解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部 第2章 §4.2.1 ★★★ 選ぶのは第1部と同じ H(q,p)。q,p を演算子にした H^ を状態に掛けると、状態の時間変化が決まる
量子力学の授業では、Schrödinger 方程式
iℏ∂t∂ψ=−2mℏ2∂q2∂2ψ+V(q)ψ
を、de Broglie の関係 p=ℏk と Einstein の関係 E=ℏω を平面波に当てはめた推論から書き下し、そのあとは「基本方程式」として受け入れることが多い。この形で覚えると、右辺に並んでいるのが古典力学の Hamiltonian H=p2/(2m)+V(q) そのものであることは、偶然の一致のように見えてしまう。この章では、右辺が H であることに理由があることを示す。第1部で、時間発展は H を生成子とする変換であることを見た(第1部第9章)。量子力学で「状態を時刻 dt だけ先へ進める」演算子を同じ考え方で作ると、その生成子として H を演算子にしたもの H^ が入る。Schrödinger 方程式は、この1行を微分方程式の形に書いたものである。
選ぶものは第1部と同じ Hamiltonian H(q,p) で、変わるのは使い方だけである。古典力学では H を相空間の関数として微分し、Hamilton 方程式を作った。量子力学では q,p を交換関係 [q^,p^]=iℏ を満たす演算子に置き換え(第4部第1章)、H^ を状態に掛ける。4.2.1節でこの置き換えと Schrödinger 方程式を書き、4.2.2節で、なぜ L でなく H なのか、なぜ H^ はエルミートでなければならないのかを生成子の言葉で示す。4.2.3節から4.2.5節が「出てくるもの」である。H が時刻を含まないことから定常状態が出て、それが Hamilton–Jacobi 方程式の時間の分離 S=W(q)−Et にあたること、期待値が Hamilton 方程式に従うこと(Ehrenfest の定理)とそれが破れる条件、自由粒子の波束の広がりが相空間の集団の広がりと一致することを順に扱う。4.2.6節で授業の「置き換え規則」E→iℏ∂t, p→−iℏ∂q と並べ、極座標で量子化するときの落とし穴を述べる。
この章は温度を使わないので、運動エネルギーには T を使わず p2/(2m) と書く。量子の演算子には帽子を付ける。
選ぶ H
1自由度の粒子を考え、Hamiltonian を
H(q,p)=2mp2+V(q)(4.2.1)
とする。p は正準運動量 p=∂L/∂q˙ で、第1部の Legendre 変換で L=mq˙2/2−V(q) から作ったものである(第1部第8章)。いまの L では p=mq˙ なので運動量と速度の区別は目立たないが、電磁場の中では p=mq˙+qA となり、量子化で演算子に置き換わるのは mq˙ でなく正準運動量の方である(第4部第6章)。
量子力学では、系の状態を Hilbert 空間のベクトル ∣ψ(t)⟩ で表し、q と p を交換関係
[q^,p^]=iℏ(4.2.2)
を満たすエルミート演算子に置き換える。この置き換えは古典の Poisson 括弧 {q,p}=1 を [⋅,⋅]/(iℏ) へ移したもので、その根拠と限界は前の章(第4部第1章)で述べた。式 (4.2.1) の q,p を演算子に置き換えた
H^=2mp^2+V(q^)(4.2.3)
を使い、状態の時間変化を
iℏdtd∣ψ(t)⟩=H^∣ψ(t)⟩(4.2.4)
で決める。これが Schrödinger 方程式である。いまの H は q と p の和に分かれていて積 qp を含まないので、演算子の並べ方(q^p^ か p^q^ か)の問題は起きない。
位置表示
q^ の固有状態 ∣q⟩ で状態を展開した係数 ψ(q,t)=⟨q∣ψ(t)⟩ が波動関数である。位置表示では q^ は q を掛ける演算子、p^ は
p^=−iℏ∂q∂(4.2.5)
になる。実際、任意の関数 f(q) に対して [q^,p^]f=−iℏ(qf′−(qf)′)=iℏf となり、式 (4.2.2) が成り立つ。式 (4.2.5) の形は、p^ が空間の並進の生成子であること(e−iap^/ℏψ(q)=ψ(q−a)、第1部第9章)と同じ内容である。式 (4.2.4) を位置表示で書くと
iℏ∂t∂ψ(q,t)=−2mℏ2∂q2∂2ψ(q,t)+V(q)ψ(q,t)(4.2.6)
となり、冒頭の式に戻る。右辺の第1項は p2/(2m) を、第2項は V(q) を、それぞれ演算子にしたものである。
古典との違い:方程式が1階になる
古典力学では、状態は相空間の点 (q,p) で、Hamilton 方程式は q と p についての2本の1階の常微分方程式であった。量子力学では状態は ψ(q,t) という1つの関数で、式 (4.2.6) は t について1階の偏微分方程式である。ψ(q,0) を与えれば以後の ψ が決まる。古典の初期条件 (q0,p0) に含まれていた「運動量」の情報は、波動関数の位相の q 依存性の中に入っている。たとえば ψ=eip0q/ℏ は p^ の固有値 p0 を持つ。このため、時間の1階の方程式だけで運動が決まる。Newton の運動方程式が q について時間の2階であるのとは事情が違う。
例題 4.2.1 平面波の群速度は ∂H/∂p ★★
オリジナル自由粒子(V=0)の Schrödinger 方程式 (4.2.6) を考える。
- (1) 平面波 ψ=ei(kq−ωt) が解になるための ω と k の関係(分散関係)を求めよ。
- (2) 群速度 vg=dkdω と位相速度 vph=ω/k を求め、p=ℏk として、群速度が古典の Hamilton 方程式の q˙=∂H/∂p に一致することを確かめよ。
- (3) de Broglie 波長 λ=0.1nm の電子(m=9.109×10−31kg)について、運動量・エネルギー(eV)・群速度・位相速度を求めよ(h=6.626×10−34Js)。
解答
(1) iℏ∂tψ=ℏωψ、−2mℏ2∂q2ψ=2mℏ2k2ψ なので、解になる条件は ℏω=2m(ℏk)2 である。E=ℏω, p=ℏk と読めば E=p2/(2m) で、古典の H の値と運動量の関係そのものになっている。
(2) ω=ℏk2/(2m) を微分して
vg=dkdω=mℏk=mp,vph=kω=2mℏk=2vg.
一方 H=p2/(2m) から q˙=∂H/∂p=p/m で、群速度と一致する。ω(k)=H(ℏk)/ℏ なので、一般に vg=dkdω=∂H/∂p が成り立つ。粒子として動くのは波束の包絡線で、その速さが Hamilton 方程式の速度である。位相速度は粒子の速さの半分で、物の運動とは対応しない。
(3) p=h/λ=6.626×10−24kgms−1、E=p2/(2m)=2.41×10−17J=150eV、vg=p/m=7.27×106ms−1、vph=3.64×106ms−1。光速の約 2.4% なので、非相対論の H で扱ってよい。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com