解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第2章 §2.2.1 ★★★ L=21mr˙2−qϕ+qr˙⋅A。速度による力は、速度を含む一般化ポテンシャル U=qϕ−qr˙⋅A から出す
第1部では、粒子の力学で選ぶ Lagrangian を L=T−V とし、ポテンシャル V は位置だけの関数とした(第1部第5章)。位置だけの関数 V の勾配から出る力は速度によらない。ところが磁場の中の荷電粒子に働く力 qv×B は速度に比例し、向きも速度で決まる。この章では、このような力を出す Lagrangian として
L=21mr˙2−qϕ(r,t)+qr˙⋅A(r,t)
を選ぶ。ϕ はスカラーポテンシャル、A はベクトルポテンシャルで、どちらも外から決めた場として与える。この章では電荷を q と書き、粒子の位置は直交座標 r=(x,y,z) か平面の極座標 (r,θ) で表す。一般化座標の記号 qi は電荷と紛れるので使わない。
この L に第1部の道具を当てると、次の4つが出てくる。1つ目は運動方程式で、Euler–Lagrange 方程式は Lorentz 力の式 mr¨=q(E+r˙×B) になり、電場と磁場は E=−∇ϕ−∂A/∂t, B=∇×A という組み合わせで現れる。2つ目は正準運動量で、p=mr˙+qA は mr˙ と一致しない。Hamiltonian は H=(p−qA)2/(2m)+qϕ になる。3つ目はゲージの自由度で、ϕ と A を E と B を変えずに取り替えると L は全微分だけ変わり、運動は同じで正準運動量の値だけが変わる。4つ目は一様な磁場の中の円運動と、電場を加えたときのドリフトで、どちらも Hamiltonian を1次元の調和振動子に帰着させて解くことができる。最後に、Lorentz 力を出発点に置く電磁気学の授業の書き方と、この章の形を並べる。
位置だけのポテンシャルでは足りない理由
L=T−V(r,t) の Euler–Lagrange 方程式は mr¨=−∇V で、右辺は位置と時刻だけで決まる。一方、一様な磁場 B の中を速度 v で動く電荷 q には、実験で確かめられた力 qv×B が働く。この力は同じ場所でも速度を変えると向きと大きさが変わるので、どんな V(r,t) の勾配としても書くことができない。したがって、L に速度を含む項を入れる必要がある。
一般化ポテンシャル
L=T−U の U が速度を含んでよいとする。運動エネルギー T の部分を左辺に、U の部分を右辺に分けて Euler–Lagrange 方程式を書くと、次の形になる。
定義 2.2.1(一般化ポテンシャル)
座標 xi(i=1,…,f)、速度 x˙i、時刻 t の関数 U(x,x˙,t) について、
Qi:=dtd∂x˙i∂U−∂xi∂U(2.2.1)
を U から出る一般化力と呼び、U をその力の一般化ポテンシャルと呼ぶ。L=T−U の Euler–Lagrange 方程式はdtd∂x˙i∂T−∂xi∂T=Qi である。
U が速度によらなければ第1項が消え、Qi=−∂U/∂xi という普通の保存力に戻る。U が速度の1次の項を持つと、第1項の時間微分は加速度でなく速度と位置の変化を含むので、速度に比例する力が出てくる。ここでは座標を xi と書いたが、これは一般化座標の一般論で、電荷を含まない式である。
荷電粒子の L
この章で選ぶ Lagrangian は
L(r,r˙,t)=21mr˙2−qϕ(r,t)+qr˙⋅A(r,t)(2.2.2)
で、一般化ポテンシャルは U=qϕ−qr˙⋅A である。速度の1次の項 qr˙⋅A が、速度による力を出す項になる。次の節で、この L の Euler–Lagrange 方程式が
E:=−∇ϕ−∂t∂A,B:=∇×A(2.2.3)
を電場と磁場とする Lorentz 力の式になることを示す。
ϕ と A は時刻と位置の与えられた関数で、粒子が動いても変わらないものとする。粒子自身が作る場とその場から粒子が受ける力(放射の反作用)は、この章では入れない(2.2.5節の札)。場そのものも動く変数にする Lagrangian は第2部第6章で選ぶ。
式 (2.2.2) の相互作用の項は、相対論の作用 −q∫Aμdxμ を時間で書いたものと一致する。4元ポテンシャル Aμ=(ϕ/c,A) の下付き成分は Aμ=(ϕ/c,−A)、dxμ=(cdt,r˙dt) なので、
−q∫Aμdxμ=−q∫(cϕc−A⋅r˙)dt=∫(−qϕ+qr˙⋅A)dt(2.2.4)
となる。この形が Lorentz 変換で不変になることから、速度の項の係数と符号は ϕ の項と1組で決まる。自由粒子の部分 21mr˙2 を −mc21−r˙2/c2 に戻した相対論の形は第2部第3章で扱い、この章では速さが光速より十分小さい場合だけを考える。
一様な磁場
B=Bez(B は定数)は、たとえば A=21B×r=2B(−y,x,0) で表せる。∇×A=2B(0,0,1+1)=Bez である。このとき式 (2.2.2) は
L=21m(x˙2+y˙2+z˙2)+2qB(xy˙−yx˙)(ϕ=0)
となる。相互作用の項は角運動量の z 成分 m(xy˙−yx˙) に qB/(2m) を掛けた形をしている。
例題 2.2.1 速度の1次の一般化ポテンシャルから出る力 ★★★
オリジナル座標 xi(i=1,…,f)の系に、速度について1次の一般化ポテンシャル
U(x,x˙,t)=U0(x,t)−j=1∑faj(x,t)x˙j
が働くとする(U0, aj は滑らかな関数)。
- (1) 一般化力 (2.2.1) がQi=−∂xi∂U0−∂t∂ai+∑jbijx˙j, bij:=∂xi∂aj−∂xj∂ai になることを示せ。
- (2) 速度に比例する部分 ∑jbijx˙j の仕事率 ∑i(∑jbijx˙j)x˙i が 0 であることを示せ。
- (3) 速度に比例する摩擦力 Qi=−γx˙i(γ>0)は、この形の U からは出せないことを示せ。
解答
(1) ∂U/∂x˙i=−ai(x,t) を時間で微分すると、ai は x と t を通して変わるので
dtd∂x˙i∂U=−j∑∂xj∂aix˙j−∂t∂ai.
また ∂U/∂xi=∂U0/∂xi−∑j(∂aj/∂xi)x˙j。差を取ると
Qi=−∂xi∂U0−∂t∂ai+j∑(∂xi∂aj−∂xj∂ai)x˙j.
(2) bij=−bji(反対称)なので、∑i,jbijx˙ix˙j の i,j を入れ替えた和はもとの和の −1 倍で、もとの和に等しい。よって和は 0 である。速度に比例する部分の力は、いつも速度に直交していて仕事をしない。
(3) −γx˙i を ∑jbijx˙j の形に書くには bij=−γδij が要るが、これは対称で反対称でない。仕事率で見ても、摩擦の仕事率は −γ∑ix˙i2<0 で、(2) の結果と両立しない。(−∂ai/∂t の項は速度によらないので、摩擦を表すこともできない。)
3次元で xi を直交座標、aj=qAj, U0=qϕ とすると、bij は q(∂iAj−∂jAi) で、b12=qBz のように磁場の成分になる。(2) は磁場が仕事をしないこと、(3) は抵抗のある運動が作用の停留だけでは書けないことに当たる。
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