解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第7章 §2.7.2 ★★★ 積の微分だけから恒等式を作り、保存する流れ jμ を読み取る
前の章から借りる2つの道具
1つめは場の Euler–Lagrange 方程式である(第2部第5章)。解でない配位でも使えるように左辺に名前を付けておく。
Ea:=∂ϕa∂L−∂μ∂(∂μϕa)∂L,運動方程式は Ea=0.(2.7.6)
2つめは第1部第10章の Noether の恒等式の作り方で、δL の中の piK˙i を積の微分で dtd(piKi)−p˙iKi と書き直すという操作である。場では時間の微分 d/dt が4つの偏微分 ∂μ に、運動量 pi=∂L/∂q˙i が4つの成分を持つ量 ∂L/∂(∂μϕa) に替わる。
Noether の恒等式
式 (2.7.2) の第2項を積の微分で書き直すと
∂(∂μϕa)∂L∂μKa=∂μ(∂(∂μϕa)∂LKa)−(∂μ∂(∂μϕa)∂L)Ka
で、右辺の第2項を第1項の ∂L/∂ϕaKa とまとめると EaKa になる。したがって、すべての配位で
δL=ϵa∑EaKa+ϵ∂μ(a∑∂(∂μϕa)∂LKa)(2.7.7)
が成り立つ。これが場の Noether の恒等式である。Ka が場の微分によっていても、積の微分しか使っていないので成り立つ。
定理 2.7.2(場の Noether の定理 ★★★)
変換 (2.7.1) がすべての配位で δL=ϵ∂μΛμ を満たすなら、
jμ:=a∑∂(∂μϕa)∂LKa−Λμ(2.7.8)
は運動方程式の解の上で ∂μjμ=0 を満たす。
証明
恒等式 (2.7.7) の左辺に仮定 δL=ϵ∂μΛμ を入れて移項すると、すべての配位で ϵ∂μjμ=−ϵ∑aEaKa。解の上では Ea=0 なので右辺は 0 である。
jμ を Noether 流(保存流)と呼ぶ。∂μjμ=0 を成分で書くと
c1∂t∂j0+∇⋅j=0(2.7.9)
で、これは連続の式である。j0/c を「何かの密度」、j をその「流れの密度」と読む。
局所的な保存と全体の保存
連続の式 (2.7.9) を空間の領域 Ω で積分し、Gauss の定理を使うと
dtd∫Ωcj0d3x=−∮∂Ωj⋅ndA(2.7.10)
となる(n は外向きの単位法線)。領域の中の量は、境界を通って流れ出た分だけ減る(図 2.7.1)。場が無限遠で十分速く 0 になるなら、Ω を全空間に広げると右辺が消え、
Q:=c1∫j0d3x=∫a∑πaKad3x−c1∫Λ0d3x(2.7.11)
が時間によらない。ここで ∂/∂(∂0ϕa)=c∂/∂(∂tϕa) を使い、場の正準運動量 πa=∂L/∂(∂tϕa) で書いた。粒子の保存量 Q=∑ipiKi−Λ と並べると、番号 i についての和が、場の番号 a についての和と空間の点 x についての積分に替わっている。第2部第4章で原子の番号 n が位置 x に替わったのと同じ読み替えである。
場の保存則は、全体の量が保存するというだけでなく、「ある所で減った分は境界を通って隣へ流れた」という局所的な形で出てくる。連続の式のもとでは、ある量が遠く離れた2点で同時に消えて現れることは起こらない。この局所性は、相互作用が隣り合う点どうしにしか働かない(L が場とその1階微分だけで書ける)ことの帰結である。

図 2.7.1 左:連続の式を領域 Ω で積分した形 (2.7.10)。中の量の減り方は、境界から流れ出る量(矢印)で決まる。右:時空の箱で見ると、t2 の量 = t1 の量 − 側面から出た量になる。4元の Gauss の定理で ∂μjμ=0 を箱の中で積分した式と同じである
例題 2.7.2 Noether 流は一意でない ★★
オリジナルBμν を添字について反対称(Bνμ=−Bμν)な、場と時空の点の任意の関数とする。Noether 流 jμ に∂νBμν を足した j′μ=jμ+∂νBμν を考える。
- (1) ∂μj′μ=∂μjμ がすべての配位で成り立つことを示せ。
- (2) Bμν が無限遠で十分速く 0 になるとき、j′μ から作った Q′ が Q に等しいことを示せ。
- (3) 定理 2.7.2 の Λμ の選び方に、このような自由度があることを説明せよ。
解答
(1) ∂μ∂νBμν で、偏微分は順序を入れ替えてよいので ∂μ∂ν は μ,ν について対称である。対称なものと反対称なものの縮約は、添字の名前を入れ替えて ∂μ∂νBμν=∂ν∂μBνμ=−∂μ∂νBμν となるので 0 である。よって ∂μj′μ=∂μjμ。
(2) j′0−j0=∂νB0ν=∑i∂iB0i(B00=0)。これは空間の発散なので、全空間の積分は Gauss の定理で無限遠の面積分になり、0 である。よって Q′=Q。
(3) Λμ は δL=ϵ∂μΛμ を満たせばよいので、Λμ に ∂νBμν を足しても同じ式を満たす((1) より発散が変わらない)。したがって Noether 流は「反対称な Bμν の発散を足す」自由度を残して決まり、保存する全体量 Q はその自由度によらない。2.7.5節では、この自由度を使って電磁場のエネルギー運動量テンソルを対称でゲージ不変な形に直す。
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