7.2 の (f∗)′(p)=x(p) そのものである。2つ目は、H=pq˙(q,p,t)−L(q,q˙(q,p,t),t) を p,t を止めて q で微分すると
∂q∂H=p∂q∂q˙−∂q∂L−∂q˙∂L∂q∂q˙=(p−∂q˙∂L)∂q∂q˙−∂q∂L=−∂q∂L
で、括弧は式 (1.7.8) で 0 になる。3つ目も同じ計算である。
括弧が消える理由は、定理 1.7.2 の証明と同じで、q˙(q,p,t) が pq˙−L の最大点だからである。q を動かすと最大点 q˙ も動くが、最大点での1次の変化は 0 なので、H の変化は L の中に q が直接入っている分だけで決まる。この規則は、Legendre 変換で取り替えない変数の偏微分が、符号を変えてそのまま引き継がれることを言っている。
規則 (1.7.10) と Euler–Lagrange 方程式 dtd∂q˙∂L=∂q∂L(第1部第4章)を組み合わせると、左辺は p˙、右辺は −∂H/∂q なので
q˙=∂p∂H,p˙=−∂q∂H(1.7.11)
を得る。1つ目は Legendre 変換の性質から、2つ目は運動方程式から出る。これが Hamilton 方程式で、2階の微分方程式1本を、q と p についての1階の微分方程式2本に書き直したものである。(q,p) を座標とする平面(相空間)での意味は第1部第8章で扱う。
多自由度と正則性の条件
自由度が f のときは、q=(q1,…,qf) を止めて q˙=(q˙1,…,q˙f) の f 変数関数として Legendre 変換する。
pi=∂q˙i∂L,H(q,p,t)=q˙sup[i=1∑fpiq˙i−L].(1.7.12)
1変数での条件 ∂2L/∂q˙2>0 にあたるのは、行列 Wij=∂2L/∂q˙i∂q˙j が正定値であることである。このとき pi=∂L/∂q˙i は q˙ について解け、定理 1.7.2 と規則 (1.7.10) は添字を付けた形でそのまま成り立つ。たとえば平面の極座標で L=21m(r˙2+r2φ˙2)−V(r) なら W=diag(m,mr2) で、r>0 で正定値である。pr=mr˙、pφ=mr2φ˙ を解いて代入すると
H=2mpr2+2mr2pφ2+V(r)
となる。pφ は角運動量で、pφ=mr2φ˙ を mrφ˙(速度の大きさ)と取り違えないよう、正準運動量は必ず式 (1.7.12) で定義から計算する。
W が退化すると Legendre 変換ができない
detW=0 だと、pi=∂L/∂q˙i を q˙ について解けない。極端な例は L が q˙ の1次式 L=b(q)q˙−V(q) の場合で、p=b(q) となり、p は q˙ によらず q で決まってしまう。pq˙−L の上限は p=b(q) では +∞、p=b(q) では V(q) になり、H は相空間の一部(曲線 p=b(q) の上)でしか有限にならない。このような「p と q の間の拘束」は、電磁場の Lagrangian でスカラーポテンシャルの時間微分が現れないことなどに見られる(第2部第8章)。この章では W が正定値の場合だけを扱う。
例題 1.7.4 速度の1次の項は運動量を変えるがエネルギーを変えない ★★★
オリジナル1自由度の L=21mq˙2+b(q)q˙−V(q)(b(q) は与えられた関数)を考える。
- (1) 正準運動量 p と Hamiltonian H(q,p) を求めよ。
- (2) H の値を q と q˙ で書き直し、b(q) が消えることを示せ。
- (3) 規則 (1.7.10) を確かめよ。
解答
(1) p=∂L/∂q˙=mq˙+b(q)。∂2L/∂q˙2=m>0 なので解けて q˙=(p−b(q))/m。代入すると
H=pmp−b−21m(mp−b)2−bmp−b+V(q)=2m(p−b(q))2+V(q).
(p(p−b)/m−b(p−b)/m=(p−b)2/m を使った。)
(2) p−b=mq˙ を入れると H=21mq˙2+V(q) で、b(q) を含まない。q˙ の1次の項 bq˙ は、q˙ の関数としての L のグラフに原点を通る直線を足すだけなので、接線の傾きは b だけ増え、接点の高さは bq˙ だけ増え、切片 L−pq˙ は変わらない。運動量は p=mq˙ に変わるが、エネルギーの値は変わらない。荷電粒子の qv⋅A の項がこの形の代表で、p=mv+qA になる(第2部第2章)。
(3) ∂H/∂p=(p−b)/m=q˙。∂H/∂q=−(p−b)b′(q)/m+V′(q)=−b′(q)q˙+V′(q)。一方 ∂L/∂q(q˙ を止める)=b′(q)q˙−V′(q) なので、∂H/∂q=−∂L/∂q が成り立つ。
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