解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第2章 §2.2.5 ★★ Landau ゲージでは保存する px を止めると1次元の調和振動子になる。円運動の角振動数 qB/m と、電場に直交する一定のドリフト速度 E/B が出る
Hamiltonian を1次元の問題に帰着させる
一様な磁場 B=Bez と、それに直交する一様な電場 E=Eey があるとする(q>0, B>0)。ポテンシャルを ϕ=−Ey, A=(−By,0,0) に選ぶ。∇×A=(0,0,−∂y(−By))=Bez で、−∇ϕ=Eey である。この A は前の節の AL と x, y の役を入れ替えた Landau ゲージで、Hamiltonian (2.2.11) は
H=2m(px+qBy)2+2mpy2+2mpz2−qEy(2.2.19)
となる。H は x と z を含まないので、px と pz が保存する。px を定数として止めると、y の運動だけが残る。ωc=qB/m とおいて y の部分を平方完成すると
Hy=2mpy2+21mωc2(y−yc)2+定数,yc=−qBpx+qB2mE(2.2.20)
で、角振動数 ωc、中心 yc の調和振動子になる。磁場だけ(E=0)なら、y は角振動数 ωc で振動する。x の速度 x˙=∂H/∂px=(px+qBy)/m=ωc(y−yc) も同じ角振動数で振動し、2つを合わせると例題 2.2.2 の円運動になる。この ωc をサイクロトロン角振動数と呼ぶ。円の半径 ρ=v⊥/ωc=mv⊥/(qB)(v⊥ は磁場に垂直な速さ)はLarmor 半径と呼ばれる。ωc は速さによらないので、速い粒子は大きな円を、遅い粒子は小さな円を、同じ周期 2π/ωc で回る。
E×B ドリフト
電場があると x 方向の速度は
x˙=ωc(y−yc)+ωc(yc+qBpx)=ωc(y−yc)+BE(2.2.21)
となる。第1項は振動して時間平均が 0、第2項は一定である。円運動の中心は x 方向に一定の速さ E/B で動く。向きを込めると vd=E×B/B2=Eey×Bez/B2=(E/B)ex で、電場にも磁場にも直交する。これを E×B ドリフトと呼ぶ。vd は q と m を含まないので、電荷の符号や質量によらず、すべての粒子が同じ向きに同じ速さで流れる。
ωct を時間の単位、E/(Bωc) を長さの単位にとると、原点で静止していた粒子の軌道はx=ωct−sinωct, y=1−cosωct(サイクロイド)になる(図 2.2.2)。最初に電場で +y へ加速された粒子が磁場で曲げられ、電場に逆らって y=0 まで戻り、そこで止まる。これを繰り返しながら x 方向へ進む。

図 2.2.2 磁場 Bez(紙面の手前向き)と電場 Eey の中の正電荷の軌道(0≤ωct≤4π、長さの単位 ℓ=E/(Bωc))。点線は運動方程式の厳密な解、実線は円運動を平均して中心だけを追った運動(中心は x 方向に速さ E/B で進む)。どちらの軌道も中心は同じ速さで進み、初速度は円の半径と中心の高さだけを変える
外から決めた場という近似
この章の L では、ϕ と A は粒子の運動によらない与えられた関数であった。実際には加速度を持つ電荷は電磁波を放射してエネルギーを失う。非相対論的な電荷の放射の仕事率は Larmor の式 P=q2∣r¨∣2/(6πε0c3) で、円運動では ∣r¨∣=ωcv⊥ なので、運動エネルギー 21mv⊥2 が減る割合は
21mv⊥2P=2τradωc2,τrad:=6πε0mc3q2(2.2.22)
になる。電子では τrad=6.27×10−24s で、B=1T では ωcτrad=1.10×10−12 である。エネルギーが 1/e に減る時間 1/(2τradωc2) は 2.58s で、1周の時間 3.57×10−11s の約 7×1010 倍である。円運動を何周も計算する間は、放射の反作用を無視して外から決めた場の中の運動として扱ってよい。放射の反作用を入れた運動方程式は3階の微分方程式になり、小さいパラメータ ωcτrad が最高階の微分に掛かる特異摂動の形をとる。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ωcτrad→0(放射の反作用の時間が運動の時間に比べて短い) | 証明 要確認(反作用を入れた方程式から外場中の運動への極限の前提を原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第7章
例題 2.2.5 1 T の磁場の中の電子と陽子 ★★
オリジナルB=1.00T の一様な磁場がある。電気素量 e=1.602×10−19C、電子の質量 me=9.109×10−31kg、陽子の質量 mp=1.673×10−27kg とする。
- (1) 電子と陽子のサイクロトロン周波数 fc=ωc/(2π) を求めよ。
- (2) 磁場に垂直な運動エネルギーが 1.00keV の電子の速さ v⊥ と Larmor 半径 ρ を求め、v⊥/c が十分小さいことを確かめよ。
- (3) さらに磁場に垂直な電場 E=1.00×104Vm−1 を加えたときのドリフトの速さを求めよ。
解答
(1) 電子では ωc=eB/me=1.759×1011rads−1、fc=28.0GHz。陽子では ωc=9.58×107rads−1、fc=15.2MHz。質量の比 1836 だけ陽子の方が遅い。
(2) 21mev⊥2=1.00×103×1.602×10−19J から v⊥=1.88×107ms−1、v⊥/c=0.0626。相対論の補正は (v/c)2≈4×10−3 の大きさで、この章の非相対論の L で扱ってよい。ρ=mev⊥/(eB)=v⊥/ωc=1.07×10−4m=0.107mm。
(3) vd=E/B=1.00×104ms−1。電子でも陽子でも同じで、v⊥ の約 1/1900 である。ドリフトの速さが光速に近づく E∼cB=3×108Vm−1 では、相対論の L(第2部第3章)が要る。
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