解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第5章 §1.5.1 ★★★ N 個の質点の L=∑a21mar˙a2−V を書き、自由落下で作用の値と中身を手で計算する
前の2章では、作用 S[q]=∫Ldt の L を「与えられた関数」とだけ考え、停留の条件が Euler–Lagrange 方程式になることを数学として示した。この章で初めて L に物理を入れる。粒子の力学で選ぶのは
L=T−V(運動エネルギー引くポテンシャル)
で、この1行は第2部以降のすべての章の出発点になる。ただ、多くの教科書はこの式を天下りに与えるので、「なぜ足し算でなく引き算なのか」「なぜ運動エネルギーは速度の2乗なのか」「なぜ作用を最小にするのか」が分からないまま先へ進むことになる。この章ではこの3つの問いを別々に扱う。
答えを先に書くと、3つの問いの根拠はそれぞれ違う。運動エネルギーの形 21mv2 は、空間と時間の一様性・空間の等方性・Galilei 変換で物理が変わらないこと、という対称性の要請からほぼ一意に決まる。−V の符号と形は対称性からは出ず、Euler–Lagrange 方程式が Newton の運動方程式 mr¨=−∇V と一致するように選んだものである。最後に、作用の停留という原理そのものは古典力学の中では説明されず、量子力学の経路積分で eiS/ℏ の位相がそろう条件として現れる。このとき実際に要るのは停留であって最小ではないことも、調和振動子で確かめる。道具としては、Euler–Lagrange 方程式が座標の取り替えで形を変えないこと、L に定数を掛けたり時間の全微分を足したりしても運動方程式が変わらないこと、の2つを示して使う。
選ぶ L
質量 ma の質点が N 個あり(a=1,…,N)、位置を ra とする。力がポテンシャル V(r1,…,rN,t) から −∇aV として出る場合を考える。
定義 1.5.1(粒子の力学の Lagrangian)
L=T−V,T=a=1∑N21ma∣r˙a∣2,V=V(r1,…,rN,t)(1.5.1)
を粒子の力学の Lagrangian とする。作用は S[q]=∫t1t2Ldt である。
T は速度だけの関数、V は位置(と時刻)だけの関数である。直交座標の成分 (x1,y1,z1,…,xN,yN,zN) を一般化座標 q1,…,qf(f=3N)とすれば、第1部第4章の Euler–Lagrange 方程式
δqi(t)δS=∂qi∂L−dtd∂q˙i∂L=0(i=1,…,f)(1.5.2)
がそのまま当てはまる。∂L/∂x˙a=max˙a、∂L/∂xa=−∂V/∂xa なので、式 (1.5.2) は
mar¨a=−∇aV(a=1,…,N)(1.5.3)
となる。これが Newton の運動方程式で、式 (1.5.1) の L は、停留させると Newton の運動方程式が出るように選んだものになっている。ただしこの確認だけでは「同じ方程式を出す L はほかに無いのか」「なぜ T と V の差なのか」には答えていない。それを1.5.3節と1.5.4節で調べる。
作用の値は何を測っているか
T−V の意味を、いちばん簡単な例で見ておく。鉛直上向きを z とし、一様な重力 V=mgz の中の質点を考える。L=21mz˙2−mgz から z¨=−g が出る。時刻 0 に z=0 から投げ上げ、時刻 T にふたたび z=0 に戻る経路は
zcl(t)=2gt(T−t)(1.5.4)
で(添字 cl は古典的な経路の意)、最高点の高さは gT2/8 である。同じ投げ上げは第1部第1章の例題 1.1.1 で、真の経路をずらしても作用が1次で変わらないこと(停留)を見るのに使い、下の作用の値 S[zcl]=−mg2T3/24 もそこで出ている。ここでは同じ経路で T と V の兼ね合いを見る。この経路で運動エネルギーと位置エネルギーの時間平均を取ると
⟨T⟩=24mg2T2,⟨V⟩=12mg2T2,S[zcl]=∫0T(T−V)dt=−24mg2T3
となる(この節では T が運動エネルギーと時間の長さの2つの意味で出る。時間の長さは積分の上端と、結果の式の T2, T3 にだけ現れる)。この値は 第1部第3章の例題で数学として求めた ∫(21q˙2+cq)dt の停留値 −c2/24 と同じ形で、c=g、m=1、T=1 とおけば一致する。
作用 S=∫(T−V)dt が小さくなるのは、V が大きい所(高い所)に長くいて、しかも T が小さい(ゆっくり動く)経路である。ところが、決まった時間 T のうちに高い所まで行って戻ってくるには速く動く必要があり、T が大きくなる。真の経路 (1.5.4) は、高く上がることと速く動かないことの兼ね合いで決まっている。次の例題でこれを数で確かめる。
例題 1.5.1 放物線の族で作用を比べる ★★★
オリジナル質量 m の質点が一様な重力の中で、時刻 0 と時刻 T に高さ 0 にある。高さ A をパラメータとする経路の族
zA(t)=T24At(T−t)(中点 t=T/2 で高さ A)
を考える。
- (1) 作用 S(A)=∫0T(21mz˙A2−mgzA)dt を A の関数として求めよ。
- (2) S(A) を最小にする A と、そのときの S を求め、真の経路 (1.5.4) と比べよ。
- (3) m=0.1kg、g=9.81ms−2、T=2s で、(2) の A と S の値を求めよ。
解答
(1) z˙A=4A(T−2t)/T2 なので
∫0Tz˙A2dt=T416A2∫0T(T−2t)2dt=T416A2⋅3T3=3T16A2,∫0TzAdt=T24A⋅6T3=32AT.
よって
S(A)=3T8mA2−32mgAT.
第1項(運動エネルギーの寄与)は A の2乗で増え、第2項(位置エネルギーの寄与、符号は負)は A に比例して減る。
(2) dAdS=3T16mA−32mgT=0 から A=8gT2。このとき
S=3T8m⋅64g2T4−32mgT⋅8gT2=24mg2T3−12mg2T3=−24mg2T3.
A=gT2/8 は真の経路の最高点の高さで、zA はこのとき式 (1.5.4) と一致する。族が真の経路を含んでいるので、族の中の最小は真の作用と同じ値になる。
(3) A=9.81×4/8=4.905m、S=−0.1×9.812×8/24=−3.21Js。A をこれより大きくすると運動エネルギーの増え方が、小さくすると位置エネルギーの減り方の不足が上回り、どちらでも S は大きくなる(図 1.5.1)。

図 1.5.1 一様な重力の中で端を z(0)=z(T)=0 に固定した経路の族の作用(m=0.1kg、T=2s)。点線の放物線の族は真の経路を含むので、最小値 −3.21Js(黒丸)が真の作用である。実線の正弦の族は真の経路を含まない近似で、最小値 −3.16Js は真の値より上にある
図 1.5.1 の実線は、経路を Asin(πt/T) の形に限って最小を探したもので、最小は A=4gT2/π3、S=−4mg2T3/π4 になる。真の値との比は (4/π4)/(1/24)=96/π4≈0.986 で、近似の作用は真の作用より 1.4% だけ上にある。この L では真の経路のまわりの2次の変分が 21m∫η˙2dt≥0 なので真の経路は作用の最小点で、どんな部分空間の中で探しても、得られる最小値は真の最小値より下にならない。
近似の裏付け
型 A(射影) | 小さいもの 経路を1次元の部分空間 {Asin(πt/T)} に限る | 証明 証明済み(真の経路が作用の最小点なので、部分空間での最小値は上界。上界がどれだけ近いかは Céa の補題) | 行き先 近似の数理 第4章
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com