解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第9章 §1.9.2 ★★★ 向き K が分かれば、微分方程式 dq/dα=K(q) を解いて変換の族全体が決まる
合成の規則から出る微分方程式
前の節では1径数変換群 Φα から向き K を取り出した。逆に K から Φα を復元できることを示す。合成の規則 (1.9.2) で β=α, α=ϵ とおくと Φα+ϵ(q)=Φϵ(Φα(q)) で、右辺は点 Φα(q) に無限小変換を施したものなので
Φα+ϵ(q)=Φα(q)+ϵK(Φα(q))+O(ϵ2)
となる。両辺から Φα(q) を引いて ϵ で割り、ϵ→0 とすると
dαdΦα(q)=K(Φα(q)),Φ0(q)=q(1.9.5)
を得る。これは Q(α):=Φα(q) についての1階の常微分方程式 dQ/dα=K(Q) と初期条件 Q(0)=q で、K が滑らかなら、解は初期値ごとにただ1つに決まる(常微分方程式の解の存在と一意性)。したがって、1径数変換群は向き K だけで決まる。変換の族を調べるには、各点で1つのベクトル K(q) を調べれば足りる。
方程式 (1.9.5) の解を、パラメータ α を「時間」とみたときの流れと考えて、Φα を K の流れと呼ぶ。時間発展では α は本当の時間で、K は状態の速度である。回転では α は角度で、K=(−y,x) を解くと Q(α) は円を描く。
線形の場合:指数関数
K が座標の1次式 K(q)=Aq(A は f×f の定数行列)のとき、方程式 (1.9.5) の解は行列の指数関数で書くことができる。
Φα(q)=eαAq,eαA:=n=0∑∞n!αnAn=N→∞lim(1+NαA)N.(1.9.6)
右の極限の形は、角 α を N 等分し、1回あたり ϵ=α/N の無限小変換 q→q+ϵAq を N 回重ねることを表す。回転では A=(01−10) で、A2=−1(−1 は単位行列の −1 倍)なので、級数を偶数次と奇数次に分けて
eαA=(1−2!α2+4!α4−⋯)+A(α−3!α3+⋯)=cosα+Asinα=(cosαsinα−sinαcosα)(1.9.7)
となり、回転行列 (1.9.1) が戻る。
N 回重ねる形を有限の N で止めると何が起こるかを、図 1.9.1 で見る。点 (1,0) を角 π/2 だけ回すのに、q→q+ϵAq(ϵ=π/(2N))を N 回施す。1回ごとに半径は 1+ϵ2 倍になるので、N 回後の半径は (1+ϵ2)N/2 である。N=4 で 1.332、N=12 で 1.107、N=100 で 1.0124 になり、N→∞ で 1 に近づく。N が大きいとき (1+ϵ2)N/2=exp(2Nln(1+ϵ2))≈1+2Nϵ2=1+2Nα2 で、半径の誤差は α2/(2N) のように 1/N で減る(N=100 で 0.0123)。1回あたりの誤差が ϵ2 の大きさで、それを N=α/ϵ 回重ねても全体の誤差は αϵ の大きさにとどまる。無限小変換で1次の変化だけを正しく取れば有限の変換が正しく戻るのは、このためである。

図 1.9.1 無限小回転 q→q+ϵAq(ϵ=π/(2N))を N 回重ねた折れ線(実線、近似)と、正確な回転が描く円弧(点線)。各段で接線の向き K=(−y,x) に進むので半径が少しずつ外へずれるが、そのずれは N→∞ で α2/(2N)→0 のように消える
関数の変化:Taylor 展開の一般化
点を動かしたとき、点の上の関数 F(q) がどう変わるかも向き K で書くことができる。連鎖律と式 (1.9.5) から
dαdF(Φα(q))=i=1∑fKi∂qi∂FΦα(q)=(KF)(Φα(q)),K:=i=1∑fKi(q)∂qi∂(1.9.8)
となる。微分演算子 K は「K の向きに沿った方向微分」で、無限小変換による F の1次の変化は δF=ϵKF である。式 (1.9.8) を繰り返すと dαndnF(Φα(q))α=0=(KnF)(q) なので、α について Taylor 展開して
F(Φα(q))=n=0∑∞n!αn(KnF)(q)=(eαKF)(q)(1.9.9)
を得る(級数が収束する範囲で)。並進 K=1 では K=dxd で、式 (1.9.9) は普通の Taylor 展開F(x+α)=∑nn!αnF(n)(x)=eαd/dxF(x) になる。Taylor 展開は「並進という変換を、その無限小変換 d/dx の指数関数で書いたもの」と読み直すことができる。この読み方は1.9.5節で量子力学の並進の演算子 e−iap^/ℏ を読むときにそのまま使う。
例題 1.9.2 向き K(x)=x2 の流れ ★★
オリジナル数直線上で向き K(x)=x2 を持つ1径数変換群 Φα を考える。
- (1) 方程式 (1.9.5) を解いて Φα(x) を求めよ。
- (2) 合成の規則 Φα∘Φβ=Φα+β を確かめよ。
- (3) 式 (1.9.9) で F(x)=x とした級数を計算し、(1) と一致することを確かめよ。
- (4) x=1 から出発した流れは α がいくつまで定義できるか。
解答
(1) dQ/dα=Q2 は変数分離で −d(1/Q)=dα、1/Q=1/x−α なので
Φα(x)=1−αxx.
(2) Φα(Φβ(x))=1−αx/(1−βx)x/(1−βx)=1−βx−αxx=Φα+β(x)。
(3) K=x2dxd を x に繰り返し当てると Kx=x2, K2x=x2⋅2x=2x3, K3x=x2⋅6x2=6x4 で、一般に Knx=n!xn+1。よって
eαKx=n=0∑∞n!αnn!xn+1=xn=0∑∞(αx)n=1−αxx(∣αx∣<1)
となり、(1) と一致する。
(4) x=1 では Φα(1)=1/(1−α) で、α→1 で発散する。流れは α<1 の範囲でしか定義されない。向き K が滑らかでも、流れがすべての α で定義できるとは限らない。回転や並進のように全部の α で定義できるのは、K の大きさが遠くで速く増えすぎない場合である。
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