解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第6章 §4.6.1 ★★★ H^=(p^−qA)2/(2m)+qϕ。p^=−iℏ∇ は正準運動量で、速度の演算子は (p^−qA)/m
第2部第2章では、荷電粒子の Lagrangian L=21mr˙2−qϕ+qr˙⋅A を選び、Legendre 変換で Hamiltonian H=(p−qA)2/(2m)+qϕ を得た。そこで強調したのは、正準運動量 p=mr˙+qA が運動学的な運動量 mr˙ と一致しないこと、ゲージ変換で p の値が変わること、速度の成分どうしの Poisson 括弧が{mx˙,my˙}=qBz と 0 にならないことの3つだった。この章では、この H に第4部第1章の正準量子化を当てる。量子化の規則 {⋅,⋅}→[⋅,⋅]/(iℏ) が当たるのは正準変数の組 (r,p) なので、p^=−iℏ∇ はmr˙ でなく正準運動量の演算子になる。この1点から、この章の結果はすべて出てくる。
出てくるものは4つある。1つ目はゲージ変換の量子版で、ポテンシャルの取り替え A→A+∇Λ は波動関数の位相の取り替え ψ→eiqΛ/ℏψ と組になり、Schrödinger 方程式の形を保つ。2つ目は Landau 準位で、速度の2成分の交換子が 0 でないことから、一様な磁場の中の電子のエネルギーが ℏωc(n+21) に量子化され、各準位が試料の面積に比例するだけ縮退する。3つ目は Aharonov–Bohm 効果で、磁場の無い場所しか通らない電子のエネルギー準位が、囲んだ磁束によって周期 h/∣q∣ で変わる。4つ目はスピンで、H の運動エネルギーを Pauli 行列で (σ⋅(p^−qA))2/(2m) と書き直すと、電子の磁気モーメントの係数 g=2 が出る。最後に、授業で習う「運動量を p^−qA に置き換える」規則と Zeeman 効果の書き方を、この章の形と並べる。
この章では電荷を q と書き、電子のときは q=−e(e>0)とする。量子の演算子には帽子を付ける。ϕ と A は外から決めた場で、演算子でなく位置と時刻の関数である(場そのものの量子化は第5部第2章で扱う)。
古典の H から演算子へ
第2部第2章の Hamiltonian は
H(r,p,t)=2m1(p−qA(r,t))2+qϕ(r,t)
である。これは L の Legendre 変換として決まった関数で、ここに勝手な選択は入っていない。第4部第1章の正準量子化は、正準変数の組 (xi,pi) の Poisson 括弧 {xi,pj}=δij を交換関係 [x^i,p^j]=iℏδij に置き換え、位置表示で p^j=−iℏ∂/∂xj とする規則だった。電磁場があっても (r,p) が正準変数の組であることは変わらないので、規則はそのまま当てはまる。したがって、この章で選ぶ Hamiltonian は
H^=2m1(p^−qA(r^,t))2+qϕ(r^,t),p^=−iℏ∇(4.6.1)
である。この形の結合を最小結合と呼ぶ。Schrödinger 方程式は iℏ∂tψ=H^ψ で(第4部第2章)、A と ϕ は時刻によってよいので、H^ も一般には時刻による。
p^ を mr˙ の演算子と考えてはいけない。p^ の固有値は正準運動量 mr˙+qA の値で、同じ運動をしていても A の選び方で変わる。速度に対応する演算子は
v^:=m1(p^−qA(r^,t))(4.6.2)
で、これを使うと H^=21mv^2+qϕ と書くことができる。H^ の値が運動エネルギーと静電エネルギーの和で、磁場は値に直接入らないことは古典の場合(第2部第2章)と同じである。次の節で、v^ が Heisenberg 描像で dtdr^ に等しいことを確かめる。
演算子の並べ方
古典の H を演算子にするとき、piAi と Aipi のどちらを書くかが問題になることがある。古典では同じ関数だが、p^i と Ai(r^) は交換しないので演算子としては違うものになる(第4部第1章で見た、正準量子化が一意に決まらない例)。式 (4.6.1) は「エルミートな演算子 p^i−qAi の2乗の和」という形で書いてあり、展開すると
(p^−qA)2=p^2−q(p^⋅A+A⋅p^)+q2A2(4.6.3)
になって、2つの並べ方の平均が自動的に選ばれる。2つの並べ方の差は、任意の波動関数 ψ に作用させて積の微分を使うと
p^⋅(Aψ)−A⋅p^ψ=−iℏ(∇⋅A)ψ(4.6.4)
である。∇⋅A=0 を満たすようにゲージを選べば(Coulomb ゲージ)、2つの並べ方は一致し、交差項は −2qA⋅p^ と書くことができる。一般のゲージでは、片方だけを使うと H^ がエルミートでなくなる。A⋅p^ のエルミート共役は p^⋅A で、その差が式 (4.6.4) の虚数の項だからである。エルミートな演算子の2乗という形を保つことが、並べ方を決める条件になっている。
例題 4.6.1 一定のベクトルポテンシャルの中の平面波 ★★
オリジナル1次元の直線(x 軸)の上で、電荷 q・質量 m の粒子が、一定のベクトルポテンシャル A=A0ex(A0 は定数、ϕ=0)の中にある。∇×A=0 なので磁場は無い。
- (1) 平面波 ψ=eikx が H^ の固有関数であることを示し、エネルギーを求めよ。
- (2) この状態の正準運動量 p^x と速度 v^x の値を求めよ。
- (3) ゲージ関数 Λ=−A0x でゲージ変換して A′=0 とする。変換後の波動関数 ψ′=eiqΛ/ℏψ の正準運動量と速度を求め、どちらがゲージで変わり、どちらが変わらないかを述べよ。
解答
(1) (p^x−qA0)eikx=(ℏk−qA0)eikx なので、もう一度作用させて
H^eikx=2m(ℏk−qA0)2eikx.
エネルギーは (ℏk−qA0)2/(2m) である。
(2) p^xeikx=ℏkeikx なので正準運動量は ℏk、速度は v^x=(p^x−qA0)/m から (ℏk−qA0)/m である。エネルギーは 21mvx2 に等しい。
(3) A′=A+∇Λ=(A0−A0)ex=0。ψ′=e−iqA0x/ℏeikx=ei(k−qA0/ℏ)x なので、正準運動量は ℏk−qA0、速度は v^x′=p^x/m から (ℏk−qA0)/m である。正準運動量は ℏk から ℏk−qA0 へ変わったが、速度とエネルギーは変わらない。同じ物理的な状態を、波数 k の平面波と呼ぶか波数 k−qA0/ℏ の平面波と呼ぶかは、ゲージの選び方による。直線の上では一定の A0 はゲージ変換で完全に消せるので、観測できる量は何も変わらない。4.6.4節では、直線を輪にすると同じ A0 が消せなくなることを見る。
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