解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第7章 §1.7.2 ★★★ f∗(p)=supx[px−f(x)]。導関数どうしが逆関数になり、2階導関数どうしは逆数になる
最大値による定義
図 1.7.1 の右のように、原点を通る直線 px とグラフ f(x) の縦の差 px−f(x) を考える。x の関数として微分すると p−f′(x) で、f が下に凸なら f′ は増加するので、差は f′(x)=p となる接点 x0 まで増え、そこから先は減る。したがって差の最大値は接点でとられ、その値は式 (1.7.2) の f∗(p) に一致する。この「最大値」の形を定義に採ると、接点を探す手間を定義に含めることができ、微分できない関数や凸でない関数にもそのまま使うことができる。
定義 1.7.1(Legendre 変換)
区間 I 上の関数 f(x) に対して
f∗(p):=x∈Isup[px−f(x)](1.7.3)
を f の Legendre 変換と呼ぶ(上限が有限になる p だけを f∗ の定義域とする)。凸解析では、この最大値の形を Legendre–Fenchel 変換と呼んで区別することもあるが、この本では両方を Legendre 変換と呼ぶ。
f が2回微分できて f′′(x)>0(狭義に下に凸)なら、f′ は狭義に増加するので、各 p(f′ の値域の中)に対して f′(x)=p の解 x(p) がただ1つあり、
f∗(p)=px(p)−f(x(p)),f′(x(p))=p(1.7.4)
となる。物理で使う Legendre 変換は、ほとんどがこの形である。
導関数は逆関数どうし
定理 1.7.2(導関数の入れ替え)
f′′>0 のとき、f∗ は f′ の値域の上で2回微分でき、
(f∗)′(p)=x(p),(f∗)′′(p)=f′′(x(p))1>0.(1.7.5)
すなわち f′ と (f∗)′ は互いの逆関数で、f∗ もまた狭義に下に凸である。
証明
式 (1.7.4) を p で微分すると、連鎖律から
(f∗)′(p)=x(p)+px′(p)−f′(x(p))x′(p)=x(p)+[p−f′(x(p))]x′(p)=x(p).
角括弧は x(p) の定義で 0 になる。x(p) の動き x′(p) が結果に入らないことが、この計算の中心である。さらに f′(x(p))=p を p で微分すると f′′(x(p))x′(p)=1 なので、(f∗)′′(p)=x′(p)=1/f′′(x(p))。
角括弧が消えた理由は、x(p) が px−f(x) の最大点だからである。最大点では x についての微分が 0 なので、p を動かしたときに最大点が動いても、その動きは1次では値を変えない。この事実は、後で L や U に取り替えない変数が入ったときにも同じ形で使う(1.7.4節の式 (1.7.10))。
式 (1.7.5) は、2つの関数の関係を対称な形にする。f の側では「x を入れると傾き p=f′(x) が出る」、f∗ の側では「p を入れると傾き x=(f∗)′(p) が出る」。x と p は互いに相手の関数の傾きになっていて、変換の前後で役を交換する。2階導関数が逆数どうしになることは、図で言えば「f のグラフが急に曲がる所では、傾き p を少し変えても接点 x はあまり動かない」ということである。
Young の不等式
定義 (1.7.3) から、任意の x と p について f∗(p)≥px−f(x)、すなわち
f(x)+f∗(p) ≥ px(1.7.6)
が成り立つ。これを Young の不等式(Fenchel–Young の不等式)と呼ぶ。f′′>0 なら、等号は p=f′(x)(x と p が互いの傾き)のときだけ成り立つ。f(x)=21x2 では f∗=21p2 で、不等式は 21x2+21p2≥px、すなわち 21(x−p)2≥0 になる。この不等式は、Legendre 変換の対が「x と p の積 px を上から押さえる2つの関数の組」であることを示している。解析力学では L+H≥pq˙、熱力学では U−F≥TS という形で現れる(1.7.5節)。
例題 1.7.2 指数関数の Legendre 変換と定義域 ★★
オリジナルf(x)=ex(x∈R)について次に答えよ。
- (1) p>0 について f∗(p) を求めよ。
- (2) p=0 と p<0 で上限 (1.7.3) がどうなるか調べ、f∗ の定義域を答えよ。
- (3) 式 (1.7.5) の2つの関係を確かめよ。
解答
(1) f′(x)=ex=p から x(p)=lnp。式 (1.7.4) より
f∗(p)=plnp−elnp=plnp−p(p>0).
(2) p=0 では supx(−ex)=0(x→−∞ で近づくが、とられない)なので f∗(0)=0。これは p→+0 での plnp−p→0 と一致する。p<0 では x→−∞ で px→+∞、ex→0 なので上限は +∞。よって f∗ の定義域は p≥0 である。f′(x)=ex の値域が (0,∞) なので、正の傾きの接線しか引けないことに対応する。
(3) (f∗)′(p)=lnp+1−1=lnp=x(p) で、f′(x)=ex の逆関数になっている。(f∗)′′(p)=1/p で、f′′(x(p))=elnp=p の逆数である。(plnp−p は統計力学のエントロピーの式によく出る形で、ex との Legendre 変換の対は第3部第4章でもう一度現れる。)
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