解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第8章 §2.8.2 ★★★ パラメータが定数なら保存則(第1定理)、任意の関数なら Euler–Lagrange 式どうしの恒等式(第2定理)
第1定理との違い
第1部第10章と第2部第7章で使った Noether の定理は、変換の大きさ ϵ が定数の場合のものだった。その場合、作用が変わらないことから、運動方程式の解の上でだけ成り立つ保存則 ∂μjμ=0 が出る。ゲージ変換 (2.8.4) では、ずらす量 Λ(x) が時空の点ごとに勝手に選べる関数である。このように変換のパラメータが任意の関数であるとき、作用が変わらないことから出てくる結論は性質が違う。Noether は1918年の同じ論文でこの場合も扱っており(第1部第10章の脚注)、こちらをNoether の第2定理と呼ぶ。
まず記号を用意する。場の作用 S[A]=c1∫L(A,∂A)d4x に対して、Euler–Lagrange 方程式の左辺を
Eν(x):=∂Aν∂L−∂μ∂(∂μAν)∂L(2.8.9)
と書く。これは第1部第10章の Ei の場の版で、解でない A を入れても計算できる量である。第2部第5章で示したとおり、Aν を δAν だけずらしたときの作用の1次の変化は、境界の項を除いてδS=c1∫EνδAνd4x で、運動方程式は Eν=0 である。
定理
定理 2.8.1(Noether の第2定理(ゲージ変換の場合)★★★)
有界な領域の外で 0 になるすべての関数 Λ(x) と、すべての Aμ(運動方程式の解でなくてよい)についてS[A−∂Λ]=S[A] が成り立つとする。このとき、すべての Aμ について
∂νEν(x)=0(2.8.10)
が恒等的に成り立つ。
証明
Λ を ϵΛ に置き換えて ϵ の1次を取る。δAν=−ϵ∂νΛ で、Λ は領域の外で 0 なので境界の項は残らない。作用が変わらないので、部分積分して
0=δS=c1∫Eν(−ϵ∂νΛ)d4x=cϵ∫Λ∂νEνd4x.
これが勝手な Λ で成り立つので、第1部第3章の変分法の基本補題から ∂νEν=0 が各点で成り立つ。仮定が「すべての A で」なので、結論もすべての A で成り立つ。
第1定理と並べると違いがはっきりする。第1定理の結論 ∂μjμ=0 は、運動方程式を使って初めて成り立つ物理の法則である。第2定理の結論 (2.8.10) は運動方程式を使わずに成り立つ恒等式で、運動方程式 Eν=0 の4本が互いに独立でないことを言っている。
| 第1定理(第1部第10章) | 第2定理(この節) |
| 変換のパラメータ | 定数 ϵ | 時空の任意の関数 Λ(x) |
| 結論 | 保存則 ∂μjμ=0 | 恒等式 ∂νEν≡0 |
| 成り立つ範囲 | 運動方程式の解の上 | すべての場の配置 |
| 意味 | 保存する量がある | 運動方程式が独立でなく、解が1つに決まらない |
電磁場に当てる
作用 (2.8.2) の場の部分 S0=−4μ0c1∫FμνFμνd4x は、式 (2.8.6) によりどんな A と Λ でも変わらない。∂(∂μAν)∂(FαβFαβ)=4Fμν なので E0ν=μ01∂μFμν で、定理 2.8.1 から
∂ν∂μFμν=0(すべての Aμ で)(2.8.11)
が出る。これは直接にも確かめることができる。∂ν∂μ は添字 μ,ν について対称、Fμν は反対称なので、和を取ると 0 になる。
恒等式 (2.8.11) は運動方程式について2つのことを言っている。1つ目は、4本の運動方程式 (2.8.3) の左辺の間に1つの関係があるので、右辺 Jν も同じ関係を満たさなければ解が無いことである。これを 2.8.3節で扱う。2つ目は、4つの未知関数 Aμ に対して独立な方程式が実質3本しか無いので、Aμ が方程式だけでは決まらないことである。実際、Aμ が解なら Aμ−∂μΛ も解である。Λ を時刻 t=0 の近くでは 0、その後では 0 でないように選べば、初期の Aμ とその時間微分がまったく同じで、後の時刻の Aμ が違う解を2つ作ることができる。粒子の力学では初期の座標と速度で運動が1つに決まったが、Aμ ではそれが成り立たない。決まるのは Fμν だけである。この決まらなさを Hamilton 形式でどう扱うかが 2.8.4節の話になる。
Gauss の法則は時間の2階微分を含まない
恒等式の ν についての和を時間の部分と空間の部分に分けると ∂0(∂μFμ0)=−∂i(∂μFμi) となる。右辺の ∂μFμi は A の時間の2階微分までを含むので、左辺の ∂μFμ0 は時間の1階微分までしか含まない。実際 ∂μFμ0=∇⋅E/c で、E=−∇ϕ−∂tA は時間の1階微分しか含まない。Gauss の法則は「時刻を進める方程式」でなく「各時刻の場が満たすべき条件」であり、2.8.4節でこれが拘束として現れる。
例題 2.8.2 恒等式を3次元の成分で確かめる ★★
オリジナルϕ(r,t)、A(r,t) を任意の滑らかな関数とし、E=−∇ϕ−∂tA、B=∇×A とおく。
- (1) 恒等式 (2.8.11) を E,B で書くと
∂t∂(ε0∇⋅E)+∇⋅(μ01∇×B−ε0∂t∂E)=0
となることを示せ。2. (2) この式を、ϕ,A を使わずに ∇⋅(∇×v)=0 だけで示せ。
解答
(1) ∂μFμ0=∇⋅E/c と、∂μFμi=(∇×B−c21∂tE)i を使う(第2部第6章で Maxwell 方程式を成分に分けたときの計算と同じ)。∂ν∂μFμν=c1∂t(∂μFμ0)+∂i(∂μFμi) なので
0=c21∂t(∇⋅E)+∇⋅(∇×B−c21∂tE).
両辺に 1/μ0 を掛け、1/(μ0c2)=ε0 を使うと求める式になる。
(2) 第2項のうち ∇⋅(∇×B)/μ0 は恒等的に 0。残りは ε0∂t(∇⋅E)−ε0∇⋅(∂tE) で、時間微分と発散の順序を入れ替えれば打ち消し合う。
この恒等式に ϕ,A の形はまったく入っていない。Ampère–Maxwell の法則の左辺の発散が、Gauss の法則の左辺の時間微分と必ず打ち消し合う。運動方程式の側から見ると、この打ち消し合いのために8本の Maxwell 方程式が矛盾なく両立している。
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