解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部 第10章 §1.10.1 ★★★ 「対称性がある」を「すべての経路で δ L = 0 \delta L=0 δ L = 0 (または全微分)」と式で定義する
運動量・角運動量・エネルギーの保存は、初等力学では別々の事情から導かれる。運動量は作用反作用の法則から、角運動量は中心力ではトルクが 0 0 0 になることから、エネルギーは力がポテンシャルの勾配であることから出す。解析力学では、この3つが同じ1つの定理の3つの場合になる。その定理が Noether の定理で、「Lagrangian L L L がある連続的な変換で変わらないなら、その変換に対応する量が運動の間ずっと一定に保たれる」と述べる。空間の並進で L L L が変わらなければ運動量が、回転で変わらなければ角運動量が、時刻をずらしても変わらなければエネルギーが保存する。
この章で選ぶものは、Lagrangian L ( q , q ˙ , t ) L(q,\dot q,t) L ( q , q ˙ , t ) と、それに当てる無限小変換 δ q i = ϵ K i \delta q_i=\epsilon K_i δ q i = ϵ K i の組である。当てる道具は3つあり、Euler–Lagrange 方程式(第1部第4章 )、正準運動量 p i = ∂ L / ∂ q ˙ i p_i=\partial L/\partial\dot q_i p i = ∂ L / ∂ q ˙ i (第1部第8章 )、無限小変換の生成子(第1部第9章 )である。出てくるものは、①点変換の対称性から運動量と角運動量、②時刻をずらす変換からエネルギー、③Hamilton 形式での逆向きの主張、の3つである。③は、保存量 Q Q Q を生成子として相空間を動かすとちょうど元の変換が再現され、逆に Hamiltonian がその動きで変わらないことと Q Q Q の保存が同値になる、という主張で、章の題の「生成子が保存する」はこれを指す。最後に、初等力学での3つの保存則の導き方と、循環座標の言葉で書く教科書の書き方を、この章の定理と並べる。
無限小変換で Lagrangian がどれだけ変わるか
自由度 f f f の系の Lagrangian L ( q , q ˙ , t ) L(q,\dot q,t) L ( q , q ˙ , t ) を1つ選ぶ。一般化座標を少しだけずらす変換
q i ( t ) ⟶ q i ( t ) + ϵ K i ( q ( t ) , t ) ( i = 1 , … , f ) (1.10.1) q_i(t)\ \longrightarrow\ q_i(t)+\epsilon K_i(q(t),t)\qquad(i=1,\dots,f)\tag{1.10.1} q i ( t ) ⟶ q i ( t ) + ϵ K i ( q ( t ) , t ) ( i = 1 , … , f ) ( 1.10.1 )
を考える。ϵ \epsilon ϵ は小さい実数のパラメータで、K i ( q , t ) K_i(q,t) K i ( q , t ) はずらす向きを決める関数である。並進なら K i K_i K i は定数、平面内の回転なら ( K x , K y ) = ( − y , x ) (K_x,K_y)=(-y,x) ( K x , K y ) = ( − y , x ) になる(記法の正本と同じく、ϵ > 0 \epsilon>0 ϵ > 0 で反時計回り)。この節では K i K_i K i が座標と時刻だけによる場合(点変換 )を考え、速度にもよる場合は1.10.4 節で扱う。
変換 (1.10.1) は経路 q ( t ) q(t) q ( t ) を1本受け取って、別の経路 q ( t ) + ϵ K ( q ( t ) , t ) q(t)+\epsilon K(q(t),t) q ( t ) + ϵK ( q ( t ) , t ) を返す。第1部第3章 の言葉では、これは時刻 t t t を止めて経路をずらす変分 δ q i = ϵ K i \delta q_i=\epsilon K_i δ q i = ϵ K i で、第3章で示したとおり δ \delta δ は時刻を止めた ϵ \epsilon ϵ 微分なので δ q ˙ i = d d t δ q i \delta\dot q_i=\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t}\delta q_i δ q ˙ i = d t d δ q i が成り立つ。したがって速度の変化は
δ q ˙ i = ϵ K ˙ i , K ˙ i ≔ d d t K i ( q ( t ) , t ) = ∑ j = 1 f ∂ K i ∂ q j q ˙ j + ∂ K i ∂ t (1.10.2) \delta\dot q_i=\epsilon\dot K_i,\qquad \dot K_i\coloneqq\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t}K_i(q(t),t)=\sum_{j=1}^f\frac{\partial K_i}{\partial q_j}\dot q_j+\frac{\partial K_i}{\partial t}\tag{1.10.2} δ q ˙ i = ϵ K ˙ i , K ˙ i : = d t d K i ( q ( t ) , t ) = j = 1 ∑ f ∂ q j ∂ K i q ˙ j + ∂ t ∂ K i ( 1.10.2 )
で、K ˙ i \dot K_i K ˙ i は経路に沿った全微分である。L L L の1次の変化は連鎖律から
δ L ≔ ϵ d d ϵ L ( q + ϵ K , q ˙ + ϵ K ˙ , t ) ∣ ϵ = 0 = ϵ ∑ i = 1 f ( ∂ L ∂ q i K i + ∂ L ∂ q ˙ i K ˙ i ) (1.10.3) \delta L\coloneqq\epsilon\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} \epsilon}L\bigl(q+\epsilon K,\ \dot q+\epsilon\dot K,\ t\bigr)\Big|_{\epsilon=0}
=\epsilon\sum_{i=1}^f\Bigl(\frac{\partial L}{\partial q_i}K_i+\frac{\partial L}{\partial \dot q_i}\dot K_i\Bigr)\tag{1.10.3} δ L : = ϵ d ϵ d L ( q + ϵK , q ˙ + ϵ K ˙ , t ) ϵ = 0 = ϵ i = 1 ∑ f ( ∂ q i ∂ L K i + ∂ q ˙ i ∂ L K ˙ i ) ( 1.10.3 )
になる。δ L \delta L δ L は経路を1本決めるたびに決まる時刻 t t t の関数である。
対称性の定義
定義 1.10.1(対称性と準対称性)
無限小変換 (1.10.1) が Lagrangian L L L の対称性 であるとは、すべての経路 q ( t ) q(t) q ( t ) について δ L = 0 \delta L=0 δ L = 0 となることをいう。もう少し弱く、ある関数 Λ ( q , t ) \Lambda(q,t) Λ ( q , t ) があって、すべての経路について
δ L = ϵ d d t Λ ( q ( t ) , t ) (1.10.4) \delta L=\epsilon\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t}\Lambda(q(t),t)\tag{1.10.4} δ L = ϵ d t d Λ ( q ( t ) , t ) ( 1.10.4 )
となるとき、変換は準対称性 であるという(Λ = 0 \Lambda=0 Λ = 0 の場合が対称性)。
準対称性を含めておく理由は、作用 S [ q ] = ∫ L d t S[q]=\int L\,\mathrm{d} t S [ q ] = ∫ L d t が全微分の項の分だけしか変わらないからである。式 (1.10.4) を積分すると δ S = ϵ [ Λ ] t 1 t 2 \delta S=\epsilon\bigl[\Lambda\bigr]_{t_1}^{t_2} δ S = ϵ [ Λ ] t 1 t 2 となり、端の値だけで決まる。第1部第4章 で見たとおり、L L L に全微分 d d t Λ ( q , t ) \frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t}\Lambda(q,t) d t d Λ ( q , t ) を足しても Euler–Lagrange 方程式は変わらないので、準対称性の変換は運動方程式の形を変えない。この意味で準対称性も「対称性」の仲間に入れる。
定義で「すべての経路」と言っている点が大事である。運動方程式の解だけで δ L \delta L δ L を調べるのではなく、解でない経路を入れてもδ L = 0 \delta L=0 δ L = 0 (または全微分)でなければならない。この条件は、L L L の関数の形だけを見て判定することができる。解を知らなくても判定できるので、運動を解く前に保存量を見つけることができる。この条件をなぜ解の上だけで課してはいけないかは、1.10.3 節の落とし穴の箱で説明する。
典型的な例
N N N 個の粒子が3次元空間を動き、位置を r a \bm{r}_a r a (a = 1 , … , N a=1,\dots,N a = 1 , … , N )、Lagrangian を
L = ∑ a = 1 N m a 2 r ˙ a 2 − V ( r 1 , … , r N ) (1.10.5) L=\sum_{a=1}^N\frac{m_a}{2}\dot{\bm{r}}_a^{\,2}-V(\bm{r}_1,\dots,\bm{r}_N)\tag{1.10.5} L = a = 1 ∑ N 2 m a r ˙ a 2 − V ( r 1 , … , r N ) ( 1.10.5 )
とする。運動エネルギーは速度にしかよらないので、変換で変わるのはポテンシャルだけである。
並進 は、すべての粒子を同じ向き n \bm{n} n (単位ベクトル)に ϵ \epsilon ϵ だけずらす変換 δ r a = ϵ n \delta\bm{r}_a=\epsilon\bm{n} δ r a = ϵ n である。速度は変わらず、δ L = − ϵ ∑ a n ⋅ ∇ a V \delta L=-\epsilon\sum_a\bm{n}\cdot\nabla_aV δ L = − ϵ ∑ a n ⋅ ∇ a V となる。V V V が粒子の位置の差 r a − r b \bm{r}_a-\bm{r}_b r a − r b だけで書けているなら、すべての r a \bm{r}_a r a を同じだけずらしても差は変わらないので δ L = 0 \delta L=0 δ L = 0 で、並進は対称性である。
回転 は、軸 n \bm{n} n のまわりに角度 ϵ \epsilon ϵ だけ回す変換で、1次では δ r a = ϵ n × r a \delta\bm{r}_a=\epsilon\,\bm{n}\times\bm{r}_a δ r a = ϵ n × r a となる。n = e z \bm{n}=\bm{e}_z n = e z なら ( δ x a , δ y a ) = ϵ ( − y a , x a ) (\delta x_a,\delta y_a)=\epsilon(-y_a,x_a) ( δ x a , δ y a ) = ϵ ( − y a , x a ) で、これが冒頭の ( K x , K y ) = ( − y , x ) (K_x,K_y)=(-y,x) ( K x , K y ) = ( − y , x ) である。速度も同じ形 δ r ˙ a = ϵ n × r ˙ a \delta\dot{\bm{r}}_a=\epsilon\,\bm{n}\times\dot{\bm{r}}_a δ r ˙ a = ϵ n × r ˙ a で回るので、r ˙ a 2 \dot{\bm{r}}_a^{\,2} r ˙ a 2 は1次で変わらない(r ˙ a ⋅ ( n × r ˙ a ) = 0 \dot{\bm{r}}_a\cdot(\bm{n}\times\dot{\bm{r}}_a)=0 r ˙ a ⋅ ( n × r ˙ a ) = 0 )。V V V が粒子間の距離 ∣ r a − r b ∣ \lvert \bm{r}_a-\bm{r}_b\rvert ∣ r a − r b ∣ や原点からの距離 ∣ r a ∣ \lvert \bm{r}_a\rvert ∣ r a ∣ だけで書けているなら、回転で V V V も変わらず、回転は対称性である。
図 1.10.1 は1粒子・2次元でこの判定を描いたものである。回転の向き ( K x , K y ) = ( − y , x ) (K_x,K_y)=(-y,x) ( K x , K y ) = ( − y , x ) は原点を中心とする円の接線の向きなので、等ポテンシャル線が同心円なら、変換の向きは等ポテンシャル線に沿い、V V V は1次で変わらない。等ポテンシャル線が楕円なら、変換の向きが等ポテンシャル線を横切る点があり、そこで V V V が変わる。1次の変化 δ V = ϵ ( − y ∂ x V + x ∂ y V ) \delta V=\epsilon(-y\,\partial_xV+x\,\partial_yV) δ V = ϵ ( − y ∂ x V + x ∂ y V ) は極座標 ( r , φ ) (r,\varphi) ( r , φ ) での偏微分 ϵ ∂ V / ∂ φ \epsilon\,\partial V/\partial\varphi ϵ ∂ V / ∂ φ に等しいので、回転が対称性であることは「V V V が角度 φ \varphi φ によらない」ことと同じである。
図 1.10.1 回転の向き ( K x , K y ) = ( − y , x ) (K_x,K_y)=(-y,x) ( K x , K y ) = ( − y , x ) (矢印)と等ポテンシャル線(灰色)。矢印は中段の等ポテンシャル線の上の点にだけ描き、長さは原点からの距離に比例させた。(a) 等ポテンシャル線が円なら、矢印はどこでも線に接し、回転で V V V は変わらない。(b) 楕円(λ > 1 \lambda>1 λ > 1 )では、矢印が線を斜めに横切る点(軸の上以外のすべての点)で V V V が1次で変わる
例題 1.10.1 ばねでつないだ2粒子と壁 ★★
オリジナル 直線上の2粒子(質量 m 1 m_1 m 1 , m 2 m_2 m 2 、位置 x 1 x_1 x 1 , x 2 x_2 x 2 )が自然長 ℓ \ell ℓ ・ばね定数 k k k のばねでつながれ、
L = m 1 2 x ˙ 1 2 + m 2 2 x ˙ 2 2 − k 2 ( x 1 − x 2 − ℓ ) 2 L=\frac{m_1}{2}\dot x_1^2+\frac{m_2}{2}\dot x_2^2-\frac k2(x_1-x_2-\ell)^2 L = 2 m 1 x ˙ 1 2 + 2 m 2 x ˙ 2 2 − 2 k ( x 1 − x 2 − ℓ ) 2
とする。
(1) 2粒子を同時にずらす変換 δ x 1 = δ x 2 = ϵ \delta x_1=\delta x_2=\epsilon δ x 1 = δ x 2 = ϵ について δ L \delta L δ L を求めよ。
(2) 粒子1だけをずらす変換 δ x 1 = ϵ \delta x_1=\epsilon δ x 1 = ϵ , δ x 2 = 0 \delta x_2=0 δ x 2 = 0 について δ L \delta L δ L を求め、対称性かどうか判定せよ。
(3) 粒子1を原点の壁にもばね(ばね定数 κ \kappa κ )でつなぎ、L L L に − κ 2 x 1 2 -\frac\kappa2x_1^2 − 2 κ x 1 2 を足す。(1) の変換はまだ対称性か。
解答 (1) 速度は δ x ˙ 1 = δ x ˙ 2 = 0 \delta\dot x_1=\delta\dot x_2=0 δ x ˙ 1 = δ x ˙ 2 = 0 で変わらない。ばねの伸び x 1 − x 2 − ℓ x_1-x_2-\ell x 1 − x 2 − ℓ は両方を同じだけずらしても変わらないので、式 (1.10.3) は
δ L = ϵ ( ∂ L ∂ x 1 + ∂ L ∂ x 2 ) = ϵ [ − k ( x 1 − x 2 − ℓ ) + k ( x 1 − x 2 − ℓ ) ] = 0. \delta L=\epsilon\Bigl(\frac{\partial L}{\partial x_1}+\frac{\partial L}{\partial x_2}\Bigr)=\epsilon\bigl[-k(x_1-x_2-\ell)+k(x_1-x_2-\ell)\bigr]=0 . δ L = ϵ ( ∂ x 1 ∂ L + ∂ x 2 ∂ L ) = ϵ [ − k ( x 1 − x 2 − ℓ ) + k ( x 1 − x 2 − ℓ ) ] = 0.
どの経路でも 0 0 0 なので、この並進は対称性である。
(2) δ L = ϵ ∂ L / ∂ x 1 = − ϵ k ( x 1 − x 2 − ℓ ) \delta L=\epsilon\,\partial L/\partial x_1=-\epsilon k(x_1-x_2-\ell) δ L = ϵ ∂ L / ∂ x 1 = − ϵ k ( x 1 − x 2 − ℓ ) 。ばねが伸びている(または縮んでいる)経路では 0 0 0 でなく、これを ϵ d d t Λ ( x 1 , x 2 , t ) \epsilon\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t}\Lambda(x_1,x_2,t) ϵ d t d Λ ( x 1 , x 2 , t ) と書く関数 Λ \Lambda Λ もない(d d t Λ = ∑ a ∂ a Λ x ˙ a + ∂ t Λ \frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t}\Lambda=\sum_a\partial_a\Lambda\,\dot x_a+\partial_t\Lambda d t d Λ = ∑ a ∂ a Λ x ˙ a + ∂ t Λ は、同じ時刻の位置が同じでも速度を変えると値が変わるので、速度によらない − k ( x 1 − x 2 − ℓ ) -k(x_1-x_2-\ell) − k ( x 1 − x 2 − ℓ ) と一致させるには ∂ a Λ = 0 \partial_a\Lambda=0 ∂ a Λ = 0 が要り、残る ∂ t Λ ( t ) \partial_t\Lambda(t) ∂ t Λ ( t ) は位置によらない)。よって対称性でも準対称性でもない。
(3) 足した項の変化は − κ x 1 δ x 1 = − ϵ κ x 1 -\kappa x_1\,\delta x_1=-\epsilon\kappa x_1 − κ x 1 δ x 1 = − ϵ κ x 1 で、(1) の変換でも δ L = − ϵ κ x 1 ≠ 0 \delta L=-\epsilon\kappa x_1\neq0 δ L = − ϵ κ x 1 = 0 となる。壁は空間の特定の点(原点)を決めてしまうので、全体をずらすと壁との距離が変わる。並進は対称性でなくなり、1.10.3 節の定理から全運動量 m 1 x ˙ 1 + m 2 x ˙ 2 m_1\dot x_1+m_2\dot x_2 m 1 x ˙ 1 + m 2 x ˙ 2 の保存も成り立たなくなる。
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