解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第7章 §2.7.1 ★★★ 「場の対称性」を「すべての場の配位で δL=ϵ∂μΛμ」と式で定義する
電磁気学の授業では、電荷の保存は Maxwell 方程式の発散を取って出し、Poynting の定理はベクトル解析の恒等式から出し、Maxwell の応力テンソルは Lorentz 力の体積積分を書き直して出す。量子力学の授業では、確率の流れを Schrödinger 方程式に ψ∗ を掛けて複素共役との差を取ることで出す。これらは別々の計算に見えるが、どれも「場の Lagrangian 密度がある連続的な変換で変わらない」ことから出る保存則で、第1部第10章の Noether の定理を場に当てはめた1つの定理の場合分けになっている。
この章で選ぶものは、場の Lagrangian 密度 L(ϕa,∂μϕa) と、それに当てる無限小変換 δϕa=ϵKa の組である。当てる道具は、場の Euler–Lagrange 方程式(第2部第5章)と、粒子の Noether の定理の証明(第1部第10章)の2つである。出てくるものは3つあり、①場の位相を回す変換から保存する電流(電荷の保存・確率の保存)、②時空の並進からエネルギー運動量テンソル Tμν、③電磁場の Tμν と、物質と場を合わせた運動量の保存である。粒子の場合と違って、場の保存則は「どこでも成り立つ局所的な連続の式」∂μjμ=0 の形で出てくる。最後に、授業で習った連続の式・Poynting の定理・確率の流れを、この章の式と並べる。
単位は SI、計量は ημν=diag(+1,−1,−1,−1)、xμ=(ct,x)、∂μ=(c1∂t,∇) で、作用は S=∫Ldtd3x=c1∫Ld4x とする(記法の正本 §3。この本の流儀)。上下に1回ずつ現れるギリシャ添字は和を取り、場の番号 a と空間の添字 i,j の和は Σ を省かない。
場をわずかにずらす
場を何本か ϕa(x)(a=1,…,n)用意し、Lagrangian 密度 L(ϕa,∂μϕa,x) を1つ選ぶ。第1部第10章では一般化座標を qi→qi+ϵKi とずらした。場では、時空の各点で場の値をずらす。
ϕa(x) ⟶ ϕa(x)+ϵKa(x),δϕa=ϵKa.(2.7.1)
Ka は場の値・場の微分・時空の点 x によってよい関数で、ずらす向きを決める。点 x を止めて場の値だけを変えるので、第1部第3章の「時刻を止めた変分」の場の版であり、δ(∂μϕa)=∂μ(δϕa)=ϵ∂μKa が成り立つ。Lagrangian 密度の1次の変化は連鎖律から
δL:=ϵdϵdL(ϕ+ϵK, ∂ϕ+ϵ∂K, x)ϵ=0=ϵa=1∑n(∂ϕa∂LKa+∂(∂μϕa)∂L∂μKa)(2.7.2)
になる。δL は、場の配位 ϕa(x) を1つ決めるたびに決まる時空の関数である。
対称性の定義
定義 2.7.1(場の対称性と準対称性)
無限小変換 (2.7.1) が Lagrangian 密度 L の準対称性であるとは、場の値と時空の点の関数 Λμ があって、すべての場の配位 ϕa(x) について
δL=ϵ∂μΛμ(2.7.3)
となることをいう。Λμ=0 のとき対称性という。
粒子の準対称性は δL=ϵdΛ/dt だった。場では時間だけでなく空間の微分も対等に並ぶので、全微分が4元の発散 ∂μΛμ に置き換わる。発散であれば作用の変化は Gauss の定理で時空の領域の境界の積分になり、境界で場を固定する変分では運動方程式は変わらない。この点は粒子のときと同じ理由で、準対称性も対称性の仲間に入れる。「すべての配位で」と要求する点も粒子と同じである。運動方程式の解だけで調べるのでなく、L の形だけを見て判定する。
典型的な例
複素スカラー場を例に取る。複素数の場 ψ(x) に対して
L=∂μψ∗∂μψ−κ2ψ∗ψ=c21∣∂tψ∣2−∣∇ψ∣2−κ2∣ψ∣2(2.7.4)
を選ぶ。κ は長さの逆数の次元を持つ定数で、量子論では粒子の質量 m と κ=mc/ℏ で結ばれる。ψ の単位は L がエネルギー密度になるように選ぶ。Euler–Lagrange 方程式は Klein–Gordon 方程式 (c21∂t2−∇2+κ2)ψ=0 である。複素数の場は実部と虚部の2本の実数の場と同じことで、計算では ψ と ψ∗ を独立な2本の場とみなすと見通しがよい(ϕ1=ψ、ϕ2=ψ∗)。
位相の回転 ψ→e−iϵψ の1次は δψ=−iϵψ、δψ∗=+iϵψ∗ である(Kψ=−iψ、Kψ∗=iψ∗)。ψ∗ψ も ∂μψ∗∂μψ も、e+iϵ と e−iϵ の積で変わらないので、すべての配位で δL=0 となる。この変換は時空の点を動かさず、場の値の「向き」だけを回すので内部対称性と呼ぶ。
時空の並進は、場の形をそのまま ϵbν だけずらす変換である(bν は定数の4元ベクトル)。ずらした場 ϕa′ は、ずらした点で元の値を取るのでϕa′(x+ϵb)=ϕa(x)、すなわち ϕa′(x)=ϕa(x−ϵb) で、1次では
δϕa=−ϵbν∂νϕa,Ka=−bν∂νϕa(2.7.5)
になる。L が x を陽に含まなければ、L も場と一緒にずれるだけなので δL=−ϵbν∂νL=ϵ∂μ(−bμL) となり、並進は Λμ=−bμL の準対称性である。L 自身が Λ に入る点は、粒子で時刻をずらしたとき H が出てきたことに対応する(第1部第10章)。
例題 2.7.1 どの変換が対称性か ★★
オリジナル複素スカラー場の Lagrangian 密度 (2.7.4) について、次の変換で δL を求め、対称性・準対称性・どちらでもない、のいずれかを答えよ。
- (1) 位相の回転 δψ=−iϵψ, δψ∗=iϵψ∗。
- (2) 場に定数を足す δψ=δψ∗=ϵ。
- (3) x 方向の並進 δψ=−ϵb∂xψ, δψ∗=−ϵb∂xψ∗。また、L に外から与えたポテンシャルの項 −U(x)ψ∗ψ を足すとどうなるか。
解答
(1) 式 (2.7.2) で、∂L/∂ψ=−κ2ψ∗、∂L/∂(∂μψ)=∂μψ∗、ψ∗ についても同様なので
δL=ϵ[−κ2ψ∗(−iψ)+∂μψ∗∂μ(−iψ)]+ϵ[−κ2ψ(iψ∗)+∂μψ∂μ(iψ∗)]=0.
第1の括弧と第2の括弧が打ち消し合い、すべての配位で 0 なので対称性である。
(2) 微分の項は定数をずらしても変わらず、δL=ϵ(−κ2ψ∗−κ2ψ)=−ϵκ2(ψ+ψ∗)。これは場の値そのものに比例し、どの Λμ の発散とも書けない(発散なら場の微分を含むはずだが、ψ が一定の配位でも 0 でない)。κ=0 ではどちらでもなく、κ=0(質量のない場)なら対称性になる。
(3) 本文のとおり δL=−ϵb∂xL=ϵ∂x(−bL) で、Λx=−bL、他の成分 0 の準対称性である。−U(x)ψ∗ψ を足すと、場をずらしても U はずれないので、δL−ϵ∂x(−bL)=−ϵbU′(x)ψ∗ψ が残る。これは U′=0 の所で 0 でなく、並進は準対称性でなくなる。外から与えたポテンシャルがあると空間の点どうしが区別されるので、2.7.4節の場の運動量の保存も成り立たなくなる(粒子を壁にばねでつないだときと同じ事情)。
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