解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部 第7章 §2.7.3 ★★★ 内部対称性の Noether 流が、電荷と確率の流れになる
複素スカラー場の流れ
複素スカラー場 (2.7.4) の位相の回転 Kψ=−iψ、Kψ∗=iψ∗ を定理 2.7.2 に入れる。∂L/∂(∂μψ)=∂μψ∗、∂L/∂(∂μψ∗)=∂μψ、Λμ=0 なので
jμ=∂μψ∗(−iψ)+∂μψ(iψ∗)=i(ψ∗∂μψ−ψ∂μψ∗)(2.7.12)
を得る。運動方程式を使って直接確かめると、∂μjμ=i(ψ∗∂μ∂μψ−ψ∂μ∂μψ∗)=i(ψ∗(−κ2ψ)−ψ(−κ2ψ∗))=0 である。
Noether 流の全体の定数倍は決まらない。ϵ は変換の大きさを測る目盛りにすぎず、ϵ を 2ϵ に取り直すと jμ も2倍になる。回す向きを e+iϵ に取れば符号も反転する。この章では、正の振動数の平面波 ψ=Ae−i(ωt−kx)(ω>0)で j0>0 になる向きを選んだ。実際、∂0ψ=c1∂tψ=−ciωψ から
j0=c2ω∣A∣2,jx=2k∣A∣2,j0cjx=ωc2k(2.7.13)
となる(∂x=−∂x に注意)。流れの速さ c2k/ω は、分散関係 ω=ck2+κ2 の群速度 dω/dk に等しい。負の振動数の平面波 Ae+i(ωt−kx) では j0=−2ω∣A∣2/c<0 になり、j0 は正の値にも負の値にもなる。したがって Klein–Gordon 方程式の j0 は確率の密度とは読めず、正負を持つ電荷の密度と読む。この読み方は 第5部第4章で、粒子と反粒子の区別として回収する。
Schrödinger 場の流れ
非相対論の量子力学の波動関数も、場として Lagrangian 密度から出すことができる。
L=iℏψ∗∂tψ−2mℏ2∇ψ∗⋅∇ψ−V(x)ψ∗ψ.(2.7.14)
ψ∗ についての Euler–Lagrange 方程式は iℏ∂tψ+2mℏ2∇2ψ−Vψ=0、すなわち Schrödinger 方程式である。(L は実数でないが、虚部は 2ℏ∂t∣ψ∣2 という全微分なので、運動方程式には影響しない。)同じ位相の回転 Kψ=−iψ、Kψ∗=iψ∗ で δL=0 となる。この節は非相対論なので、時間の成分は ∂t のまま書く。時間の成分は ∂L/∂(∂tψ)Kψ=iℏψ∗(−iψ)=ℏ∣ψ∣2(∂L/∂(∂tψ∗)=0)、空間の成分は (−2mℏ2∂kψ∗)(−iψ)+(−2mℏ2∂kψ)(iψ∗) で、全体を ℏ で割ると
ρψ=∣ψ∣2,jψ=2miℏ(ψ∗∇ψ−ψ∇ψ∗),∂t∂ρψ+∇⋅jψ=0(2.7.15)
になる。量子力学の確率密度と確率の流れが、位相の回転の Noether 流として出てきた。
電荷の保存と Maxwell 方程式
場が電荷 q を持つ粒子を表すとき、電流密度は Noether 流に定数を掛けたもの(Schrödinger 場なら Jμ=q(cρψ,jψ))になり、電荷の保存 ∂μJμ=0 は位相の回転の対称性から出る。一方、第2部第6章の Maxwell 方程式 ∂μFμν=μ0Jν の両辺に ∂ν を掛けると、左辺は対称な ∂ν∂μ と反対称な Fμν の縮約なので恒等的に 0 で、∂νJν=0 が出る。Maxwell 方程式は、保存しない電流を源にすると解を持たない。電磁場とつなぐ物質の場は、位相の回転の対称性を持ち、その Noether 流を電流とする必要がある。電磁場の側の制約(ゲージ不変性)と物質の側の対称性がなぜ組になるのかは、第2部第8章の題材である。
例題 2.7.3 平面波の流れ ★★
オリジナル
- (1) Schrödinger 場の平面波 ψ=Aei(kx−ωt)(V=0)について ρψ と jψ を求め、jψ/ρψ を答えよ。電子(m=9.109×10−31kg)で k=1.0×1010m−1 のときの値を求めよ(ℏ=1.055×10−34Js)。
- (2) 複素スカラー場で、正の振動数と負の振動数の平面波の重ね合わせ ψ=Ae−iωt+Be+iωt(k=0、ω=cκ、A,B は実数)の j0 を求めよ。
解答
(1) ρψ=∣A∣2。∇ψ=ikexψ、∇ψ∗=−ikexψ∗ から
jψ=2miℏ(ik∣A∣2+ik∣A∣2)ex=mℏk∣A∣2ex,ρψjψ=mℏk.
流れの速さは古典的な速さ p/m(p=ℏk)に一致する。数値は ℏk/m=1.055×10−34×1.0×1010/(9.109×10−31)=1.16×106m/s。
(2) ∂0ψ=c1∂tψ=ciω(−Ae−iωt+Beiωt)、ψ∗=Aeiωt+Be−iωt なので
ψ∗∂0ψ=ciω(B2−A2+ABe2iωt−ABe−2iωt)=ciω(B2−A2)−c2ωABsin2ωt
で、ψ∂0ψ∗ はその複素共役である。交差項 −c2ωABsin2ωt は実数なので、複素共役との差 ψ∗∂0ψ−ψ∂0ψ∗ では消え、
j0=i(2icω(B2−A2))=c2ω(A2−B2).
正の振動数の部分は正の寄与、負の振動数の部分は負の寄与になり、2つを掛け合わせた項は残らない。A=B なら ψ は実数の場 2Acosωt になり、j0=0 である。実数の場は位相を回せないので電荷を持たない。
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